14.異常はなし
腕の中で突然意識を失ったリアナ。
ジャンはわかりやすく狼狽え、ヨルが声を荒げる。
「ジャン!落ち着け!気を失っただけだろう!」
ヨルはリアナが気を失った時、反射的に膝をついて彼女の細い腕を取っていた。
控えめだが、確かに脈打つ鼓動に人知れず安堵していた。
リアナの時が動き始めた事により、処刑されてから寝ずにいた反動が現れた。
蓄積された疲れがどっと溢れ出したのだ。
(さっきまで冷たかったのに、温かい。それに、心臓が動いて、息も、している)
神子と騙って処刑された少女。
力が発揮できなかったから、とされているが、実のところ、処刑されるまで力が目覚めていなかっただけなのでは無いか。
奇しくも、処刑により覚醒し、アッシュム王国は神子を手放し、ルババグース王国が神子を手に入れる形になった。
とは言え、神子は所有物ではない。神子が望めば祖国に帰れる。他の国に行く事も可能だ。
ジャンは小さく、痩せこけたリアナの身体をぎゅっと抱き締めた。
今迄、辛い事だらけだっただろう人生を、楽しんで貰いたい。生まれ変わった、二回目の人生を堪能して貰いたい。
(処刑されても、生きていたと言うけど。考え方を変えれば、今からはリアナの二回目の人生だ)
好き勝手利用され、価値が無いと突然捨てられたリアナ。
でも、神子であったお陰で奇跡が起きて生き延びた。
リアナが、この国に居たいと望めば、ジャンは手助けをするつもりだ。
「医官連れてきたわ!」
「医療士連れてきたぞ!」
リアンとマルゴはほぼ同じタイミングでそれぞれ、医官と医療士を連れて来た。
医官は白衣を、医療士は丈の短い白のガウンを羽織っているのが目印だ。
医官と医療士はジャンからリアナを引き剥がしてからあれこれ調べ始めた。
首や手足に巻いた包帯を解こうとした時、思わずジャンは口を出してしまった。
「包帯は、そのままにしてあげてください」
「何故?」
詳しく見れません、と医官がじとりとジャンに不満げな目を向ける。
首に縫合の跡があるから、とも言えない。
「僕はリアナを森で見つけたんですが、痛ましい傷跡があり、勝手に見られるのは嫌だろうな、と」
そして、ここは騎士の集う訓練所。
まだ朝なので人はまばらだが徐々に人は増えている。今も遠巻きに此方を気にしている姿がある。
「ならば、本人の承諾を得てからにしましょう」
医療士はあっさりと引き下がり、医官も、渋々納得した様だった。
「疲労でしょうね」
「魔力を行使した痕跡がありました。魔力を随分使ったみたいです」
医官は、暫く休ませれば大丈夫と言って帰って行った。
医療士は、ジャンに魔力を回復するポーションを渡して、目を覚ましたら飲ませろと指示を出して帰って行った。