会長のお買い物
ゆっくりとまるで散策を楽しむ老夫婦の様に、僕たちは新宿の街中を歩いて行く。
そして、スーパーモデルと杖を持った若い男子という、この見た目怪しい二人は、周囲の目を気にする事なく歩く。
お互い注目される事には慣れている。
ただ、周囲からどう見られているのかは、少し気になる所。
そして、僕と腕を組んで一緒に歩く会長が一体何を考えているのかも……気になる所。
僕たちは会長の提案で腕を組んだまま、近くの有名スポーツショップに足を踏み入れた。
ここはランニング用品専門のショップだ。
僕も昔何度か来た事があるお店。
店内に入ると新品の服と靴の匂いがした。これもまた懐かしく感じる。
昔の僕なら喜び勇んで店内を駆け回るのだけど、今は場違い感が半端なく、店内入口付近で躊躇してしまう。
しかし、会長はそんな僕に気付いたのか、僕の腕から組んでいた腕を外すと、今度は僕の手を握った。
柔らかく暖かい手が僕の手をそっと包む。
「来て頂戴、貴方に選んで欲しいの」
彼女はそう言うと、笑顔で僕の手を軽く引っ張った。
金髪に赤いワンピースが凄く映える。
そして何か不思議な世界に誘われるかの様に、僕は会長と共に店奥に入って行った。
会長は僕をスパイク売り場に連れて来る。
陸上のスパイク……そう、ランニングシューズは別に陸上競技を本格的にしてなくても買うし、ジャージもウインドブレーカーもそう……、それこそ趣味でランニングをする人なら、ランニングパンツもランニングシャツだって買ったりもする。
まあ、ランニングも陸上競技の一貫と言えばそうなんだけど、とりあえずここでは、陸上競技部と定義しておこう。
そしてユニフォーム(学校名等を注文で入れる)と違い普通に市販されている物の中で唯一、一般の人が買わない商品がある。
陸上のスパイクシューズだ。
一見ランニングシューズの様だが、スパイクはソールが薄く足のつま先から真ん中にかけて、スパイクピンが装着できるようプラスチックと金属製の底になっている。
陸上のスパイクには大まかに2種類存在する。
土用とゴム用の2種類。
専門的にはアンツーカー(土)とオールウェザー(ゴム)で(タータン)と言ったりもする。
ちなみにアンツーカーはフランス語で(En tout cas)と書き、意味は全天候という意味になるので、オールウェザーと被ってしまう為に、タータンと言う商品名で呼んだりしている。
基本的に土のトラックは練習や小さな大会で使用する事が多く、大きな大会、オリンピックではゴムのオールウェザートラックを使用している。
勿論ゴム、オールウェザートラックの方が滑らない分記録が出やすくなる。
スパイクが2種類と言ったが、基本的には兼用でき大きく違う点はスパイクのピンの形状だ。
アンツーカー用は先が尖っている専用の長いピンを主に使い、オールウェザー用は先が細い円柱の形になっている平行ピンを使う事が多い。(例外もある)
どちらも専用工具で簡単に取り外し出来る。
「これどう思う?」
会長はその見た目から、いかにも高級なヒールでも選ぶかの様に展示されているスパイクを手に取ると僕に見せ付けてくる。
「いいんじゃないですか?」
「もう、もっと見て頂戴、宮園君はいつもはどうやって選んでいたの?」
「……まあ、軽さ重視ですかね? 経済的に耐久性もある程度考慮に入れてはいますけど」
「そっか、色とかは?」
「あまり気にした事はないです」
「でも、赤が必ず入ってたよね?」
「……よく知ってますね」
「その……赤色が……好きなのかなって」
「まあ、好きですかね?」
白と赤、縁起物の紅白が好きで好んで着ていた。
「そっか」
会長は何故か軽くガッツポーズをする。
「じゃあ、これ買おっかな?」
会長は着ていた服と同じ深紅のスパイクに白の羽のマークの入った高そうなスパイクを手にすると、レジに向かって行った……、
今日はこの買い物に付き合わせたって事なのか? まあ……文句とか、説教とかではなさそうな会長の雰囲気に僕はとりあえず胸を撫で下ろす。
そして店をぐるっと一回りし、会長は他にも色々と買い込み、勿論荷物持ちは出来ない僕の事を考慮してか、全てを自宅に配送して貰う手続きをして店を後にした
なんかスパイクの話になってしまったので、本日もう1話更新予定です(´・ω・`)ヨテイナノデワカンナイケド
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