扉の前の貴女は
吹く風が塩辛く強い、目を開けようとするがそれすら阻むほどの風が身体に刺さる。建築物の多くが潮風により錆び、町全体が冷たく冬眠している様だ、今日私はこの町で看護師になる。
「一弦〜荷物、部屋の奥の方に置いておくから、ちゃんとすぐに荷ほどきしなさよ!」
「わかった、ありがとう」
母の声が聞こえる。実家から遠い大学に通うことになった、私は一人暮らしをするために両親に引っ越しを手伝ってもらっていた。一通り引っ越し作業は全て終わり母と父は実家に帰る準備を始めた。
「一弦、毎日とは言わなけどちゃんと掃除して、食事にも気をつけなさいよ」
「わかってる気をつけるよ」
母は昔から過保護気味なところがあるが、とても優しくいつも私のことを気にかけアドバイスをくれる。いい母親だと私は思う、私には釣り合わないほどに…
「それじゃあねたまには連絡ちょうだいね〜」
私は黙って手を振り両親を見送る。
「さてと」
私は一息つきヤカンに水を注ぎ火にかける。高校時代からコーヒーを飲むことが習慣だった私は慣れたてでコーヒーをいれる。
「そうだ隣の人に挨拶に行かないと」
昨今防犯の観点からアパートへ引っ越した後となりの住人への挨拶は推奨されていないが、不動産の担当してくれた人曰くこのアパートは女性専用であり防犯面もある程度保証されている様なので挨拶に行くことにした。しかし問題が一つある。私は内弁慶で初対面の人と喋ることが極端に苦手なのだ。しかしこれから一人で暮らして行く身なのだから挨拶くらいできるようにならなければ
ピンポーン
そんなことを考えていると家のチャイムがなった。インターホンを覗くと軽くウェーブがかった明るいブラウンカラーの女性が扉の前に立っていた。私はドアのチェーンと鍵を外し扉を開ける。すると女性が自身の髪色のような明るい声で話す。
「隣に引っ越してきました若鳥一乃です。これからよろしくおねがいします」
処女作です。はっきり言うと見切り発車で始めてしまった物語なのでどう着地するか筆者にもわかりません。是非お暇でしたらこの二人の成長を見守ってください。