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僕は気付かされた


「ごめんなさい」

 彼女は左手を右手の上に置き身体の前で重ね、そして綺麗な姿勢、美しい所作で深々と頭を下げる。

 綺麗で美しい髪がサラサラと彼女の肩から流れ落ちた。

 

 その彼女の立ち居振舞いに、僕は目を奪われる。

 これが正しいやり方か、僕にはよくわからないけど……。


「いや、そんな……謝って貰う事なんて……」

 ……そう、僕は彼女に謝ってなんて欲しくなかった、思わず目を奪われてしまったけど、彼女のそんな姿見たくなかったから……。


 彼女は深く頭を下げたまま暫く制止していた。ピクリとも動かず、まるで号砲を待つ短距離選手の様に……そして、数秒間の静止の後、ゆっくりと頭を上げた。


 彼女は本当にすまなさそうな顔で僕を見る。

 僕は小さく首を振った……そんな事しなくて良いからという思いで。

 でも、彼女はそんな僕を一度見ると、今度は僕の前にゆっくりと跪く(ひざまず)そして……ソファーに腰掛けている僕に近づくと、曲げられないで伸ばしている右足に自分の右手を添えた。


「──ごめんね……こんな事になって」

 フルフルと小刻みに彼女の手が震えているのがわかる。


「……いや、僕が悪いんだ……飛び出した……僕が……」

 そう……あれは全部僕が悪い、僕は陸上ばかりで普段から周囲を見ていなかった。

 あの時だって走る事に気を取られ、僕の走る姿を見せつけようとして、何も見ていなかったのが原因、日頃の行いのせい。


「ごめんね……貴方の夢を奪って……」


「っ……」

 彼女の言葉が僕の胸に突き刺さる。

 彼女は真っ直ぐに僕を見つめる。


「ごめんね……貴方の将来を奪って……」


「……く……」


「痛かったよね……辛かったよね、ごめんね……私のせいなのに……側に居てあげられなくて……」


「ふ、ふ……うう……う」

 今まで何があっても泣かないって……そう思っていた。

 子供の頃からの夢が叶わないってわかっても次を探せば良いってずっとそう思っていた。


 でも……見つからなかった……そんな簡単に見つかるわけが無かった。

 好きだった……別に記録とか、オリンピックとか、それこそ……夢とか……どうでも良かったんだ。

 僕は……気がついた……彼女に謝られ、抱き締められた今、気が付いた。

 そう……僕は好きだったんだって、ただ走る事が好きだったって……そして……それはもう……出来ないって事に……今……本当に気付かされた。


「う、うう、ううううぅ、く……」

 涙がポロポロとこぼれ落ちる……泣かないって絶対に泣かないって思っていたのに……。


「ごめんね……」

 そして……僕はずっと……彼女に会いたかった。

 (うら)みとか、憎しみとかではない……ただただ、会いたかった。


 涙を流す僕の頭を彼女はそっと抱き締めてくれた。

 

 彼女の匂いが柔らかさが僕を包む。

 彼女の暖かさが僕の心を溶かす。


「う、ううう、ぐ、ふう……」

 ああ、僕は最低だな……泣いたら彼女が益々責任を感じてしまうのに……彼女は悪く無いのに……でも、なんかホッとした。


 謝ってくれたからじゃない、僕の事を覚えてくれていた事に……僕は心の底からホッとしていた。




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