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32.穏やかな時間


リアナがシムの家に住み始めてから、毎朝ジャンが顔を出すようになった。


昼過ぎから訓練に戻れば大丈夫、との事で、シムにリアナと二人で畑を耕したり、木々を伐採し暖炉の薪を作ったり、狩りをしたり、細々した雑務を教えて貰っていた。


昼ご飯はシムが狩りで仕留めた動物や、畑で取れた野菜を手際よく調理した。


ジャンは騎士として今迄も体を鍛えていたので、なんて事はないが、城に軟禁されろくに運動をしてこなかったリアナは毎日疲労している。


それでも、ジャンに着いて城に向かうので、シムはニヤニヤを隠し切れない。


「気を付けていってらっしゃい」

「行ってきます」

「また夜に来ます」


手を振って二人を送り出す。

この数日で、リアナはすっかりシムに慣れた。親や姉妹に頼る様に、素直に思ったことを口に出し、頼ってくる。


「さて、私も仕事しようかしら」


家事に終わりはない。

シムは袖をまくり上げ、にこりと笑んだ。


**


「リアナ、大丈夫?」

「…うん、頑張る」

「あ、大丈夫じゃないね」


山を半分ほど降りた頃、リアナのペースはがくりと落ちた。

無理せず家で休んでいてもいいんだよ、とジャンが促しても頑なにリアナは首を横に振る。結果、疲れている状態で山を降りる事になる。


ジャンは、リアナの元に歩いて行き、背中を向けてしゃがんだ。


「はい」

「…?なに?」

「乗って」


沈黙。


こうした方が早いのだ。他意はない。

ジャンは沈黙に必死に耐えた。

嫌がっているとは思いたくない。


そして、数秒経ち、温もりが背中に。


「よし、安全運転で山を降りるからね」

「ジャンさんは乗り物なの?」


ジャンは騎士服で山に登りリアナに会いにくる。

そして、山を降りて街を通り、城に帰る。

この数日で、街の人々もすっかり慣れてしまった。

二人の仲睦まじい姿に。


何故リアナが山に住んでいるのか、街で暮らせばいいんじゃないか、と聞いてくる人もいるが、ジャンは曖昧に笑って誤魔化してきた。

グレゴリオに、リアナが神子であることを誰にも言ってはいけないとしっかりと説明されていた。


神子の力は甚大で、ましてやリアナはアッシュム王国で処刑された身。

どこから噂が漏れ、隣国に届くか分からない。

そして、神子の力を覚醒させたリアナを取り戻しに攻め込まれる可能性もある。


幸いにも、神子を騙って処刑された娘の身なりや年頃、容姿にまで言及された噂は無い。


リアナを守る為、国を守る為、リアナの事は秘密である。


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