15.騎士団総長のあれこれ
異常が無いと診断が下され、医療士と医官を呼びに行ってくれたリアンとマルゴはほっとした様だった。
ヨルも、胸を撫で下ろす様にさりげなく息を吐いていた。
ジャンは乱雑にポケットへと医療士から渡されたポーションを突っ込んだ。
人形と見紛いそうな程微かな身動きしかしないリアナを抱き上げ、ジャンはヨルに目を向けた。
「休憩室に連れて行くよ。目が覚めたら騎士団総長の元へ行くと伝言頼める?」
「あぁ、いいよ。彼女が目を覚ました時一人なのも知らない人が近くにいるのも驚きそうだし」
君も、離れるつもりは無さそうだからね。
朗らかに笑って、ヨルは手を振って歩いて行った。
騎士団総長は昼前に登城する。朝から昼前までは、馬に乗って警備の巡回を総長自ら行う。
騎士団総長が自ら赴く事により、街中で犯罪を犯そうなどと思う不埒者はいなくなる。
姿を表すだけで抑止力になる。
また、騎士団総長自体、街の人々に愛され、また、彼も友好的に接している。見回りは建前で、毎日の楽しみでもある様だ。
実際に犯罪や荒事は少なく、平和そのものなので、習慣となっている。
かつて隣国、アッシュム王国との小競り合いが起きた際に、騎士団総長が前線に赴いている間、街では騎士団総長の目が無いことを良い事に良からぬことをする者もいた。
ちなみに、騎士団総長は休みの日も朝から街の見回りをしている。
最早毎朝の日課らしく、鎧は流石に着ず、馬にも乗らず徒歩ではあるらしいが。
それに加え、騎士団総長の妻は平民の出であり、実家が大きな商店で今でも其処で働いていると言う。
見回りしつつ、妻に会っているのだと、誰もが微笑ましく感じている。
とは言え、騎士団総長。
騎士団の中で一番腕が立つ。
今は平和なので中々機会はないが、剣豪の異名を持つ騎士団総長に敵うものは、このルババグース王国騎士団の中には存在しない。
騎士団に入った新人騎士は、まず騎士団総長からの洗礼を受ける。
新人騎士全員で騎士団総長一人に立ち向かうのだ。
勿論騎士団総長の圧勝である。最後まで膝を地につかずにいた者は所謂出世街道を走れる。
余談ではあるが、ジャンとヨルは立っていた。
リアナを見つけた日、ジャンは一人での森の捜索を任されていた。
実力があるからこそ。
年端も行かぬ少女の生首にビビり倒してはいたが、騎士や剣士、冒険者や賊相手であればまた違う反応をしていただろう。
ジャンに少女を斬りつける趣味など無い。
妹や親戚の子くらいの年代の少女の首がぽろっと落ちれば狼狽えもする。
性根は優しいジャンだ。
剣の腕は多少立つとは言え、まだ完璧とは言えない。
切り捨てる優しさも必要になってくる。
ジャンはリアナを抱え直し、休憩室へと足を向けた。
しばらくはのんびりとした話が続くと思います。