第三話「友情」-6 “友情”
この案件の解決は、無理かもしれない。
そんなことを思いながら俺は七階へ向かう。
「お、帰ってきた!」
「あら、下校の時間までずっと下でうじうじしてると思ったわ」
ひどい。
俺は三人に、あったことをそのまま話した。
一人は俺と同じように青ざめ、もう一人は顔色も変えずに淡々としている。
誰が誰かは言わなくてもわかるだろう。
「はぁ。それはもう無理ね。所詮人間なんてみんな上辺だけのゴミクズということね」
そう言って加藤は席を立つ。
「あのビッチ女も、あの有象無象たちと同じなんでしょう」
それは小林のことを言っているのか。そう思うと少し腹が立ったが、結局言えない。
自分のふがいなさにも腹が立つ。
なんかうなだれている椎名は本当にどうしようもないし、てか、こいつほんとに勢いだけだな。
クソ雑魚メンタルだし。
つまり、この場を収められるのは俺一人ということになる。
この三人で話し回すのもう無理じゃない?
なんて考えている暇もない。
俺も座ってうなだれるかと思い、座ろうとすると、
「加藤さんには、なんもわかんないでしょ!!!」
突然、大声で怒鳴る声がそとから聞こえた。
何事かと教室を出ると、いつものように顔色を一切変えない加藤と踊り場の下に、目を真っ赤にはらしている小林がいた。
なんか穏やかじゃない気配。
「文も風香も、そんなこと言わないよ!!!」
「上辺だけでは何とでもいえるわね。あなた達の友情とやらももはや薄っぺらいものにしか聞こえないわ」
「……!!」
状況から察するに、加藤が俺の見た一部始終を小林に話したらしい。
えぐいことするなこいつ…。
まるで女子によるいじめが起きたみたいな状況だ。実際そんな感じだが。
泣き崩れる小林に、俺はなんて声をかければいいのかわからない。
今だけは、本当に俺の逃げてきた人生を恨んでいる。
この状況下ですら、俺は逃げようとしているのだから。
「ククク…。案ずることはないっ!!!!」
後ろからふと聞こえた声に振り替えると、そこには低身長の赤髪ツインテ少女がいた。
「そのダンス部の友達を改心させればいいだけのことだッッ!」
どうやら机に突っ伏していただけの椎名が復活したようだ。行動力だけに関してはほんとにピカイチだこいつは。
「さぁ、では早速ダンス部に…」
「え、文と風香はダンス部じゃないよ?」
え。
***
今回の事の顛末をお話ししよう。
小林の親友二人がダンス部だったのは俺たちの勘違いで、ほかの二人は部活には入っていないそうだ。
そしてその二人の間でのいざこざも、ただの勘違いだったらしい。(実際には誕生日プレゼントを選んでいただけだったとか)
逆に俺たちが友情がどうのとかぎゃあぎゃあ騒いでいたのがあほらしくなってくる。
結果的には俺が女子にきょどりながら話しかけて女子の怖さを知っただけである。むしろ知りたくなかった…。
なんか今回も俺はなんもしていない気がする。
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いつもの生徒会準備室。
メンバーは、椎名、加藤、そして俺だ。
会話のない虚無の時間が流れる。すると、そこに新しいメンバーが現れる。
「あまねっち―!遊びに来たよー!!」
「おー!
まぁ、ご想像の通り小林紗良だ。相談に乗ってくれたお礼(?)として、部活の休憩時間とかにこっちに遊びに来るらしい。ここまで階段を上ってくるのは、体力づくり的にも良いらしい。
明らかに俺ら三人だと陰キャの集まりみたいな部屋に、自然と明るさがもたらされる。
加藤だけは、唯一不満げだが。
「じゃあねー!あまねっちー!おっきーな!かとーさん!」
俺たちのあだ名らしき名前を呼んだあと、小林は教室を出ていく。おっきーなってなんだよ。
「はぁ、、相変わらず騒がしい女ね」
加藤は相変わらずといっていいか、冷たい目で小林が出て行った教室のドアを見つめる。
「…俺は、最初小林はほかの陽キャと変わんないやつだと思ってたが、今は意外といいやつだなって思ってるぞ」
俺は正直に今の小林のイメージを伝えた。
「………」
加藤からの返答はない。
こんな何事もない日々が続けばいいのに、柄にもなくそう思ってしまった。