第三話「友情」-5 “悪”
その後、練習があるからといって、小林は部活に戻ってしまった。
そのまま俺たちは、小林の親友二人とその彼氏たちの動向を探るとして、お開きになった。
その帰り、俺は七階の生徒会準備室から、下駄箱まで踊り場を下りる途中、俺は体育館の前で活動するダンス部が目に入る。
いつもならまったく気にすることなく素通りしてしまうが、今はやけに小林の様子が気になった。
他の部員に負けまいと頑張る姿。この美しい姿こそ青春のあるべき姿なのではないのだろうか。俺とは真逆の世界に住んでいる人間なのかもしれない。さすがは、陽キャ様だ。
ただ、俺は何度も言うようにそんな輝いた青春だとか、暗い学校生活を送るだとか、そんなことはどうでもいいのだ。
「おい、ルーク、何をしている」
後ろから来た椎名に声を掛けられる。
「ダンス部見てたんだよ。てーさつだ。てーさつ」
「む、ダンス部か。小林さんは確かダンス部だったな」
さすがに見とれていたというのも恥ずかしいので、偵察していたということにする。
「そういや、ほかの二人はダンス部なのかな」
つい、疑問に思っていたことが口をついて出る。
「確か、私が小林さんを連れていくとき、二人の友達に声をかけていた気がする…」
そしたら、それが七谷と清水ということになるのか。ダンス部はぎすぎすしているといっていたし、気心が知れる友人二人には俺らのところに来ることを伝えていたのかもしれない。
そうなると、やはりあの二人に話を聞くのが一番の得策なのか…?
ただ、そんなことができるのはこの話にかかわった三人の中でおそらく、誰一人としていない。
これは八方塞がりか…。
次の日、俺はとくに何をするでもなく、いつもどうりの学校生活を送った。なんかデジャヴ。
すでに放課後の時間を迎えているが、この手の面倒ごとに関して切り出すのは、当然、俺度も加藤でもなく、ヤツだ。
「おい!ルーク!ミキパイも、何をしている!!」
つくづくこいつの行動力には感心する。こいつを知ってからまだ一週間ほどしかたたないが、すでにその行動力とそれに伴う頭のおかしさはだいぶ理解してきた。
ガン無視で本を読む加藤はさておき、俺はめんどくさそうに椎名へ視線を返す。
すると椎名は、
「ククク…そういうと思って、秘策を用意してきたのだ!!
そう言って椎名が取り出したのは、何やら真っ黒な箱。
この”黒封箱“に準じて、紅き印を引いたものが、ダンス部の二人に話を聞きに行くこととする!!
簡単に言うとくじ引きか。椎名の言う黒封箱には、少し割りばしのようなものがはみ出て見える。割りばしはいいんだな。
「加藤、お前はいいのか?」
俺はとりあえずやりたくないので加藤に助け舟を求める。
「えぇ。別に構わないけれど?」
クッソ。もうやるしかないのか…。
「ククク…さぁ、引くのだ!紅の印を!!!!」
こうなったら、己の運にかけるしかない!!
結果はお察しの通りです。
ダンス部が活動している二階の体育館前フロアまでくると、いつも通りに活動に精を出すダンス部の皆さんがいた。
うわぁ。おれちょー行きたくない。
つか、むしろこの状況いけるやつ、おる?
ただ、ずっとここでうじうじもしていられないので、意を決して歩みを進める。(三十分ほどうじうじした後の発言)
「あの…」
おずおずとダンス部の二人に話しかける俺。
「ちょ、ちょっといいかな…」
陰キャ丸出しやん俺。今更感あるけども。
「ん?どうしたの」
俺が話しかけた女子の片方が尋ねてくる。
ダンス部の女子二人は、俺に話しかけてきた方は、金髪でいかにも陽キャそうな感じ、もう片方は、茶髪に、ヘアバンドを付けた陽キャ。
うわぁ…。こまるぅ…。
女子二人がこちらを見つめてきょとんとしている。
ここは一つ、共通の話題である小林のことについて話してみるか。
「なぁ、小林紗良のことについてなんだが…」
そう俺が告げた瞬間、二人の顔が曇る。
「え~あの媚売り女のこと~?」
え。
こわ。
「あの子先輩たちに媚び売りすぎてやばいよね~」
「一生懸命頑張ってます~、みたいなね~」
今、俺の顔はかつてないほど青ざめているかもしれない。
人生で初めて、俺は“ドン引き”した。
別に女子の界隈じゃぁたいしたことではないのかもしれない。
しかし、他人に対して興味のない俺がドン引くということが異常なのだ。
あんなに小林は頑張っていたのに。素人目には、あまり皆差がないように見えた。
だが、俺は部活の中での姿を知っているわけではない。
…これ以上こいつらとは話しても無益な気がする。
「ごめん。やっぱいいや」
俺はそれだけ言い残して七階へと戻る。
一瞬、二人の不思議そうな顔が見えたが、それは気にしないこととしよう。
俺は確かに陰キャだ。物語の主人公になれる器でもない。
心は腐っているが、正義感が消えたわけじゃない。
誰でもあんな陰口たたかれちゃ、誰だって胸糞悪くなる。
この案件の解決は、無理かもしれない。