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第一話「邂逅」-3 “必殺”


「貴様は、暗黒帝国(ダーストニ)の下人か?」


・・・?意味が分からなかった。だーすとに?それに、なんだ下人って。もしかして俺、めっちゃ舐められとる?

後輩になめられるわけにもいかないので、ガツンと一発・・・いえるわけもなく、後輩とも話したこともない俺は、椎名のことを踊り場の上からただにらむことしかできなかった。すると椎名が、


「やはり貴様、暗黒帝国(ダーストニ)の人間か」


そんな意味も分からん自分の設定に浸る椎名に対し、さすがに俺も、


「なんだよ、だーすとにって。なんかのキャラクターか?」

と、ついに口をついて言葉が出る。しかしそんな俺の決死のセリフもどこ吹く風で、椎名は、


「ふむ・・やはりその闇に染まりし目は、暗黒帝国の手先とみて問題なしか・・いや、あるいは・・」


マジで何を言っているんだ。てかおい、聞き捨てならん言葉が聞こえたぞ。闇に染まった目?

・・・確かに、俺の腐った精神が目に影響を及ぼしているのかもしれない。

って、そんなわけあるか。仮にそれが事実だとしたら新手の精神病患者だぞ、俺。

それにしても俺、初対面の人間に見抜かれるほど目腐ってんの?えぇ、普通にショック・・。


そんな精神状態の俺を置いて発信する電車のごとく、椎名は一人で話を進めていく。

てか、こんな状況に置かれたら誰だって電車乗り過ごすわ。そもそもドアないもん。この列車。

俺が一人でしか消費できない脳内愚痴を展開していると、椎名天音は颯爽と、


「よし、貴様、ついてこい。」


そう言って、バナナの房よりでっかいツインテールを翻して俺の手を握る。え・・?そう俺が思ったのもつかの間、椎名天音は全力ダッシュで階段を駆け上がっていく。俺を連れて。


馬車に引かれる荷台の気持ちが、今ならわかる気がする。てか、平地走るならまだしも、階段をひかれながら登るとなると、足引っかかったり椎名の爪が俺の腕に刺さったりでめっちゃ痛い。てか、爪は切れ。危ないぞ。


光満高校は7階建てで敷地も広く、さすが一等地の私立高といった感じの構造だ。ちなみに俺は高校の1年間で一度も上まで登り切ったことはない。

7階にあるのは精々美術室や生徒会室で、あとは空き教室くらいなもんだ。この高校の生徒会や美術部が人気ないのは、こういうところも理由に含まれる。俺だったら絶対嫌だね。毎日部活のためだけに7階登るなんて。美術部がそんなハードに運動したら下手な運動部より筋肉ついちゃいそう。


ところでこいつは俺をどこまで連れて行く気だ?


ふと思い、階段を上りながらどんどん加速していく椎名の顔を見ると、たいそううれしそうな、無邪気な顔を浮かべたいた。そんな彼女の姿は、身長も相まって、こんな偉そうでもやっぱり先月まで中学生だった事実を思い起こさせる。俺はそんな表情の彼女に何も言えず、というか女子の時点で何も言えないんだが、されるがままに階段を上っていく。


何気に女子に手を握られるという、沖名史に残る伝説的な出来事が起こっているのだが、階段を乗り越えることに必死で、気づいたのは後の話だ。



そしてそのまま駆けること約4分。現在7階。だが、椎名はスピードを落とすことなく、屋上へ続く階段を上がっていく。

あれ、とうとう7階まで来ちゃったよ・・・?そう思うのも束の間、なんとまさかの7階を超えて屋上に到着。


屋上にはもちろん人はいなく、さすがに7階の高層ということで俺の約2倍以上の高さの柵が取り囲んでいる。上を見れば、さっき窓から見えた雲一つない青空が俺たちら見下ろす。

部活にも一度も入ったことのない俺からすれば、この4分間階段ダッシュは相当こたえた。


一方の椎名はというと・・・だいぶへばっていた。

えっ。つい心の中でリアクションしちゃったよ。

あの調子だと、まるで走ることがうれしいみたいな感じだったが、そんなにつらかったなら、歩いていけばいいのに。まぁ、言わないけど。

だが、さすがにこの状況には俺も戸惑いを隠せない。屋上についた俺は、勇気を振り絞って椎名に問う。


「おい、椎名天音。俺をここに連れて、どうするつもりだ。」


まるで人質みたいなセリフになっちゃったよ。その問いに対し椎名は、


「ぜぇ、ぜぇ…ほう、わが仮の名を知っていたか・・・だがそれはぁ、こちらの世界だけでの使い捨ての名にすぎん。はぁ、はぁ・・・」

息切れしながら答えてくれる椎名は、さらに続ける。


「ククク・・・ふぁ、特別に、貴様には教えよう、わが本当の名を・・・」

ごくり。2人の空間に緊張が走る。なんなんだ。相手はただの中二病。それに今のセリフ、中二病全開すぎて逆に緊張感が走ってるよ。この演技力。なんかほかのことに生かせないのかと思っちゃうね。

そうして、椎名は口を開く。



「我が名は、“黒血の闇人(シュヴァルツハイト)”、シャインだ。」



思いっきりのどや顔でそんなことを言われた。突っ込みどころがありすぎてどこから突っ込めばいいのかわからない。俺は訝しげに椎名を見る。


「ほう、まだ信じていないようだな…こうなったら、こいつを見せてやる・・ククク・・・」


何やら俺を指さし、ブレザーのポケットをごそごそし始めた。

何も起こるはずないとわかっていながらも、不敵に笑う椎名の姿は鬼気迫るものがあって、思わず気おされてしまう。ぽっけに手を突っ込みながら笑ってるのなんかシュールだな、となぜか急に冷静になってしまった。

すると、椎名は懐から銀色に光る何かを取り出す。まさか、あれは・・


月光(モーント)燕剣(シュバルベ)!!」


中二病全開の必殺技名とともに、椎名は俺めがけて銀色に光るナイフを突き出してきた。

俺もあまりに突然のことで、もろに食らってしまう。俺の人生、こんなとこで終わるのか…

状況を理解する暇もなく、こんなことまで考え始めてしまった。


・・・・・・・あれ?死んでない・・?それどころか痛くもない。顔を上げると、椎名がどや顔しながらこっちを見ている。


「ククク・・見たか、わが刃!!」


そう言って椎名が天に掲げたナイフは、壁に当たると刃が引っ込む、おもちゃのナイフだった。

「なんだよ!!」

つい声を上げてツッコんでしまう。そんな俺のツッコミもむなしく、椎名は淡々と語る。


「これで貴様をとらえていた暗黒面の芽(オブスキュリジェルム)は取り除かれた。これで貴様と私は対等な関係だ。」


緋色のルビーみたいな色のカラコンをした左目で俺を視界にとらえ、椎名はそう話す。

中二病も、ここまでくると大概だな。今すぐにでも帰りたい気持ちを抑えながら、一応これでも女子なんだから、人生の数少ない経験を棒に振るのもいかがなものなのか。と脳内でバトルが繰り広げられている中、椎名は続ける。



「これから貴様に決闘(デュエル)を申し込む!!」



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