39.ふたりの葛藤
ジャンが帰宅し、リアナとシムは、就寝前の座学を開始する。
リアナはまだ幼く、力の制御が下手だ。
時の巻き戻しと回復だけは思いのままに出来るが、おいそれと使えるものでは無い。
魔法が貴重になった今では、それは誰もが欲するもので、この力が露見したらリアナの身はモノ扱いされる事だろう。
神子だろうが関係なく、人の悪意に利用される事は間違いない。
なので、シムはしっかりと時の巻き戻しと回復の魔法は使わない様にと口を酸っぱくする。
リアナも、特に異論は無く、使わない、と何度も口にする。
「ジャンが傍にいるし、何か起きる前に彼がなんとかしてくれるだろうけどね」
そっとリアナの頭を撫で、目を細める。
自分よりも幼く、早々に神子になってしまった少女に、哀れみにも似た感情をシムは抱いている。
リアナの歳の頃、シムは何をしていただろう。
リアナと同じ様に、城に連れて行かれ、教育を詰め込まれていた気がする。
幸いにも、危うくはあったものの、シムは成人を迎える事が出来た。その後、生贄として生き埋めにされたが。
「人生半ば、後悔が残るに決まってるじゃないの」
「そう、だね…」
思わず口に出ていたらしい言葉に、リアナがぎこちなく同意する。
シムは口を閉じ、眉間にシワを寄せて項垂れた。
「違う違う、私の話。煩悩が多すぎてもう駄目。まだまだ神には程遠いわ」
「人は皆平等、特定に肩入れするな、我らはただ見守るのみ…だっけ」
「あー、そうそう。神の規則。そりゃそうよね、贔屓なんて出来るわけないしそんな事するなら分け与えなきゃ不平等だもの」
深い溜息を吐くシムに、リアナは何も言えなくなる。
まだ神子だからこそ、誰か一人に肩入れしても問題にはならない。シムはそれを理解している。
(私は、ジャンさんで。シムさんは、グレゴリオさん…)
傍にいたくて、困った時は手を貸したくて。
あまり許される事ではないけれど、もう少し、と言い訳をしているのはきっと二人とも同じだ。
「ままならないわね。神子だったからこそ出会えたけど、神子だからこそ共に歩けない」
「うん。仕方ないよ」
シムはゆったりと顔を上げ、リアナを見つめて、そうね、と呟いた。




