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63.正しさとは


普段と様子の違うリアナに、ジャンも声を掛ける事が出来ずにいたが、当の本人から「仕事しなきゃ」と急かされ、有耶無耶にされる。


追い立てられ、あわあわとそれぞれ洗濯物を回収しに行く。

リアナは眼鏡の奥で忙しなく視線を動かしながら、ジャンの後ろを歩いた。


昨日の騒ぎの痕跡が至る所に残っている。

割れた窓に、砕けた照明器具。外れた蝶番。扉には穴が空いている場所もある。


「酷いわね」

「そうだね」


思わずリアナが溢した感想に、ジャンも同意する。同意せざるを得ない。

惨状が広がっていたのだ。一体何人で乗り込んできたのだろうか。


僅かに顔を顰め、リアナは呻いた。


「この国はもう駄目ね」



**



「……もういい、下がれ」

「ですが」

「下がれと言ったが?聞こえなかったのか」


顔色の悪い騎士団長を追い返したのはアッシュム王国の第一皇子であるアレキサンダーだ。バタンと音を立ててしまった扉に舌打ちをする。


「役立たずが……。賊に侵入を許し、何人かはすんでのところで逃したと言う。腑抜けの集まりだったのか?」


どかりと革張りのソファーに背中から倒れ込み、大きなため息を落とす。

今この部屋にはアレキサンダーのみ。いくら気を抜こうが、誰にも咎められない。


国は荒れ、民が流れ出ていく。

人が減っても、税は減らさなかった。


「どれもこれも、あの女のせいだ!」


すっかり冷えた紅茶を啜り、空になった杯を壁に投げた。あっさりとそれは砕け散った。


アレキサンダーは、今でも夢で見る光景がある。

死を目前にし、虚ろに自分を見上げた一対の瞳が、己の心を逆撫でする、そんな夢を。


後悔はしていない。神子だと選定された少女を処刑したことを。

記憶に強く焼き付く少女の怨みで国が崩壊しているのだと、アレキサンダーはなすり付けをしているだけに過ぎない。


もし、またあの少女が目の前に現れたら。

今度も変わらず。


「また、殺す。神子がなんだ。俺は、この国の第一皇子だ」


やけに胸騒ぎがする。

それを無視し、アレキサンダーは目を閉じて、奥歯を強く噛んだ。


「俺が正しいんだ」


だって、王族なのだから。

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