62.不信感
翌日、出勤したジャンを待ち構えていたのは、疲弊した面持ちの騎士数人だった。
困惑しつつ、ジャンは恐る恐る声をかける。
「あのぉ……?」
「昨日、城に入り込んだ暴徒を捕らえたのはお前か?」
「人手不足なんだ、騎士見習いで来い」
無理矢理腕を掴まれ、荒々しく連れていかれそうになるジャン。
ライルとメリーは呆然としていたが、すぐに我に帰ると異論を唱えようと口を開こうとしたが、リアナがそれを制する。
「アナ?」
「私に任せて」
瞳の色を隠す為にかけているメガネを指で押し上げ、リアナは必死に抵抗しているジャンの元へと近寄る。
「兄を離して」
「なんだこのチビ」
ジャンの腕を捕まえている男が、近付いてきたリアナを睨み付け、空いている腕を伸ばす。
腕を掴まれているジャンはもがくが、手は届かない。
「離して、と言ってるの」
リアナの顔を見て、男は手を止めた。
思わず、と言った様子で。
次第に男の顔色は悪くなっていく。まるで、対峙している少女に恐れている。
「感情に呑まれて、衝動に身を任せるなんて、したくないの」
「ひ、ひぃッ……」
淡々と距離を詰めてくるリアナから逃れようと、足をもつれさせながら男は後退していく。共に来訪していた他の騎士は、少女如きに何を怯えているのだと嘲笑う。
彼女の逆鱗にこれ以上触れたくない男は、ジャンの腕から手を離す。
「そこの貴方達も、私から兄を奪わないで頂戴」
「ガキがなにを偉そうに」
「ただそれだけのお願いも聞けないの?」
こちらには勝手に願うのに。
色付きレンズの奥で、リアナの瞳は細められた。睨まれた騎士達はびくりと体を強張らせ、ゆっくりとリアナから距離を取った。
「今回だけ見逃してやる!」
わあわあと喚きながら騎士達は逃げ帰っていった。その後ろ姿を冷ややかに見つめるリアナ。
「アナ、ありがとう……」
「凄いね、アナ。ちょっと怖いくらいだったよぉ」
ジャンはいつもと少し様子の違うリアナに恐る恐る声を掛ける。機嫌が悪いのだろうか、と不安になる。
その後に続いたメリーの声に、振り返ったリアナは口元だけを笑みの形を作っていた。
「釘、刺しとかないとね」
眼鏡越しの目は、まるで笑っていなかった。何かを警戒している。




