24.感情の名前を知らない
ジャンは言葉を尽くし、リアナを励ましていたが、ふと思い出し、ポケットを探る。
医療士に渡されたポーションを取り出す。
ガラス瓶の中でちゃぷんと揺れる液体に目を向け、リアナは瞬きをひとつ。
首を左右に揺らし、落ち着いたところで、ジャンを見つめた。
「これは?」
「ポーション。神子の君には必要ないかも知れないけれど」
ポーションを受け取り、蓋を開けて匂いを嗅いでから、リアナは口をへの字に曲げた。
眉が寄り、しかめ面に。
「苦そう」
「嫌なら飲まなくてもいいよ」
いや、でも、これはジャンさんからのプレゼントだから、としかめ面のまま、ポーションを一口飲み、リアナはすぐに蓋を閉めた。
顔のパーツが中心にぎゅっと寄っている。お口には合わなかったらしい。
リアナはポーションをジャンに返した。
受け取ったジャンはまたポケットへとポーションを滑り込ませる。
「さて、私達は王に謁見を求めてきますかね。ちょっと待っててね」
気を取り直す為に、シムは両手を合わせ、音を立てた。
音に反応し、ジャンとリアナはシムの方を向く。答えるように、シムは笑顔を見せる。
「俺も付いて行こう。ジャン、神子を頼んだ」
グレゴリオは返事も聞かず、さっさと救護室を出て行ってしまった。その後に続いてシムも出て行き、二人きりになる。
リアナは近くのベッドに腰掛け、横をぽんぽんと叩く。座れ、と主張する。
救護室のベッドはスプリングがかなり硬い。リアナの横にジャンが腰掛ける際、ギシリと強張った音がした。
沈黙が二人を包む。
不思議と嫌な沈黙ではなく、互いを信頼しているからこその沈黙と言えるようなものだった。
話す事がないから黙っている訳ではなく、話さなくてもいいから黙っている。
拒絶ではなく、許容。
先に沈黙を破ったのは、ジャンだった。
「ねぇ、リアナ。君は、どうしたい?」
「この国に、ううん、ジャンさんの傍にいれたら良い、かな。迷惑じゃなければ」
窺うようにそろりと目を上げると、リアナの目には、優しく微笑むジャンが写った。
(子供扱いされているのはわかる。でも、私はまだ子供だし。それでも、助けてくれたこの人は、裏切らないだろうから、傍にいたい)
込み上げそうになる熱いものを嚥下し、頬の内側を噛み締める。
そうしないと、リアナは情けなくジャンに縋り付きそうだったから。
3日以内の更新目指しますって書いておきながら滑り込み失敗しました。すみません。
言い訳させて頂けるなら、同時に連載をしていた『婚約破棄から始めましょう』の方を完結させる為に執筆時間が中々作れませんでした!お時間あれば読んでくださると嬉しいです!