36.抱っこ再び
街の外れに来る頃には、リアナはすっかり林檎を齧り終えていた。
芯だけが残った林檎をプラプラと摘んで、揺らす。
街から少し歩いた先に広がる山は、夕方にもなると人気はまるで無い。
しんと静まり返った山の獣道に入る前に、リアナは林檎の芯を埋めた。
「…林檎の木が生えたりして」
「それはそれでいいかも」
種を植えたわけではないので木が生えることはないだろうが、それでも二人は顔を見合わせて笑った。
いつか二人の軌跡を残せたら、と思っているのか。今はまだ同じ様に隣を歩けても、今後はそうとは限らない。
リアナは神子で、ジャンは人間だから。
無意識にせよ、何かを感じ取っているのは間違いない。
握った手に僅かな力が篭った。どちらからともなく。
「帰ろうか」
「ん。いつもありがとう」
「気にしないで。家が出来たら僕は山から通うことになるんだから」
それに、僕は鍛えているからね。
そう付け加えられた言葉にリアナはただ嬉しそうに笑った。
なんの益もなく握ってくれる手に安堵している。
城にいた頃は、誰も手を差し伸べてくれなかったのだ。突き放されたことは、幾度もある。
「体力、つけなきゃ…」
シムは毎日山を降りるわけではない。
山にあるのは獣道ばかりで、体力ないリアナには整備されていないごつごつとした山肌を登るのは相当に堪えるものがある。
腕を引いて先に行くジャンは流石というべきか、疲れた様子などまるでない。
ジャンは訓練帰りだと言うのにだ。
リアナは息を吐いて気合を入れ直す。
だが、数十分もすれば疲労でそのペースは落ちる。
「うぅ〜、う〜!」
「リアナ、休憩する?それとも背負おうか?」
「うぅ…」
呻き声しか上げれなくなったリアナを不憫に思い、ジャンは立ち止まる。
顔を真っ赤にし、ぶんぶんと首を振るリアナは健気だが、このままだと、いつまで経っても帰れないだろう。
「ごめんね」
「うぇっ!?」
ひょいとリアナを抱き抱え、ジャンはさっさと山を登る。
突然の出来事にリアナは目を白黒させるばかりだった。




