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第一話「邂逅」-2 “中二病”



「天に遍く漆黒の殺人者(アサシン)、‟黒血の闇人(シュヴァルツハイト)”椎名天音、ただいま参上。」



惨状だ。俺が過去16年とちょっと生きてきても、いくら友達との会話が続かない帰り道でも、ここまで言葉にできない沈黙は初めてだ。


俺は、あまりの出来事に頭の中を取り乱されつつも、思考をまとめていく。


約五秒間の沈黙。沈黙の時間が終わると、少しづつさっき起きた出来事を整理するようにこそこそと談笑の声が漏れ始める。


あれは、俗にいう中二病という奴だろう。今の一言で分かる、痛いセリフ。やたらにかっこいい外国語。俺も中学時代は、寝る前とかに一人で自分の妄想を展開したものだった。もちろん、家で。一人で。


ただ、ここまでの中二病は、後にも先にも二度と見ないだろう、というレベルそのものであった。

中学のころ、やんちゃで先生が手を付けられないような奴でも、ちょっと痛いやつでも、こうはならんやろ。と言いたくなるような状況。


その少女についてまず目につくことはといえば、少女の髪は、トマトジュースを頭からかぶったかのような赤。真っ赤だ。

この高校は校則の緩さでも人気があるし、確かに金髪や茶髪の生徒は一定数存在する。だが、赤髪なんて今日日アニメでしか見たことがない。しかも赤オンリー。

学校が舞台のアニメでもやたらカラフルな髪形の登場人物はいるが、ここまでの赤髪はなかなかいないぞ。

それに、よくわからんポーズをしながら掲げる右手には、ガッチガチの包帯が巻かれていた。

漆黒とか言ってたが、闇が好きタイプの中二病だな、こいつ。

俺もある意味心の中闇属性だし、何か通ずるところがあるのかもしれない。なんて。


ともかく、このようにパッと見ただけで“普通”じゃない格好をしている少女が、今全校生徒の注目を集めている。

周囲が絶句する中、赤髪の少女は教師に連行されていく。


俺はその少女を目で追っていると、濁りのない青い瞳と、一瞬目があった気がした。


このトンデモハプニングのおかげで、生徒たちの気持ちも少し明るくなったように感じる。いままでは何でこんな式に出なきゃいけないんだよ・・・みたいな雰囲気醸し出してましたもんね、皆さん。こうゆうときに機嫌の悪かったり悪ノリする陽キャの隣に座らされる陰キャの気満ちた入学式は幕を閉じる。


その後、俺はやけにあの赤髪少女の瞳が脳に強く焼き付いた。



面倒だった入学式も終わり、俺はいつものように一人で教室に戻る。

新2年2組の教室には、新しい仲間との少しのぎこちなさと好奇心が感じ取れる。まぁ、もっとも俺には抱く感情も特にはないんだが。自己紹介やだなーくらい。

ただ、1年の時にできた数少ない友人、木下と川上も同じクラスだった。これは俺にとって唯一の救いだね。三日に一回くらいはぼっちめし回避できる・・・。


正常な高校生からしたらとてつもなく低いハードルでも、それを超えた俺は一掴みの幸せを感じられる。これだからボッチは無敵なのだ。自然とこなす日常のハードルが自然と低くなる。ボッチというのは確かにつらいが、慣れてしまえばどうということはない。それに、日常生活が楽というのも、悪くないものである。人生は慣れだ。その環境に適応してしまえばどうにかなる。


しかし、そう考えると、あの中二病少女はどうなるのだろう。おそらく孤独には耐えなれているだろうが、周囲からの目を受けながら過ごすことは決して楽とは言い難い。そんな中、赤髪少女、確か名前は椎名天音。椎名は、どんな気持ちで生きてきたのだろう。

まぁ、実のところあそこまでのひどいのはみたことないしな。そいつの気持ちなんて俺にはわかるはずもない。


「おっ、またおんなじクラスかよ。」


俺が一人考え事をしていると、二つ後ろの席の川上が話しかけてきた。川上は、どこにでもいる男子高校生の代表みたいな顔で、スポーツは万能だが、頭が弱い。というこれまたアニメとかにありがちな特徴だな。圧倒的友人その1感。


「また沖名君と同じクラスか。また、よろしくね。」


さわやかなスマイルで言い放ったこいつは、木下。顔は中性的で、男女とも人気があるって感じだ。まさに陰キャにも声をかけてくれる陰キャと陽キャの狭間の優等生って感じか。


「お、おう。よろしく。」


1年同じクラスだったとはいえ、ガチの親友まで距離が縮まるわけでもないので俺は少しよそよそしいあいさつ。そうゆうとこだぞ、俺。



そして、帰りのホームルームも終わり、特に一緒に帰る友達もいない俺は、速攻で家に帰ろうとする。一番乗りに教室を出ると、担任の先生に呼び止められる。


「沖名、ちょっといいか?提出物の回収、手伝ってくれるか?」


ここで、ノーと言えない俺のコミュニケーション不足が響く。



「はぁ…」

先生に頼まれた仕事を終えた俺は、つい溜息をつく。まさか、速攻で帰ろうとしたことが裏目に出るとは。

今までこういうことにはあまり目を付けられなかった俺だが、今日はついてない。

なんだか今日はいつもの倍は疲れた。

なんかよくわからん新入生は来るわ、先生に雑務を押し付けられるわ。ほんとになんか変な日だ。もうこうなったら、もっと突飛なことでも起こらないか。


なんて、起こるわけないか。


職員室を出た俺は、ふと、廊下の窓に目をやる。

もうほとんどの生徒が帰った後の廊下から見える窓には、やけに晴れた快晴の空が映っていた。これなら雨も降りそうにないな。そう思って階段を駆け下りようとする俺の前に、一人の少女の影が表れた。


その少女とは、皆さん予想どうり、椎名天音だ。

さっきは特徴的なツインテールの髪とガッチガチの包帯しか見えなかったが、近くで見ると、右目が青色、左目が赤色で、なんと両目の色が違う。

だが俺は、すぐにそれがカラコンであると理解する。おそらく左目の椎名の髪と同じ赤色がカラコンなのだろう。

赤と青の双眸をまっすぐに、こちらを見つめてくる。一瞬目が合うが、俺がすぐそらしてしまう。人と目が合わせられない陰キャの宿命ですねこれは。

背は意外と低く、パッと見、中学二年生くらいの印象を受ける。低身長だが、確かにきれいな瞳、スレンダーな体とこれは、外見だけでは結構もてそうなタイプだな。

まあ、先の入学式の件の記憶が鮮明に残っている俺には、そんなことまやかしなのだとわかっているが。


でも、あるいはもしかしたら・・その俺の期待が次の瞬間、打ち砕かれる。


「貴様は、暗黒帝国(ダーストニ)の下人か?」


「は?」


これが、俺と椎名天音の、最初の会話だった。

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