50.歩みを止めない
軽口を叩く余裕は無く、沈黙だけがお供だった。時折、馬がぶるると息を鳴らしては沈黙を蹴散らす。
後ろに流れていく景色は、見ていて楽しいものは無い。まるで灰色。色彩の欠いた、絶望だけがのさばる世界。
生きているか、死んでいるかわからぬ人々が地面に転がり、道の隅で壁にもたれ掛かり。どこもかしこも地獄が広がっている。
馬車とすれ違ったり、遠目に眺める事もあった。
街の様子に、まるで反応せず、見て見ぬ振りをしている。酷いと、道の真ん中で力尽きた身体を容赦なく轢いていた。
せめてもの幸いは、リアナにはまともに見えていない事くらい。
ジャンは厳しい訓練の中、飛ぶように走る馬を駆り、落ち着いて辺りの状況が見えるよう仕込まれていた。なので、ジャンには見える。思わず顔を顰めてしまう。
「ジャンさん、ごめんね。連れてきてしまって」
漸く口を開いたリアナは、ジャンに気を遣っていたらしく。目を彷徨わせ、口を引き結んでいた。
「僕が着いてきたんだよ」
「でも、一人でも来れた」
「そんな事言わないで、リアナの側にいたかっただけなんだし」
「その言い方はね、ずるいと思う」
そしてまた、沈黙が顔を見せる。
ジャン自身、自分で無意識に蓋をしてしまっているので、リアナに対する気持ちをきちんと理解していない。
守るべきものと定義する相手への気持ちは、一つではない。妹の様だと思っているが、その影に隠れた気持ちもある。
ぱた、と目を伏せる。リアナはもうなにも言わず、景色を見るのも、やめた。
悲しかった。悔しかった。辛かった。
何もかもが無くなりそうな祖国を前に、笑っていられなかった。
それでも、リアナは止まらなかった。
……止まれなかった。見捨てるわけにはいかないと、歯を食いしばった。
50話まできました。




