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恩知らず


「────────さてと、そろそろ帰るか」

 いつの間にか窓の外は闇に覆われていた。

 僕は杖を左手に持ち、ソファーから立ち上がろうとすると、彼女は僕に飛び付いて来る。


「だ、ダメ! まだ全然話して無いよね!?」


「うわわわ、ちょ、ちょ! ままま、待って、近い近いから?!」

 抱き付いたままソファーに押し倒された僕、しかも彼女はキスでもするかの勢いで顔を近付けてくる。

 近い近い、ふわあ、まつ毛長い……ああ、綺麗な唇……。


「どうして逃げるの!?」


「そ、そりゃ逃げるでしょ?! いくら何でも意味がわからないよ!」

 重い重い重い重い、いや体重じゃなくて、思いが重い! 一生って、一生面倒を見るって……そりゃいきなり結婚って意味でしょ? いや、この場合紐か? どっちにしても、おかしいでしょ? 


「私……ずっと貴方の事調べてた……大会に出ていたって情報だけで」

 彼女は僕にのし掛かかったまま、真っ赤顔で見つめる。

 彼女の長い髪が僕の顔にサラサラと降りそそぐ。

 天井からの明かりが、彼女の髪を通してキラキラと輝く。

 本当に綺麗……会いたかった、ずっと会いたかった……でも、今はそんな彼女に見とれている場合ではなかった。


「だ、だけでって? 調べた?」

 何でわざわざ?


「──母に……弁護士の……叔母様に任せたからって言われて……だから何も聞かされなかったから、何も教えて貰えなかったから……」


「ああ……そっか」

 叔母? えええ! あの人女の人だったの? スーツ姿だったから……そう言えば声が高かった気がする。

 色々な事が判明していく。


「ごめんなさい、何度も頼んだの、貴方の事を教えて欲しいって……でも、子供の出る幕じゃ無いって……ママも叔母様も……。

 だ、だから調べた……貴方の事ずっと調べて……そしたら……走って無くて……ご、ごめん……なさい」


 そう言うと今度は彼女がポロポロと泣き始めた。


「私は……取り返しのつかない事をしたって……貴方の夢や将来を台無しにしたって……」


「いや、違うから……だからあれは僕が悪いんだって」


「違う、私が……もっとしっかりリードを握っていれば、公園で貴方に近づかなければ、散歩になんかいかなければ!」


「そんな事無い、君は悪く無い!」

 そう言って僕は彼女の肩を持つと、彼女をゆっくりと起き上がらせた。

 そして彼女を僕の腰の部分に座らせ、彼女の手を握った。

 冷たい手、その彼女の手は小刻みに震えている。


 そこで僕は気が付いた……傷付いていたのは僕だけじゃないって事に……彼女も2年以上の間ずっとずっと傷付いていたんだって事に。

 

「違う……全部……私のせい──だから……だから……私にも背負わせて……貴方の傷を、痛みを、失った未来を……貴方の為だけじゃない……私の……為に……ぐす……ぐす……ふえええええん」

 彼女はポロポロと溢れる涙を袖で拭った。

 その姿に僕は……彼女を見つめ、その握った手に力を込め、告白するよりも……緊張しながら言った。


「──じゃあさ──手伝ってくれる?」

 

「……て、手伝う?」


「僕の……次の夢を見つける手伝い……してくれる?」


「次の……夢?」


「うん……」


「──うん! て、手伝う! 見つけよう! 一緒に、一緒に見つけよう! 宮園君の夢! 私も一緒に!」


「──うん……ありがと……」


「宜しくね」

 彼女は笑った……満面の笑みで……出会った時と同じ彼女の笑顔がそこにあった。

 そして僕は思った……これだって、ずっと見たかったのはこの笑顔だって。

 やっと見れた……その笑顔を僕はずっと見たかった。


 ずっとずっとテレビの中の彼女を僕は見続けていた。その顔を……その笑顔を見たかった。

 僕は多分この笑顔を、一生忘れないだろう。


「こちらこそ……宜しく……」

 

 僕の夢を一緒に探してくれる……一緒に追いかけてくれる……その言葉に僕は涙が出る程嬉しかった……。



 でも……新しい夢って……僕の……新しい夢って一体なんだろうか?



「と、ところで、あの時の子犬は? 助かったって聞いたけど」


「あ、うん勿論、今も隣の部屋にいるよ、連れてくるね!」


「え? ああ、うん……いるんだ」


「絶対感謝してるよあの子」

 とりあえず話せる事は話せたと彼女は僕から離れると、スキップするかのように部屋を後にする。


 僕には元々彼女に対するわだかまりは少ない、だからこうして話せただけで、納得できる。


 でも……心配なのは妹……僕がこうやって彼女の家にいる事を知ったら……どう思うんだろう……。

 あれだけ嫌っている彼女が同じクラスにいるって事を知ったら……。


「チック、ほら! あのお兄ちゃんが命の恩人よ!」

 扉が開くと、彼女の足元から白い犬が飛び込んでくる。

 犬種はわからないが、ドックフードの表紙になるような白い綺麗な犬。

 あの時よりも二回り程大きくなっていたその犬は、僕に向かって突進してくる。


「おお! 生きていたか?!」

 僕は彼女を助けたわけではない、だから彼女が僕に責任を感じているのは少し違うって思っている。


 でもお前は、僕に感謝してもしきれないだろう。


「きゃおおおおおん」

 

「チックって言うのか?! よし来い」

 僕は手を広げチックを迎え入れる。


 これが本当の恩人との再会だ。



 しかし……



「────あ、あの……こいつ僕を恩人って思ってない……みたいな」


「がるるるるるるる」


「あああああ! ち、チック!」


「あの……すいません……チックさん……痛いんですけど……」

 僕の胸に飛び込んだチックは、そのまま唸り声をあげながら、僕の腕に噛みついていた。


「こ、こらあああ、チック、この恩知らずーー!」


打ちきりなら、ここで終わりでした。(笑)


2000件を越えるブクマありがとうございます。

まだ続きますので、引き続き応援の程宜しくお願い致します。


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― 新着の感想 ―
[一言] 恩人どうこうを覚えてるかどうかよりもしかして飼い主が泣いてた→泣かしたのテメーか!ってキレたのか?犬よww
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