表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/271

ファーストキス


「ばがああ、かーくんのばがああ……」

 背中に冷たいものを感じる……そして熱い吐息が僕の首筋かかる。

 夏樹の思いが伝わってくる。

 暫く僕の背中で、僕に顔を見られない様に泣き続けた夏樹がそのままの姿勢で話始めた。


「──会長さんから……北海道に行った理由を聞いた後、私もあまねっちも……最初わけがわからなかった……何でって、でも……あまねっち……会長さんに色々と説明している途中に突然泣き叫んだの、全部私のせいだって、今すぐ北海道に行くって」


「え?」


「あまねっち……天、多分心にもない事を言った、なんてかーくんに言ったと思うけど、多分本心だったんだよ、白浜さんが憎いって言葉も、翔に、してあげたのにって言ったのも、全部天の本心……だと思うよ」


「やっぱ、本心……なんだ……」


「そりゃそうだよ……天は自分が一番だって、翔は自分の事が一番なんだって、ずっとずっとそう思っていたのに、浮気されたらそりゃ怒るよね?」


「う、浮気?」


「じゃない? ずっと毎日毎日旦那の面倒を見ていた女房がさあ、マンションで他の女と仲良くしている所なんて見たら、そりゃ修羅場るじゃん?」


「修羅場るって……でも、天は妹で……」


「そうは思ってなかった……って事なんでしょ?」


「え?!」


「あーー、あのね恋愛感情を抱かないからって、恋人とかよりも愛情が無いとか、気持ちが下とか思って無い?」


「え?」


「バカね……天は誰よりも負けないくらい、翔を大事に思ってる……勿論私だって……」


「だ、だけど……家族だからって……結び付きが強いとは限らないだろ?」

 僕は背中に乗っかる夏樹に向かってそう言った。


「そうだね、でもじゃあ逆に恋人よりも強い結び付きの家族もいるって事だよね?」


「それはそうだけど」

 

「全く、まだわかんないかああああ!」

 夏樹はまた僕の首に腕を絡め、再び首を絞めにかかる。


「ぐ、ぐえええええぇぇ」


「毎日毎日家の事をやって、毎日毎日翔の世話までして、この3年弱ずっとやりつづけていた天に、まだそんな事言ってるの? やっぱりバカなの? 死ぬ、マジでここで死ぬ?」


「ぐ、ぐるじいい……」


「翔ってあれだね、主婦の仕事は仕事じゃないなんて思ってる古いタイプの男なんじゃない?」


「お、おもっで、ない、ってか……ぐる、ぐるじい……」


「掃除洗濯食事、全部やった上でさらに翔の世話、そして勉強……おかしくなってるのは自分だけなんて考えてるの? バカなの?」


「……おもっで…………」



「天だっておかしくなるよ、わ、私だって……そこまでしてるのに、たった一言で信用されなくなるなんて……天が可哀想……それに、何? 私だって一生懸命翔の為に色々してあげたのに、まるでいない様な扱い……あれ? 翔?」



「…………」


「おーーーい? 翔? 翔君? え? あれ? あああああぁぁかけるぅぅぅ…………」


 夏樹の声が遠くから聞こえて来る……でも、今僕は死んだお婆ちゃんとコタツに入ってミカンを食べている。

 お婆ちゃんがミカンの皮を向き、白い筋を一つずつ取って、僕に渡してくれる。

 僕は何もしないで、ただただそれを口に放り込む。


「うん、甘いよお婆ちゃん」


「そうかい、でもそろそろ自分で食べられる様にならないとねえ」


「えーーお婆ちゃんが食べさせてよ、ミカン剥くと目に汁が飛んでしみるんだもん」


「そうかい、でもねえ、いつまでも一緒には居られないからねえ……」


「え? お婆ちゃん?」

 お婆ちゃんはそう言うとコタツからゆっくりと立ち上がり、そして僕の横でクラウチングスタートの構えをする……。


「は? お婆ちゃん?」

 

『位置について、よーーい』

 どこからか聞こえて来るスターターの掛け声、そして号砲一発素晴らしいスターターで僕の前から走り去って行く……。

「お婆ちゃん、お婆ちゃんんん」

 僕はお婆ちゃんに向かってそう叫んだと同時に……目が覚めた。


「知らない天井だ」

 エ○ァネタ受けないと思いつつ他に思い付かなかったので、そう呟く。


「かーくん? ああ、良かった生き返った」


「……お婆ちゃん?」


「誰がお婆ちゃんか! ごめんつい本気で絞めちゃった」

 僕にテヘペロをする夏樹……僕はいつの間にかベッドで仰向けになって寝かされていた。


「ああ、落ちたのか……なんか……唇がヒリヒリする……」

 夏樹に絞められ落とされたらしい僕、酸欠でヒリヒリしている唇を手で触る。


「ああ、今人工呼吸してたから」


「へ?」

 酸欠だと思っていたら、夏樹が僕に向かってそう言った。


「私救急研修受けてるから、やっぱりこういう時に役にたつよねえ」


「人工呼吸……えええええ! 人工呼吸って、どうやって?」


「え? 研修通り、気道確保して鼻をふさいで、こう、ふううううううって?」

 寝ている僕の首の後ろに枕を入れ、僕の鼻をふさぎ、目をつむって風船を膨らませる様な顔で僕の顔に息を吹き掛ける……。(正式なやり方はちょっと違うので)


「ま、マジで?」


「うん! 良かったね」

 満面の笑みで僕を見る夏樹……。


「よ、良かったじゃないよおおおおお!」

 僕はもっとも最低なファーストキスを……夏樹と終えた……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=55608073&size=300
― 新着の感想 ―
[良い点] 「ばがああ、かーくんのばがああ⋯⋯」の時になっちゃんがラリアット決めそうですね。
[一言] 円と会長以外のヒロインは話にならんわ
[良い点] なっちゃんさいこー 岬押しから鞍替えしよーかな [気になる点] なっちゃんの発言で『天』だったり『あまねっち』だったりばらばらです。どちらかに統一したほうがよいように。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ