20,神子は笑う
魔法や魔術が扱える人材とはかなり貴重な者だ。
占いや呪いを使い、生計を立てる者もいるが、結局のところ、インチキや思い込みの産物である。
そして、魔法や魔術の規模は微小なものであり、シムがやったことはルババグース王国の魔法使いや魔術師をかき集めても遠く及ばない。
陥没した大地から巻き込まれた人達を助け出し、安全な土地に運ぶなんて芸当は、王宮お抱えの優秀な魔法使いと魔術師を駆り出しても、何日かかかることだろう。何週間、かも知れない。
シムは容易くやってのけた。
素晴らしいことであり、脅威でもある。仮に彼女が牙を向けばルババグース王国は一夜のうちに滅びるだろう。
「貴方の力は素晴らしく、力不足などとは思えませんが」
「私が出来るのは起きた事への対処と、大地に干渉することくらいで。これから起きる事を未然に防ぐ事は出来ないんです」
騎士団長の言葉を受け取らず、シムはゆるりと首を横に振った。
「私が神子だと見出されてから、アッシュムでは災害が多発しました。神子ならば鎮める事が出来るだろうと何度も担ぎ出されましたが成果が出せずにいまして」
最後、地盤沈下した土地で、無能の神子紛いはせめて人身御供として国の役に立て、と生き埋めにされました。
シムはぎこちなく笑みを浮かべた。無理矢理口角を上げただけの。
でも、とシムはまだ言葉を繋ぐ。誰も口を挟まずに続きを待った。
「土がどんどん被せられ、あぁ、死ぬのかと思った時に、全てを理解しました。神子であること、その理由と力の使い方を」
開いていた自らの掌を眺めながら、シムは噛み締めるように言葉にしていく様子はどこか痛ましい。
だが、湿っぽい空気は当の本人が打ち破った。
「やだ、ごめんなさい!みんな濡れたままだったじゃない!」
寒いでしょう?と申し訳なさそうに両手を合わせて平謝りするシム。
大丈夫だと騎士たちは口だけでは否定するが、分かりやすくそれぞれ体を震わせていたり、顔色を悪くしていたりする。まったく大丈夫な状態では無い。
シムは地面を睨み、数秒唸った後、息を細く吐き出した。
子供の腰くらいまではありそうな火柱が立つ。緊張した面持ちのシムは手の甲で汗を拭う。
「これで温まって!」
わらわらと団員たちは火柱に近づいて暖を取り始める。グレゴリオもまたそうした。
失礼にならない程度にグレゴリオはシムを横目で盗み見た。彼女は他人からの視線に鋭い様で、すぐに視線がぶつかる。
視線を逸らすのも失礼かと思い、グレゴリオは顔を彼女に向け、しっかりと目を合わせる。
「気になる?」
「…はい」
「素直なのはいいことです」
ふんふん、と楽しそうに小刻みに頷いたシムは、グレゴリオの泥でぱさついた髪に触れる。
「君の声が聞こえたの」
だから助けなきゃと思った。
真っ直ぐな視線がグレゴリオを射抜いた。
明日から仕事が忙しくなるのでまた間を置かせてもらいます。