16.まだ目覚めない少女
リアナはぐっすりと、深い眠りに落ちていた。
運んでいるジャンは、彼女が息をしているのか何度か立ち止まって確認した程。
休憩室の一番奥のベッドにリアナを横たえ、天井から吊るされた仕切りのカーテンを引き、ベッドの周りを囲む。
窓から差し込む光が強いので、窓のカーテンも閉める。
椅子を引っ張り出し、漸く腰を落ち着けると、ジャンは眠るリアナの手首を取った。
脈を探し、確かに時を刻む鼓動を感じる。
生きていたいと願った時、リアナの願いは叶った。
(神子、か)
神子は時折、選定される。
常人と比べ物にならない程大きな力を持ち、何かしらの影響を与える。
そして、神子は突然行方不明になる。
ルババグース王国にも、つい最近までーーーとは言え数十年は前になるーーー神子がいた。
その神子は、大地の神子と呼ばれていた。
なんでも、魔族が襲来して地面に出来た大穴を一瞬で塞いだと言う。
その後は消し飛ばされた山を元通りに戻したり、逆に山を消して更地にしたり。
大地に纏わる力を有していた事から、大地の神子と呼ばれた。
その神子は力を覚醒してわずか四〜五年で姿を眩ませたと言う。
大地の神子が姿を消してからすぐ、魔族達の姿が見えなくなった事から、大地の神子は魔族達を討伐に旅に出たのではないかと言われている。
リアナにも、そんな凄い力が備わっている。
ジャンはリアナの頬をそっと撫でた。
祖国、アッシュム王国での扱いは、神子に対するものでは無く、ろくに栄養の取れていない身体は余分な脂肪がついておらずほっそりとしている。
頬も、少女のものにしてはいささか弾力が足りない。
どんな食べ物が好きなのだろう。
眠る横顔を眺めながら考えても、答えは出ない。
「早く、起きないかな…」
リアナの事を、何も知らない。
出逢って間もないのだから仕方のない事ではあるが、少しだけ寂しくも感じる。
ジャンは息を吐いて、天井を仰いだ。
真白のシミ一つない天井。酷く無機質で、清潔と言う文字を体現したかの様だ。
「ジャン、いるのか?」
「居ます」
暫く天井を見上げてぼうっとしていたが、入り口の方から投げかけられた声に返事をする。
重い足音が近付き、躊躇いなく仕切りのカーテンが開かれた。
「総長、御足労おかけして申し訳ありません。お呼び頂けたら参りましたのに」
ジャンが腰を浮かす前に騎士団総長がさっさとやって来てしまった。
騎士団総長、グレゴリオはジャンを見つけると屈託のない笑顔を見せた。
更新頻度上げようと思ってはいるのですが中々上手くいきません…。