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29.歯車は動き出す

ジャンとリアナの話に戻ります。


ジャンと二人きりになってずいぶんと時間が流れた。

ぽつりぽつりと交わす会話は心地良く、心が温まる様だとリアナは思う。


村にいた頃を思い出す。


豊かではなく、どちらかと言えば貧しい集落だったが、人々はリアナに優しく、孤児だったリアナに愛情と住処と食事を与えた。

森で痩せた状態で見つけられ、集落に迎えられた。少し離れたところに男女の遺体があったらしく、両親だろうと判断された。


リアナ自身、まだ幼く、よちよち歩きが出来る頃の話だった為、両親の事は全く覚えていない。

本当に、両親だったのかもわからない。


国の外れにある集落だった為、かなり閉鎖的な場所だった。

外部の人にはかなり冷たい面もあった。

そんな中、リアナが受け入れられたのは幼子だったからだろう。


不思議なことに、リアナが来てから、災害や飢饉が無くなった。

豊かではなかったが、平和な場所だった。


「いつか、集落の様子が見たいな」


ついぽつりと漏らす。


「集落?」

「うん。私の故郷。神子を騙った娘を育てたからって罰を受けてなければいいけど」

「それは…、そうだね。いつか見に行こうか。僕も一緒に行っていいかな」


願ってもない申し出に、リアナは頬を緩ませた。思わず身を乗り出してしまう。


「ありがとう!絶対ね、約束!」


勢い余って、リアナの手はジャンの膝に着地する。

稽古に明け暮れ、青春を剣に捧げたジャンは、狼狽えた。

リアナは幼いと言えども、異性。


(いや、なにを考えているんだ!)


男の自分と違って、手が柔らかいだとか、頬の丸みだとか、細い首筋だとか、目が彷徨ううちに捕らえた事を振り払うべく頭を振り、雑念を払う。


じっと見つめてくるリアナの視線が痛い。

ジャンはどうにかぎこちなくはあるが笑みを浮かべて見せる。


「直ぐには無理だろうけど。約束するよ」


リアナが嬉しそうにしているのを見て、ジャンも嬉しくなった。


そう言えば、前はリアナの事を抱っこしたな、と思い出したジャンは、一人でドギマギしたのをひっそり恥ずかしく思う。

余りにも距離が近かったから、ふわりといい匂いがしたから、と言い訳を考えるがよりドツボに嵌っている事に本人は気がついていない。


一人で考え込み出したジャンの顔を眺めながら、リアナはそっと頬を染めたのだった。


好意を向けられると、無意識に相手を好ましく思うあの感じです。

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