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第二話「JK」-4 “玉砕”


「私は、ミキパイのことが好きなの―――――!!」


力強い声。まさに一世一代の告白かのようなセリフだ。

ん?告白・・・?

・・・えっ。

今、こいつ、加藤に告白しなかった?

俺は目を点にして加藤を見る。

すると加藤は、それもどこ吹く風といった様子で、


「ごめんね。私はそういうのに興味ないから・・・」


フッた。


この状況はなんと説明すればいいのか。

こんな状況にあったことがない俺は、ただ立ち尽くすしかなかった。てか、あるの?こんな状況。

百合の女子の告白というそれだけで珍しい状況に居合わせた第三者という立ち位置を手にした俺は、思考も放棄してただその現場を見守ろことしかできない。

すると椎名が、「がふっ」とか言って、その場に倒れこんだ。

その倒れこんだ椎名に対し加藤は、


「ねぇ、天音ちゃん、女の人同士って結婚できないのに、どうしてそんなこと言いだすの?」


倒れている椎名にはわからないだろうが、俺からは見える。加藤の満面の笑みが・・・!

加藤の奴、わかって椎名にこの話を振ってるぞ。どこまでSなんだこいつは。俗にいう死体蹴りという奴か。


一方その椎名はというと、伏せたまま一度体をビクンと跳ねらせ、そのまま力尽きていた。

効果は抜群だ!みたいな効きようだ。

ドSとコミュ障と死体しかないこの屋上から、俺は早くも逃げ出したくなっている。

比較的場の中で浮きやすい俺が、まだ一番マシに思えてくるという異常な場。

もういっそのこと屋上から飛び降りてでも逃げたほうがいいんじゃないかと叫びだした俺の脳に、俺は待ったをかける。

あろうことか、加藤がこちらに気づいたのだ。

あの悲惨な状況を見た後だと、俺の頭の中はパニック状態だ。

そんな俺の内に秘めた状況になんて加藤は気づくはずもなく、微笑みながら言い放つ。


「あら、そんなところにムシケラがいたのね。ごめんなさい。私、目が悪いものだから、そんな小さい存在には気が付かなかったわ。」


俺の心は音を立てながら崩壊した。


今日一日の授業はすべて終わり、放課後の時間となる。

ほぼ放心状態で5,6時間目の授業を受けた俺は、何とも言えない脱力感に、机に突っ伏す。

何より俺の精神に負荷がかかる理由は、後ろの席が加藤海葵である、という点だ。

前にも言った通り、俺の名前は沖名のため、出席番号の関係で新学期が始まったばかりのクラスでは俺の後ろは加藤なのだ。


その加藤も、部活には参加していないようなので、ホームルームが終わったとたん、帰ってしまう。

あの後、加藤は俺に何も話しかけてくるようなそぶりはなく、すぐに教室へと帰ってしまった。

俺と椎名は、何も言わずに屋上で時間をつぶしてから、休み時間ギリギリに教室に戻った。

精神を追いつかせないと、そのまま教室に戻ったらどうなってしまうかわからなかったからな。今もぎりぎりだけど。

そんな精神でずっと教室の席に座っていると、いつの間にか教室には俺一人になっていた。


「……あー」


夢にまで見た初JKとの会話が、罵倒でした 。一部の男性からはうらやましがられるかもしれないが、生憎そんな趣味のない俺にとっては相当効いた。

まさに放心状態である。すると、


「…おい、るーう」

力ない声が俺の耳に届く。声の主はそう、椎名だ。

あの時はあんなにも力強い声だったのに。それを思い出したら、俺の出来事まで思い出されて頭が痛くなる。

「…どうするんだ」

加藤海葵という女のたった一言で撃沈した俺たちは、昨日のような元気はなく、お通夜のような空気が続く。


「とうぜん、あきらめはしにゃい。だが…」

完全に気力がなくなっている。てか、活舌まで悪くなっている。

「だが、つぎだめだったら・・わらしのこころは・・ぜんかい(全壊)しそうだ・・・」

こいつの言うことは全部ひらがなになってそうだな、というくらいの脱力感である。俺もこいつも、次が限界であるといった感じだ。

次で決めなくては・・そう思索しても、今のボロボロの俺では何も思いつかない。

「ま、とりあえず帰るか…」

「ああ…」

もはや別人じゃないかと思うような椎名が同意する。


「こりゃとんでもないやつだな…想像の数百倍は強敵だったぞ…」

先のいやな記憶を思い出す。


「れーぎすは、しょたいめんのにんげんにはとてつもなくこうげきてきになる…。そして、あるていどしたしくなるとさらにこうげきてきになる…」

それダメじゃねーか。結局ドSなことには変わりないじゃんか。

そうはいっても、こいつの加藤への思いは相当だ。ほんとにね。

俺としても、あんな話を聞いた後だとどうにかしてやりたいとは思うんだが、いかんせん加藤の攻略難易度が高すぎてどうにかできる気がしない。もう、俺には加藤が魔王にしか見えない。


「おまえ、加藤の趣味とかは知らんのか?」

あんなドS女に、かわいい趣味の一つでもあれば俺も女子として認識を改められるかもしれない。

「そうだな…れーぎすは、じっけんをするのがすきときいたな…あのひとは、じぶんにこういをよせてきたおとこをひとりのこらずじっけんだいとしていたときく…」

前言撤回。あいつは本物の悪魔だ。


いつも本を読んでいるが、もしかして人体実験の本とか読んでるのか…。

今聞いたことは忘れよう。俺はただのJKと仲良くなることが目的なのだ。曲解ではあるが、あながち間違いではない。ていうかそうしよう。そう思い込むべきだ。

俺が自分に言い聞かせていると、椎名は、


「るーく、いっしゅうかんまってくれ。わたしのこころのかいふくと、すこしじゅんびがある」

「?」

俺的には、こいつの言葉は謎だがこいつが言うなら間違いはないだろう。


「わかった。俺も精神回復に努める…」

そう言って、今日の俺らは別れた。




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