BBQ
円は予め用意周到してあったパーカーを水着の上から羽織る。
僕もTシャツを着た。
水着のままで食事ってなんだか変な感じがしていたので、これで一先ず落ち着いた……決して着替えるのを忘れていたわけではないからね!
テーブルの上には多分虫よけの為なのかキャンドルが置かれていた。
揺れる炎が辺りをそして僕と円照らし、どこか幻想的な雰囲気が醸し出されている。
未成年の僕達の席にお酒は無いので、円と改めてジュースで乾杯をし、テーブルの上に置かれたオードブルに手を出した。
まず最初に食べたのは、クラッカーの上にサワークリームと黒い粒々が乗っている物だ。
これは……おそらくキャビアなんだろうけど、初めて食べたのではっきり言って味はよくわからない……少し塩っけが強く磯の香りがする?
こういった高級な味は僕にはわからない、だけど円は食べなれているのだろう
か? キャビアを美味しそうに堪能している。
その円の美味しそうに食べている姿を眺めていると、メイドさんが側にあるバーベキューコンロで焼いていた柔らかそうなお肉を運んでくる。
そして、その場で丁寧に切り分けお皿に乗せ僕達の前に運ぶと一礼して隣の席に持っていく。
隣からは歓声が聞こえてくる。
こっちもお肉を目の前にして円の顔が満面の笑みになる。
僕の前でいつも美味しそうにご飯を食べる円に思わず聞いた。
「食べるの好きなんだね?」
北海道の時もあんな状況なのに海の幸を美味しそうに食べていた。
円とは最近ちょくちょく一緒に食べている。
円はなんでも美味しそうに食べているのだけど、思えば円の好きな物ってなんだろうか?
いや、そもそも円って嫌いな物とかあるんだろうか?……もう数ヶ月毎日の様に会っているのに、僕は円の食べ物の好みを知らない。
それこそ趣味はあるのだろうか? そう言えば部屋では何か見ているらしいけど……。
「ん? うーーん」
ナイフでお肉をさらに小さく切り分け、口に運ぶのを止め、僕の何気無い質問に考え込む。
「ん?」
何故そんな事で考えるのかと疑問に思っていると、円から思わぬ答えが帰ってくる。
「そう言えば、最近……味がわかるなあ」
「え?」
それって……どういう意味?
僕が疑問に思うと円はその言葉ぼ説明をし始める。
「えっと、前はね、食べ物の味なんて殆んどしなかったし、興味無かったの」
「そ、そうなの?」
「うん、生きる為に食べていただけだったからなあ……」
円からとんでもない答えが帰ってくる。でも……僕はそれほど驚かなかった。
自分もそうだったから……走る為に食事をしていたから。
味とか関係無かった……むしろ味の存在が邪魔だった。
「そう……なんだ」
「うん、いつも一人だったし、とにかく忙しかったからねえ、やっぱり一人で食事するより皆と……ううん、翔くんと食べるから美味しいんだねえ」
円は止めていた手を再び動かし肉を頬張る。
幸せそうな顔で……。
僕もそうだった。怪我をして妹の作ってくれた料理を一緒に食べる様になって、そこで美味しいって思う様になった。
そして……円と食べる様になって……楽しいって思う様になった。
「えっと……そう言えば勉強しなくて良いの?」
「明日からするよ、朝勉強して昼はまた海で遊んで夜に勉強」
「昼は遊ぶんだ」
「一日中やってられないでしょ?」
「いや、まあ……そうなんだけど……」
そう言いながら僕は妹をチラリと見る。
相変わらず幸せそうな顔でキサラさんとイチャイチャしている妹、昨日までは受験勉強がうまくいっていないせいか、元気が無かったのに……。
元気が出て来たのは良いけど、この大事な時期にこれって現実逃避なのでは?……そう思うと不安が過る。
「──天ちゃんならキサラに任せて置けば大丈夫だよ」
僕の不安そうな顔を見て円は僕から目線を隣の二人に移して、ため息混じりにそう言った。
「え?」
「まあ、その為に天ちゃんをここに連れて来たんだから、ホント苦労したよ」
パーカーの袖をまくり腕を擦る。ほんのりと青くなっている円の腕……日焼け跡ではなく、打ち身の跡。
「だ、大丈夫なの?! ご、ごめん」
円の美しい肌に傷が、多分妹の攻撃を受けた時の物と思われ僕は慌てて謝った。
「ああ、全然だよ、こんなの前の時に比べたらね」
「前の……時?」
「あははは、まあね~~」
前の時ってひょっとしてこの間お腹が痛いって言っていたあの時の事?
「……それにしても……心配」
「ふふ、とりあえず天ちゃんをここに連れて来れれば、もう合格した様な物だから、後はキサラに任せて置けば良いだけ」
「そうなの?」
「うん、だって彼女は……」
円はイチャイチャしている二人を見て、何故か残念そうに呟いた。
そしてその言葉に僕は唖然とした。
キサラさんの学歴に僕は衝撃を受けた。
そして、その円から呟かれたキサラさんの学歴、経歴の本当の意味を知るのは、来春の事になる。




