22.神子の遭逢
噂をすれば影が射すとは言うが、なんとも効果は覿面だったらしい。
だが、ジャンは混乱していた。
グレゴリオと大地の神子はまるで、つい最近も会った友人同士の様に気安く軽口を叩き合っているのだ。
どうすればいいか分からないジャンは、蹴飛ばしてしまった椅子を拾い、またベッドの端に腰掛ける。
ふと、リアナの目蓋が震えた。
「リアナ?」
ジャンが震えた声で問うと、その声を拾ったグレゴリオとシムもなんだなんだと口を閉ざし、リアナを覗き込む。
ゆっくりとリアナの目は開かれた。
暫くぼんやりと天井を眺めていたが、覗き込む三つの顔を視界に捉えると、素早くシーツを引き上げて顔を隠した。
「リアナ、大丈夫だから。騎士団総長のグレゴリオ様と、大地の神子、シム様だよ」
「大地の、神子?」
警戒しつつも、ジャンの言葉に反応したリアナはひょっこりと目までシーツを下ろした。
シムは人の良さそうな笑顔を見せる。
「紹介に預かったシムです。君も神子なんだってね。しかも、アッシュム王国の」
「貴方も?処刑された?」
「処刑じゃなくて生贄にされたわ」
普通の人間には理解できない神子トークが始まり、グレゴリオとジャンは、一歩引いた。物理的にも、心理的にも。
「…神子ってこんな壮絶な人生歩むのですか?」
「いや、アッシュム王国だけらしい。うちの、ルババグース王国の神子は力を覚醒させぬまま天寿を全うするらしい」
神子トークを広げている横で、騎士二人は声を潜めて話す。
国によって、神子の扱いは異なる。
それは、考え方もだ。
ルババグース王国にも、歴史の中で神託がおり、神子を王宮や教会で保護した歴史はあるが、覚醒したと言う話はあまり聞かない。
神子を大切にお預かりし、天寿を全うさせる事により、神に大事な神子をお返しするのが一番大切な事である。
故に、神子は居るだけで国に恩恵を与えてくれる存在として認識されている。
逆に、アッシュム王国では、神子は類稀なる神の力を持った人間だと思われている。
なので有事の際に、それを治めてくれる者だと思い、シムのように生贄として捧げたのだ。
神子自体、覚醒するまで己の力を知らぬままなので、真実を知る者が少ない。
覚醒した神子が素直に自分のことを話すことも、また少ない。
なので神子と言う存在が一人歩きする事となるのだった。
「貴方、大変だったのね…。でももう大丈夫よ。私が師として導いてあげる。ルババグース王国に残っていてよかった」
シムはリアナのこれまでを聞き、目に薄い涙の膜を作り、小さな神子を抱き寄せた。
リアナは、同じ神子だと知り、警戒心が解けたのか大人しい。
「と言うわけで、王への謁見は私もついて行くし、私の家に連れて行くわ。異存はあるかしら」
「いや、神子に意見ができる者なんて、それこそ神だけだろう」
顔だけグレゴリオに向け、はっきりと問うシムに、グレゴリオは肩を竦めただけだった。
なら決まりね、とシムはリアナの頭を撫でた。
「あの、ジャンさんは…」
リアナは縋るように、シムとグレゴリオに視線を送る。
随分とジャンはリアナの信頼を勝ち取っている。視線を受けた二人は、顔を見合わせ、低く唸った。
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