第二話「JK」-2 “逃げ”
「え、いやだけど」
即答。このストレートな回答に、さすがの椎名も動揺を隠しきれない様子だ。
「え…あ……。ちょっと…出直してきます」
自分のキャラも忘れてガチショックを受けた椎名は、よろよろと教室を去っていく。
あいつ実はメンタルよえーの。
「あれ、沖名君何で赤くなってるの」
木下にそんなことを言われた。
陰キャあるある、というかコミュ障あるあるで、全然気のない女の子の話題出されても、赤くなっちゃう。女子と会話しない内気な男子にありがちです。僕の友達の友達が言ってました。
「別に、何でもねーよ!」
ツンデレみたいなことを言い残し、俺はその場を去る。
逃げるように教室を出て、向かうのは椎名のもと・・ではなく普通にトイレだ。
小心者世界ランキングに名を連ねる(自称)の俺は、とても自ら下級生の教室に足を運ぶことなどできない。
そうして何も起こらないまま、帰りのホームルームも終了する。
そのまま俺は下校の準備をする。
木下と川上は別の友達と帰ったので、俺は一人で下駄箱へ向かう。
帰宅部の生徒たちが何人かで帰っているといういつもの光景を目の当たりしながら、俺も一人、靴を履き替える。
何もできない自分に嫌気がさしながらも、学校を後にする。
そして、いつものように駅に着く・・・。
・・・何が新しい予感だ。
結局俺の思い過ごしということか。
俺のような小心者で、肝心な時に動けないやつにはこんなみじめな生活がお似合いだってか。
どうやら何かが変わると思っていた俺が間違いだったらしい。
いくら他人に期待を寄せようとも、やはりじぶんが行動できなければ、何も変わらない。
当然だ。俺のような社会のクズは女子とかかわりの全くない底辺生活を送ってしかるべきだ。
「はぁ…」
わかりやすいため息をついた俺は、電車に乗車しようとする。
すると次の瞬間、俺が望んでいた声がする。
「おい、ルーク!」
「!?」
!?って、漫画かよ。
漫画によく出てくる「!?」って符号、どんな声出してんだよって思ってたけど、実際出してみるとなるほど、びっくりと疑問がぴったり5:5になると出るらしい。
ただ、この符号は二度と使うことはなさそうだが。
実績のトロフィー とかもらえそう。
と、こんなタイミングだったので、まさに!?な状況が出来上がってしまった。
電車に半歩突き出して固まっている状況の俺に、駅員からの怒号が入る。
素直にビビった俺は、すぐその足を引き、駅のホームから遠ざかる。
「何でこのタイミングなんだよ!!」
なるべく人の少ない場所に移動した俺は、椎名に問い詰める。
「だって…お前が勝手に帰るんだもん」
だもんて何、だもんて。
急に女の子らしさ出されると俺困っちゃうんですけど。以外にもメンタル豆腐なことが分かった椎名を見て俺は、
「で、俺が帰ることの何がまずいんだよ」
「…」
椎名は俺の問いには答えず、ただ俺を上目遣いでにらみつけている。
女子の視線に慣れていない俺からすれば、その視線が敵意だとしても、どぎまぎしてしまう。
これに耐えかねた俺は、
「わ、わかった。要は協力だろ?俺がなんかそのよくわからん決闘に協力すりゃいいんだろ?」
そういうと、椎名の顔は、急激 に晴れやかになる。
「ククク…やはり貴様はわが対の者にふさわしい」
いつもの中二テンションが戻ってきた。てか、早くないっすか。
こいつ、自分の調子で相手の呼び名まで変わるのか。そして中二モードの時のほうが敬意を払っているという。ま、こいつはそんなこと考えて使っていないだろうけどな。
「よし、レーギスを仲間にするための作戦会議だ。」
・・・レーギスってのは新出単語だが、この会話からして加藤海葵のことだろう。俺もだいぶこいつになれたもんだな。今なら椎名検定五級くらいは取れる気がする。
「私が話してみて思ったが、やはりレーギスは強敵だ。私一人では苦しい」
あれで会話というのか。まぁ、俺だったら会話にカウントするけど。
それはそれとして、確かに、最初から思っていたことだが、加藤海葵は氷山のごとく意思が動かなそうだ。それを崩すとなると、相当の覚悟が必要そうに見える。
たとえるなら、RPGの最初の村でラスボスと戦うようなものだ。何で最初のミッションにこれ設定しちゃったかなぁ。
俺が勝手に嫌気がさしていると、一つの疑問が俺の頭に降りてくる。
「てか、お前何でそこまで加藤に固執するんだ。同じ中学ってのは分かったが、何も最初に難易度ルナティックやる必要はないだろ」
こいつが加藤大好きなのはわかったが、出会って間もない俺と、この難易度のミッションを最初からやる必要はないように思える。
「ふむ…では、私の闇の養成所の話をしてやるか…」