散花よ永久に流離え
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散花よ永久に流離え
作:狩屋ユツキ
【くノ一♀】
とある忍の里のくノ一。
【忍♂】
とある忍の里の忍。
【赤子】
くノ一と兼任。
とある家の生き残り。
10分程度
男:女
1:1
くノ一・赤子♀:
忍♂:
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くノ一「仕事は終えた。あの家の者は全て殺した。老若男女全てだ。里に戻るぞ」
忍「……」
くノ一「もう一度言う。里に戻るぞ」
忍「…………」
くノ一「では問おう。……貴様何故、仕事を終えたというのに里の方ではなく、別の方へ行こうとしていた」
忍「……俺は」
くノ一「……まさか、何かやり残しがあったとでも言うつもりはないだろうな」
忍「……俺は、忍をやめる」
くノ一「……は?」
忍「もう一度言う。俺は忍をやめる。抜け忍となって、普通の暮らしを取り戻す」
くノ一「何を……言って……。……貴様、気でも触れたか!!!!」
忍「俺は正気だ!!もう忍はやめる、今夜そう決めた。俺には忍は向かぬ、ただの男に過ぎないと!!」
くノ一「……抜け忍は大罪。その罪は死を持って償うべし。その掟を知ってのことだろうな」
忍「無論だ」
くノ一「ならば見逃すわけには行かぬ!!刀を抜け!!今ここで断罪の刃にて貴様を誅す!!」
忍「やはり幼馴染だからと見逃してくれるわけもないか……。いいだろう、受けて立つ」
くノ一「はああっ!!……幼き頃からっ(斬りかかる)貴様を見続けていた私だからこそっ(斬りかかる)貴様を見過ごすことは出来ぬ!!(斬りかかる)」
忍「くっ……!!……そうよな!!(斬りかかる)お前はそういう女だった!!(斬りかかる)いつでも任務に忠実で!(斬りかかる)氷のような目をしていた!!!(斬りかかる)」
くノ一「うぐっ……!!」
忍「どうした、もう終わりか」
くノ一「あああああ!!!!」
忍「おおおおおお!!!!!」
くノ一「忍は!!!(斬りかかる)人にあらず!!(斬りかかる)任務に忠実な人形であるべし!!(斬りかかる)貴様ほどの男が、何故、何故、此度抜け忍など!!!(斬りかかる)」
忍「その人形でいることができなくなったのだ!!(斬りかかる)俺はただの男だった、忍のような冷徹さを持ち得ることが出来なかった!!!(斬りかかる)」
くノ一「貴様は誰よりも任務に忠実だった!!(斬りかかる)時には私が嫉妬するほどに完璧な……!!!(斬りかかる)」
忍「繕っていただけよ、上っ面をな……!!(斬りかかる)それが今宵剥がれた、なんの不思議もあるまい!!(斬りかかる」
くノ一「くっ、……はあ、はあ……。何故今日に限ってそのようなことになった!!何か切っ掛けがあったのであろう!!!」
忍「はぁっ……、……切っ掛けなど無い。ただ単に盆の水が溢れただけのこと。それだけの……」
赤子「(遮るように)うぎゃあ!!うぎゃあ!!」
忍「しまった……!!当身を食らわせたが加減がわからず弱めたのが仇となったか……!!」
くノ一「赤子……?……まさか貴様、よりにも寄ってあの家の赤子を匿うつもりであったか!!!」
忍「……如何にも。あの赤子の母親は最期まで赤子を抱きしめて離さなかった。あの赤子は母親に最期まで守られていた。あのような赤子を殺すくらいなら……殺さねばならないような任を受ける忍という過酷さは、俺には向かなかった、それだけのことよ」
くノ一「情に溺れたか!!恥を知れ!!」
忍「俺は今宵、忍をやめると決めた。あの赤子は俺が守る。あの家の者ではなく、何者でもない、ただの赤子として俺が育てる」
くノ一「……」
忍「見逃してはくれぬか」
くノ一「くどい」
忍「頼む、見逃してくれ。お前を殺したくない……お市」
くノ一「抜け忍となる貴様がその名を呼ぶなああ!!!!!(斬りかかる)」
忍「ぐっ(受け止める)」
くノ一「私は!!私は里の一族!!(斬りかかる)掟を守り(斬りかかる)、任をこなし(斬りかかる)、ただの駒として生きて死ぬ!!(斬りかかる)その生き様を誰にも汚させはしない!!!」
忍「ならばその心意気を抱いたまま死んでもらう!!誇り高きくノ一として、俺がお前を殺してやる!!!(斬りかかる)」
くノ一「くぅっ……!!!!」
忍「もらったァ!!!!!」
赤子「おぎゃあ!!おぎゃあ!!」
長い間
くノ一「……何故、殺さぬ」
忍「……」
くノ一「何故殺さぬ!!!!」
忍「……」
くノ一「情けなどいらぬ……私はお前には敵わない。とうに知っていたことだ……。剣技も、忍術も、ひとつとてお前に敵うことはなかった……。その切っ先をそのまま進めれば私の喉笛を突ける状態にありながら、何故その切っ先を前に進めない」
忍「……お市、俺は」
くノ一「その名を呼ぶな」
忍「俺は、お前が好きだ」
くノ一「……」
忍「どうか一緒に来てはくれまいか」
くノ一「……佐助」
忍「二人で、あの赤子の親となろう。追っ手も我ら二人ならば退けられよう。だからどうか」
くノ一「……甘いな、佐助」
忍「……」
くノ一「……そして器用だな。……思えば昔からお前は器用だった。何に対しても要領よく振る舞っていた。次代の里の主として見られていたのも頷ける」
忍「お市……」
くノ一「だが、私はそう生きられぬ」
忍「お市……!!」
くノ一「さらばだ、佐助。……私も、お前を好きだったよ。達者で、暮らせ」
忍「お市……!!」
長い間
くノ一「(かすれ声で)……何故、私は生きている……?」
忍「ようやく目が覚めたか」
くノ一「(かすれ声で)佐助……?!あの時私は喉を突いたはず……死なねばおかしいだろう!!」
忍「咄嗟に俺が刃を引いたのだ。だからお前は死なずに済んだ。とはいえ、元の声は戻らぬがな」
くノ一「(かすれ声で)……はは……私も抜け忍となったというわけか……あのまま死なせてくれればよかったものを」
忍「子を育てるには手がいる。今はよく寝ているが夜泣きも酷い。お前が居なければ睡眠もままならぬ」
くノ一「(かすれ声で)……あの時、私は一度死んだのだろう。……生まれ変わって、今はあの赤子をお前と一緒に育てるのも悪くないと思っている」
忍「お市」
くノ一「(かすれ声で)佐助。こんな私だが……そばに置いてくれるか?任に生き、任に死んだお市はもうおらぬ。今いるのはただのお市。包丁一つまともに握れぬ、落第点の嫁だが……」
忍「……ここにいるのは仕事一つままならぬただの佐助よ。……我らは共に生き、共に死のう。どうかそれを許してくれ、お市」
くノ一「(かすれ声で)……赤子の名は」
忍「ん?」
くノ一「(かすれ声で)赤子の名は、なんとする」
忍「ああそれならもう決めてある」
間
忍「我らを結ぶ絆の糸。お糸だ」
了
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