第三話「友情」-3 “椎名の夢”
「あの小林とかいう女、あろうことか私に友達関連の相談をしてきたのよ…」
加藤は忌々しそうにそう語る。
「ま、友達関係ってわかった瞬間逃げてきたんだけどね」
まぁ、今までの態度からしてこいつは面倒ごとを避けたがりそうだが。
俺との違いは、対人で面倒ごとを持ち込まれたときに、加藤のほうがおそらく会話慣れしているだろうから、断りやすいってところか。
加藤をうらやましいなーと思う俺をよそに、椎名は目を輝かせて言う。
「相談解決…これは我々の活動の第一歩になるぞ!!」
活動ってなんやねん。よくアニメとかにある部活を立ち上げよう、みたいな展開か?これ。
「それには活動のための教室が必要か…よし、そうと決まれば!」
何やら椎名は一人で考え事をし、一人で結論を出したらしい。
「二人とも、7階まで行くぞ!!」
元気よく叫びだす椎名。ほんとに決めたらすぐ、って感じだなこいつは。
「7階かぁ…」
驚くでもなく、淡白な反応を返す俺に、
「あら、本気で上がる気?」
さらさら階段を上る気などないような加藤の言葉。
「まぁ、あいつを拗ねさせるとめんどいしな」
椎名が女子らしくなるという反応に困る空間だけは作りたくない。
「昼休みももう終わるし、急いだほうがいいんじゃないかしら」
そういえば、今は昼休みの時間だった。俺は四時間目の途中ぐらいまで説教され、椎名は昼休みという少し長めのこの時間に俺が加藤に拉致されると思って、うちの教室に来たというわけか。
「……」
俺は重い足取りで階段を上る。
やっとのことで七階にたどり着いた俺は、ある教室の前でずっと腕組みをしている椎名が目に入る。
あいつ、俺が来るまであの体制で待ってたのか…?
ちらちらと横目で俺のことを確認していた椎名は、こちらに向き直り、宣言する。
「ククク…今日から、ここを我々の社とする!!」
そう言って椎名が指さしたのは、生徒会室の横にある、生徒会準備室とかいうよくわからん教室だ。
リアルに何をする部屋かはわからんが、確かにここなら・・・
「ほら見ろ!あいてるぞこの部屋!!」
生徒会は基本毎日活動しているはずなので、それと同時に生徒会準備室も常に空いているということか。椎名にしては随分頭のいい選択をしたな。
勝手に空き教室のカギを持っていくわけにもいかないしな。
俺が勝手に感心していると、椎名は、
「よし、今日の放課後にこの教室集合だ!遅刻厳禁だからな!」
これまた勝手に俺の行動を決めてくるのだった。
決戦の放課後がやってきた。俺は加藤にこの件を伝えるかどうか考えていた。
やはり、一応言ったほうがいいのか…
椎名はおそらく伝えてはいると思うが…
しかし、伝えないというのも…
椎名になんていわれるかわからんし…
いや、違う。なぜあいつだけがこの件から逃れられるんだ。
そう、俺はあいつだけが楽をするのが許せないだけなんだ!!
俺は意を決して加藤に話しかける。
「お、おい。放課後…七階集合だってよ」
超しどろもどろになりながらも、何とか用件を伝える。
「えぇ。天音ちゃんからもう聞いたわよ」
一瞬にこっとして、加藤は答える。
こいつ・・・!
俺は加藤にイラつく、というか恥ずかしいという気持ちを抑え、一人で七階に向かう。
あ、これが共感性羞恥心ですか。伏線回収しちゃったね。
とやかく思いつつも、俺は七階に着く。
生徒会準備室の扉を開けると、そこには一番奥の椅子に足を組みながら偉そうに座っている椎名が目に入る。
そして、遅れて加藤が部屋にやってくる。
生徒会準備室の間取りは、奥に社長椅子みたいにでかい椅子が一つと、その手前に長机、それを囲むように長椅子が三つある。
何で生徒会の“準備室”なのに、こんなに豪華なんだ。これが権力ってやつか…。
椎名は奥の社長椅子に堂々と座り、加藤はその社長椅子に一番近い位置の長椅子に座る。
そして俺は、その二人とはもっとも離れた、入口寄りの長椅子の一番端に座る。
・・・。
場にしばらくの沈黙が訪れる。そもそも椎名は何のために俺らを集めたんだろうか。
小林がどうとかいう話からこうなったことは記憶しているが、そういえば活動の何とかとか言ってたっけ・・?
俺はこの沈黙に意に介すこともなく、お前が集めたんだから、お前からしゃべらなければ会話は始めんぞという固い意志で一人考え事をする。
沈黙が五分ほどたち、ついに俺もいたたまれなくなり、何か言おうと考え始めたところで、椎名がついに口を開く。
「こほん。・・・これより、我々の新たなる活動の開始を宣言するッッ!」
急に大声出すからびっくりした。
それはともかく…
「なんなんだ、その活動ってのは」
俺が反射的に言葉を出す。すると椎名は、
「これは、私の星夢の記録を叶える活動なのだ!!」
ここまで自信満々に自分の設定を話せるのもすごいなと思う。
またこいつの人を巻き込む中二ワールドが始まるのか。
「そのシュテなんちゃらはどういうことなんだ…さすがに俺でもわからないんだが…」
「ただ私のやってみたいことをやってみるというだけのことだが?」
それが何か?というような感じで椎名は首をかしげている。
なんて自分本位な…。
それに、今回のやってみたいことってもしや…
「学校内で発生している問題を人知れず解決する…それって、めちゃかっこいいだろ?」
ほんとにしょーもない動機だった。