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5.国境をあっさりと超える


首と胴がくっついて、一つになり。

縫い目を隠す様に包帯を貰い、綺麗な服を受け取った。


湖で身を清め、服を着る。


斬首される前、無残に切り落とされた髪はジャンがぎこちなくハサミを入れ、おかしくない程度に整えてくれた。

命の色と呼ばれたリアナの温かな紅の髪は、毛先が黒く染まっていた。


首を落とされた際、血に染まってしまったのだと思い、湖で汚れを流そうとしたが、色素が沈着してしまっていた。

顎の下くらいで切りそろえられた姿を水面に写し、確認する。


「変じゃない?」

「大丈夫だよ」


リアナは毛先を摘んで、ジャンに向く。

ジャンは真面目腐って頷いて見せた。


それから、ジャンの手を借り、森を抜けた。

獣道を掻き分け、背の高い草を踏み、進む。裸足のリアナに、靴を持って来なかった事をジャンは悔いていたが、仕方の無い事だ。

背に負ぶさってくれ、と言われたがリアナは固辞する。歩けるから大丈夫。


数時間休まずに森を歩き、やっと外に出た時、日は沈みかけていた。

夕日にリアナの髪は溶け込む様だった。


「疲れてない?」

「不思議なことに全く」


実際、リアナは息切れもしていない。

そもそも、呼吸をしていないのだが、まだリアナもジャンも気が付いてはいない。


早めに騎士団に戻りたいとジャンが言うので、リアナはそれに従う。

近くに馬を繋いでいたらしく、リアナを前に乗せ、ジャンも跨った。


リアナを片手で抱くと、ジャンは馬を走らせた。

初めて乗る馬に、リアナは高揚を隠しきれない。王宮にいた頃は、勉強漬けで馬に乗ったことは無かった。


村で育ち、有無を言わさず王宮に連れて行かれ、勉強漬けで王宮に閉じこもっていたリアナは、見たことが無いもので溢れる世界に釘付けだ。


小さな町をいくつも駆け、野生動物が住う荒野を抜け、夜でも活気溢れる街に着いた。

絶えず瞳を輝かせているリアナを眺め、ジャンはくすりと笑う。

まるで子供だ。リアナはくるくると表情を変えていく。


「楽しい?」

「えぇ!世界ってこんなに広いのね!」


世間知らずのお嬢さん。

リアナを形容するにぴったりの言葉だ。


うっかり口を突いていたらしい、リアナはちらりとジャンに目を向けた。


「本や、話でしか知らないんだもの。村でも、王宮に連れて行かれた後も、外に出してもらえなかったから」

「今までの君のこと、聞かせてくれるかい?」


そうして、ジャンに請われるまま、今までの事を話した。


両親は幼い頃、村の外で魔物に襲われて命を落とした。

村の人達の手伝いをし、衣類やご飯を分けてもらっていた。村は貧しくは無かったが、身寄りのない子供を世話する余裕があるとも言えなかったのに見捨てずにいてくれた。


七歳の時、神子を探して村を訪れた教皇に見出され、王宮に引き取られた。

それからはずっと、王宮内で勉強漬けの毎日。外に出る事は許されず、机に向かうばかり。

魔法の使い方さえ教えてくれないままに、神子の力を発揮しろと言われ、何もできずにいると神子を騙ったととんとん拍子に捕まり、捕らえられ、首を落とされた。


そして、ジャンと出会った森で目を覚ました。

首と胴が離れている状態で。


ジャンに、まだ十二歳なのだと告げた時が一番驚いていた。


「十二歳、で…処刑か」

「まだいたいけな少女なのに稀代の悪女なんてあんまりだわ」


乾いた笑いを落とし、リアナは堪えきれず悪態を吐く。

ジャンは諫める事もせず、黙っていた。


ちなみに、リアナを見出した教皇は運の悪い事に数年前に命を散らしている。突然の死だった。

計画的なのかどうかは分からない。死因も知らされなかった。


「城に戻ったら、騎士団総長に挨拶しに行こう」

「はぁい。挨拶、挨拶ね」


リアナはこくこくと首を縦に振る。

見上げた空には満天の星が輝いている。


粉砂糖をまぶした様な星空を仰ぎ、リアナはこれから先のことを考えた。


(どう頑張っても静かに生活出来そうな気はしないけど、まぁ、なんとかなるでしょ)


一先ず、ジャンの上司、騎士団総長に挨拶から始まる。


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