13.信じる勇気
右も左も、下も上も分からない。
リアナは真っ暗闇の中、意識だけが浮遊していた。
意識を世界と切り離したこの行動は、心を守らんとする本能の様なもの。
リアナは尚も震える身体を必死に腕を回して止めようとするが、意味はない。歯の根が合わず、ガチガチと音を立てる。膝が震え、崩れ落ちそうだ。
首を落とされても、生きていた。
生きていたので、針と糸で繋ぎ合わせた。
ただそれだけ。
また、首を落とされたらどうなるのだろう?
不思議だからと、実験する為に身体を切り裂かれたりするかも知れない。
どうせ死なないのだからと何度も何度も常人であれば命を落とす様な事を体験させられるかも知れない。
恐怖が思考を支配し、リアナは内に閉じ籠る。
遠くから微かに聞こえる声が、自分を案じる声だと気がつかない。
(嫌だ、死にたくない。怖い…助けて)
誰かに縋りたくて、でも思い出すのは、処刑の日に冷たく見下ろす元婚約者とその横に立つ女の顔で。
喉が引き攣る気がした。
実際には息もしておらず、心臓も動きを止めていると言うのに。
リアナの時間は、処刑された日から止まったまま。ずっと、足踏みしている。
『リアナ、少なくとも僕は、君の味方だから』
声が聞こえる。
優しい声。ずっと、手を差し伸べてくれていた人。
見て見ぬフリをして、ろくに感謝の言葉も言えてない。
今からでも間に合うだろうか。
(ジャン、さん…)
放って置いても良かったリアナを拾って、あれこれ世話を焼いてくれた。
見つけて逃げ出しても良かったのに馬鹿正直に針と糸、綺麗な衣類まで持ってきてくれた。
宿から飛び出しても追いかけてくれた。
裏切られるのは、怖い。
(でも、ジャンさんは、違う)
信用したい。信頼したい。
見放されるまで、側にいてもいいだろうか。
「私は、生きていたい」
声に出した言葉は力を宿し、リアナの止まった時間を動かした。
リアナの身体を抱きしめていたジャンと目が合う。
リアナは、涙を零し、襲いかかってきた睡魔に耐え切れずに意識を手放した。
14と同じくジャンの一人称間違えていたので訂正しています。