2.ビビリ騎士
ひたすら生首です。
騎士は鼻声でずっと「剣向けただけなのに…!」「脅すだけのつもりだったんだよ!」「殺すつもりは無かったんだよお嬢さん!」と叫び続けていた。
そう言えば、随分と若かったな、とリアナは対峙した騎士を思い出す。
初めて人を殺した時、まず人は怯えると言う。
可哀想な事をした、と思いながら、なんとか頭を拾い、(騎士の叫び声が耳を劈く)騎士に顔を向ける。
「安心して下さい!生きてますから!」
「ヒィッ…!!!なななななな、な、なん、で!」
騎士の瞳からは涙が溢れんばかりに幕を張っている。
リアナは申し訳無い気持ちを抱えながらも、必死に頭を働かせる。
どうにか納得して貰って手芸道具を持ってきて貰わなければ、一生首を抱えていかねばならない。
「私が何故こうなっているのか、わかりません。とりあえず、手芸道具が必要でして…!」
「何でだ!!??」
騎士の涙は引っ込んだが顔色は変わらず悪い。
改めてリアナは騎士に目を向ける。
若葉色の癖毛に、栗色の瞳。垂れ目な事もあり、柔らかな印象を与える。
身に付けている防具は紺色の鎧。
リアナの住む国、アッシュム王国の騎士は皆、銀色の鎧を身に着ける。
そして、隣国、ルババグース王国の騎士は、紺色の鎧を身に付ける。
つまり、リアナの目の前で腰を抜かしている騎士はルババグース王国所属である。
アッシュム王国とルババグース王国の国境を跨がる形に広がる魔獣の森がある。リアナは其処に捨てられたに違いない。
わざわざ遠くまでご苦労な事だ。
王都から魔獣の森まで、馬車で一月はかかると言われている。
何を考えて、リアナをわざわざ遠くまで捨てたかは分からない。その場で焼却でもすれば良かっただろうに。
「ところで、私はリアナです。貴方は?」
「本当呑気だな、君は!!…僕はジャン・マギルア」
勢いよく突っ込みながらも、律儀に答えるジャンにリアナは良い人だな、と素直な感想を抱く。
リアナは胸の高さに頭を抱えたまま、ジャンに微笑みかける。ジャンは顔を真っ青にしたまま。
「詳しいことは後で話すから、手芸道具持ってきて貰ってもいいかなー?」
ただの脅しである。
あえて胸の高さで抱えているのも、微笑みかけるのも。
ジャンは壊れた人形みたいにこくこくと頷いてよろけながら走り去っていった。
その後ろ姿をリアナは眺めながら、ジャンが戻って来るといいな、と思っていた。
戻って来る可能性は限り無く低い。仮に戻って来ても、仲間を連れて来るだろう。
何しろ、リアナは怪し過ぎる。
首と胴が離れているにも関わらず生きている上に、手足には枷の跡。衣類は襤褸布宛らであり、脱獄囚もしくは処刑囚。
でも、ジャンを信じるしかない。
リアナは首を抱えたまま待ちぼうけ。