9.歪んだ視界に映るものは
キャロラインが優雅にお茶を楽しんでいると、アレキサンダーが現れた。
キャロラインの向かい側に座り、喜ぶ様に目を細めた。
「キャリーは今日も綺麗だ」
「アレク様も素敵ですわ」
うっとりとキャロラインはアレキサンダーに熱い視線を送る。
アレキサンダーも負けず、キャロラインに恋慕に満ちた目を向けている。
リアナが消えてから、ずっとこうだった。
邪魔者が消え、障害物が無い今、二人きりの世界を構築している。
リアナの犠牲の上に成り立ったものだと理解せずに。
二人が結ばれることは決まり事であり、予定調和なのだと驕っていた。
戯れにリアナの悪口を口にする程には。
「アレク様、最近忙しそうですわね。これもあの悪女のせいね」
アレキサンダーは今迄、自分の仕事をリアナに押し付けていた。
これも王妃教育の一環だから、と都合の良い言葉を添えて。
地に足のついた無謀で無く、国民の為に打ち出された政策は表向きはアレキサンダーの発案であり、国民からの支持は高い。
だが、それらは本来ならばリアナの手柄だ。
「あの女の政策は地味な物が多い。先を見据えた、なんて聞こえはいいが今が大事だ。そうだろう?」
「えぇ、そうですわ。結果が出るのは先、だなんて大事な血税ですもの。今に還元しなければ意味ありませんわ」
くすくすと嫌な笑いが零れ落ちる。
それに、とキャロラインは目を細めた。
(平民の為にあれこれするなんて貴族の顰蹙を買うわ。貴族を優先してそこから勝手に領地に還元して貰えばいい)
貴族を潤せば、滴り落ちる蜜でその領地も良くなるだろう。
キャロラインとアレキサンダーの考えは同じだった。
「治水工事や道の整備など国が関わらずとも領主の仕事だと一喝入れれば良いものを、あの女はわざわざ国庫から出していた」
アレキサンダーにはリアナの考えなど理解する気も無かった。
なのでリアナを排してから、自らが国事に関わる様になった時に即座に打ち切った。
だから、リアナがお金を回していた地域が貧しく、貴族達が見放した土地だと気が付かなかった。
リアナの政策で国から見放されて生きる事に精一杯だった地の人々から多大なる感謝と滞っていた納税があった事も知らない。
それに、リアナは痩せた地でも育ちやすい作物の種や新しい農具を送っていた。
目先の利益より、より先の事を考えた上で。
これは彼女自体が元々裕福と言えない土地で育った為に思いついた事だ。
誰もが平等に、飢えずに生きていく為。
国が国民を蔑ろにしていては栄えないと、齢十二にして理解していた。
アレキサンダーはただただ、蔑んだ。
「あの女の部屋には華やかさの欠片も無かったな。食べれる野草だとか育てやすい作物だとか、農業の基本だとかそんな本ばかり」
「あら、王妃ではなく農民になりたかったのかしら」
キャロラインもアレキサンダーも、結局のところ人の上に立つ者。
種を撒けば芽が出て、勝手に育つと思っている。
「まずは私達貴族が潤わなければ意味ありませんわ」
平民などただの駒。そう言い出しそうなキャロラインにアレキサンダーも同意した。
親が居れば子が生まれる。
国民は替えが効くもので減っても補充されるのだと信じて疑ってはいない。
遠くない未来、重い税の負担で国民が飢え、救いを求めて隣国に流れるなどと全く思っていない。
自分達の事しか見えず、考えることの出来ない歪んだ視界には、力無きものの上に成り立った世界でも尊いものだと映っているのだろう。
崩壊は始まりつつある。