4.二つが一つになる
最初の方生首です。
リアナは、まだ膝に首を乗せて座っていた。
ジャンと目が合う。
「ウワァァァァ!!本当ビックリするから!辞めて!」
「ごめんなさーい。手芸道具持ってきてくれた?」
ジャンは腰は抜かさなかったが、数歩後退りした。草は背が高く、ジャンの腰くらいの高さがある。
ジャンの両手は草に紛れ、手芸道具を手にしているかどうかは見えない。
リアナはそわそわと身体を揺らす。
膝に乗せた首をそっと持ち上げ、胴に乗せる。
「持ってきたよ。包帯と服も」
「優しい騎士様ありがとう!」
「どういたしまして」
ジャンは右手を上げ、裁縫箱を掲げた。左手には膨らんだ布の袋を持っている。
その袋に包帯と服が詰まっている。
リアナは受け取ろうと手を伸ばしたが、ジャンは右手を高く挙げてしまった。リアナはまだ幼く、背が小さい。
「嫌がらせ?」
「違う。聞きたいことがある」
片手で器用に首を押さえながらリアナはジャンを見上げる。
ジャンの顔は能面の様にのっぺりとしている。
風が草木を揺らし、葉が擦れた。
「君は、アッシュム王国で、神子を騙って処刑された少女だよね?」
「ルババグース王国にも、もう話がいってるなんて…。噂雀使ったのかしら」
噂雀とは、噂を瞬く間に広める人達の俗称である。
至る所に噂雀は存在し、金を渡せばどんな話でも流してくれる。ルババグース王国にも話を流したかったのだろう。
何故かはリアナには分からない。
リアナをとことん悪女として扱いたいのかも知れない。
仮に、リアナが神子として覚醒した後、何処にも逃げ場が無い様に手を回しているのかも。
「真実なんだね?」
「この姿で言い逃れは出来ないですしー」
両手で頭を掴み、持ち上げて見せる。
もういいから、とジャンは渋い顔をした。
「もし君が生きていると分かればアッシュム王国は神子が覚醒したと君を連れて行くだろう」
「一回処刑したのに?面の皮厚くない?」
「うん、まぁ…。大人は卑怯だから」
リアナは祖国に帰るつもりは更々無い。
勝手に祀りあげて勝手に期待して、邪魔だからと処刑されて。
怒らない訳が無いのだ。
「帰りません!ジャンさん、匿ってもらえたり…」
「流石に無理だね。とりあえずルババグースに行こう」
漸くジャンから裁縫箱を受け取り、首と胴を縫い合わせた。
不思議なことに痛覚が麻痺していたのか、切断面付近に針を刺しても痛みは無かった。
近場にあった湖の水面を鏡代わりにして縫っていたが、後ろ側はどうしても手が届かず、嫌がるジャンに頼み込んだ。
「嫌だ!」
「私まだ生首なんですよ!」
「針持ったことないし…」
「ほら早く」
口論している間に首が前に倒れてしまう。
ジャンは諦めてぎこちない手付きで縫い合わせた。