35.黄昏と林檎
夕日が世界を紅く染め上げている。
目に眩しい程の橙色に目を細めながら寄り添う二人は街中に溶け込む。
「ジャン!今日もリアナちゃんのお守りかい?ほら、林檎をやるから二人で食べな」
「ありがとう」
「ありがとう!」
果物屋の主人が店の前を通りかかった二人に声を掛け、艶々とした林檎を二つ手渡す。
一個ずつ受け取ると、二人は礼を述べる。リアナはにこにこと満面の笑みを浮かべてた。
果物屋の主人は顎髭を親指で撫で、満足げに肯く。
「いやぁ、可愛い。うちの娘に欲しいくらいだ」
「駄目だよ、親父さん」
「将来はジャンの嫁ってか?」
「あぁもう」
リアナは服の裾で林檎を磨くのに必死で果物屋の主人の言葉を聞いていなかったのが幸いだろう。
リアナに否定されていたら少なからずジャンは落ち込んだだろう。
姪に「叔父さんとは結婚しない!」と言われて落ち込んでいた親戚の叔父さんを思い出す。きっと同じ心境だっただろう。
リアナは艶々になった林檎に齧り付いた。
思ったよりも固かったのか、前歯で削ぎながらもそもそと食べている。
「おやつにしては遅いし、林檎食べて夕飯入る?」
「今から、歩くから大丈夫」
「いっぱい食べて大きくなりな!」
大きい声で果物屋の主人は、がははと豪快に笑い飛ばす。その笑い声を背に受けながら、ジャンとリアナは歩き出した。
ジャンは林檎を片手に弄び、リアナは林檎を両手で抱え、ちまちまと歯で削りながら食べる。
なんとも歯が悪くなりそうな食べ方にジャンはそわそわする。
「硬くない?家に帰って切って食べたほうが良いんじゃない?」
「こう見えて歯は丈夫なの。村で木の実の殻を歯で剥いてたの」
「……そう」
いーっと白い歯を見せびらかすリアナに、ジャンは要らぬ心配かと追及を止める。
綺麗に並んだ歯は欠けたところなどまるで無かった。
「それに、私は戻せるから」
リアナの呟きは、街中の喧騒に溶け込んで、誰の耳にも届く事はなかった。




