38.糖度低め
食事を終え、リアナとジャンで食器を洗って落ち着いた頃、三人は食卓で膝を突き合わせていた。
「明日から三日休みなんです。その後は国境に視察なんですけど」
「リアナも一緒にってところかしら」
「はい」
「そう、気をつけて」
ジャンが果物屋の店主から貰った林檎を切り分け、三人でそれを摘む。
シムは考える素振りもなく、直ぐにリアナの同行を許可した。
正直、何か言われるだろうとジャンは身構えていたので、拍子抜けする。
「えっと、いいんですか?」
「構わないわ。そうね、リアナはまだそんなに魔法を使いこなせる訳じゃないから期待しないで、頼りにしないで。人は死んだら生き返らないの」
「わかってる」
ジャンに諭すついでに、リアナにも釘を刺す。
そこまでの心配はしていないが、もしもの為。
皆に平等はあり得ないのだ。特に、神子ならば特に。
リアナもそれを理解しているのか、何もしない、と表明する。
ジャンは少しだけほっとした。リアナが秘めたる力を持つことは知っているし、斬首されても尚生きている奇跡も知っている。
だが、リアナが使い潰される未来なんて見たくはないのだ。二度目の人生、彼女の望むままに生きて欲しいと願っている。
「その三日の間にリアナは魔法の特訓よ。何があるかわからないし、最低でも自らの身は守れるようにしておいた方がいいわ」
「…うん、そうだね」
ジャンは知らないが、リアナの魔法は制御が効かず危なっかしいものだった。
火を出せば巨大な火柱が立ち、水を出せば大きな水たまりを超え小さな池を作り、風を出せば木々がなぎ倒される。
今でこそその痕跡は残っていないが、大地の神子であるシムが地面に残る痕跡をすっかり消した。
何もない空間に目を逸らし、わかりやすく現実逃避をしているリアナにシムは苦笑いを溢す。
シムも、同じだった。
自分の二つ名である大地に関しては難なく魔法が使えた。それこそ、息をする様に。
だが、それ以外はからっきしダメだった。弱く弱く、と念じても高出力になってしまった。
神子は膨大な力を持つ。未熟な技術ではうまく制御出来ず暴発するのだ。
「僕、来ないほうがいいですか?」
「あら、来るつもりだったの?本当リアナ愛されてるわねぇ。畑仕事してもらえると助かるわ」
「任せてください」
魔法の特訓と聞いて、ジャンは邪魔をしないほうがいいのだろうと思いながらも、そう問うと、シムは意外そうに目を丸めた。
ジャンにさらっと雑務を押し付けたのは見事としか言いようがない。
さらに、ジャンはジャンで、押し付けられた雑務を快く受け入れるので、リアナだけがぽかんとしてしまった。
「ジャンさん、折角の休みなのに」
「気にしないで。僕がリアナのそばにいたいだけだから」
「そうよ。しかも護衛だからとか考えてない天然タラシなんだから」
「シムさん…、その言い方恥ずかしいんでやめてください…」
追撃でシムにからかわれるジャンは仄かに頬を染めた。
リアナは、ただただ、嬉しくて、思わず頬を緩ませた。
歳の差もあるし、お互いの性格もあって中々糖度高めにはならないですが、書いてて楽しいです。




