宮古島合宿3日目その4(同情と性欲と恋の違い)
食事を終えると昨日17エンドに迎えに来た高級車に乗り込む。
運転席にはメイドさん、俺と円は後部座席に座った。
今日は練習は休み……円の希望通り一緒に観光をすることになった。
正直昨日のことが無ければ楽しめたのだろう……宮古島の圧倒的な景色を堪能できたであろう。
気まずい……とにかく気まずい……何を話していいか俺は悩んでいた。
そんな俺の様子に何か感じたのか? 円は俺の手に自分の手を重ね合わせる。
円の体温が手から伝わる。
不安と幸福感の狭間、そんな思いが俺の中で駆け巡る。
円のことが好きだ……。
それだけは断言出来る。
円も少なからずそう思ってくれているだろう……。
メイドさんの運転で宮古島の名所を回る。
どこに行っても美しい景色が広がるも俺の頭に殆んど入って来ない。
昨日のことでそんな余裕は全く無かった。
大それた事をしてしまったような、なんて事は無かったような……。
思い描いていたような事だったような、全く違う事だったような……。
劇的だったような悲劇的だったような……。
そんな相反することが頭の中で渦巻く。
それでも、円の甘い香り、柔らかい感触、熱い吐息……昨日の出来事が込み上げてくる。
その度に俺の身体がブルブルと震え出す。
もう後戻りは出来ない……。
もう言い訳は出来ない。
俺と円の間にあるしこりのようなもの。
同情している同情されている感覚。
付き合っていてもそれが消え去ることは無かった。
身体を重ねても消え去ることは無い。
同情から始まってしまった恋だから……。
車窓から見える美しい景色、キラキラとした海面の明かりが車の中に射し込み円を照らす。
綺麗で美しく可愛い俺の彼女……。
俺の大切な宝物。
何も考えられない……円のこと以外何も……。
殆んど揺れない車は海を切り裂く橋を渡る。
宮古島の美しい海を渡る大きな橋は3本あるらしい。
一瞬環境破壊にならないんだろうか? そんな疑問が浮かび上がる。
窓の外を眺めていると円がずっと重ねていた俺の手を握る。
俺が窓から円の方に視線を移すと、円はふいっと俺から視線を外した。
円から一瞬違うことに興味を示したからなのか?
円の手からそんなメッセージが伝わった気がした……そしてそう思った時、円の今日の本当の目的がわかってしまう。
円は今日1日……自分のことを考えて欲しいって思い、観光しようと言ったのかも知れない。
場所はどこでも良かったのだろう……観光でも、海でも、プールでも……。
今日1日一緒に居て、そして朝から夜までずっと思い続けろと俺に言っているような気がする。
じゃあ何故メイドさんを伴った観光にしたのか……それは多分今日の朝のせいだろう。
俺に歯止めが効かなくなるから……。
二人に歯止めが効かなくなるから……。
さすがにメイドさんの前ではイチャイチャは控える。
つまりこれは……明日以降への練習……。
そう……明日俺達は現実に帰る。
逃避行は今夜で終わる……そういうことなのだ。
そして俺はそう考えた時ふと思った……そう……今夜のことを。
今夜も……また二人きりの夜が来る。
そう思った時、背筋が凍りつく感覚に陥る。
緊張で全身が強ばる。
昨日は無我夢中だった……今朝は……ちゃんとは出来ていない……。
もう未経験では無いというプレッシャーが俺を襲う。
円はどう思っているのだろうか……そうえいば痛いとか苦しいとか一切言わなかったけど……。
そう思った瞬間、俺は自己嫌悪に陥る。
そうだ……俺は円のことを全く考えていなかった。
初体験はお互いのことだと、心の中でそう言い訳をしていた。
俺は今までずっと言い訳ばかりしてきた。
足が悪いことを理由に妹や夏樹や円に守って貰うことが当たり前のように感じていた。
でも俺は男なのだ、そんな時代じゃ無いと言われるかも知れないが……やはり男が女を守るのが当たり前だと思っている。
足が悪いという逃げ道は既に無い。
円に手を握って貰ってどうする……こんな時気を使うのは男である俺の方だ。
俺は上から握られている円の手を下にひっくり返し上から強く握る。
これからはもっとしっかりしないと、これからはもっと優しくしないと……そしてこれからは俺が円を守らないと。
そう心に強く誓う。
性欲なんかじゃない……こういう関係になってはっきりとわかる。
俺は円が大好きだ、俺は円を守りたい。
ずっとずっと一緒にいたい……。
そうか……もしかしたら円は俺にそれを悟らせる為に……。
円が急いだ目的がなんとなく理解出来た。
そして今夜……もしそうなったとしたら……今度はしっかりリードしなければならない。
俺はそう自分に言い聞かせた。
繁忙期につき更新少なめですm(_ _)m