第一話「邂逅」-1 “青春”
春。それは出合いあり,別れありの季節。
大人たちは、口をそろえたようにあの頃はよかった、青春はよかったという。
そんな青春の一文字にもなっている春という季節。
春という季節に期待を持つ若者も数多くいることだろう。
実際、俺の眼下に見える新入生たちは、高校という新しい環境に身を投じる己や周りに対しての大いなる不安と期待を抱いている。
そんな一年生の前方に並び立つ季節相応の桜並木は、一年生の心を見透かすように、期待をあおる桜の花びらを舞散らし、また不安をかき消すような大量の花びらを風に乗せている。
そんな桜に背中を押され、己を奮い立たせ、希望に満ちた学校生活を送っていくのだろうろう。君たちは。
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そんな希望に満ちた学校生活を精々送りやがれ馬鹿ども!!
俺はそんな春の空気に浮かれた貴様らとは違う!
俺、沖名陸は、そんな青春送りのアンチである。
俺は確かに陰キャ中の陰キャであると告白しよう。だが、決して陽キャになりたいわけではない。
俺は、陰キャを極め、陰に生き、陰を愛するものだ。
そんな陰キャ代表(自称)の俺だが、なんやかんやで友達を作ることはできる。否、時間の経過とともに少し話しかけてくれるような優しい奴のことを無理して友達と呼んでいるだけだ。
俺には当然、親友と呼べるような存在はできない。
別に親友が欲しいわけじゃない。そんな希望はもう捨てた。
コミュ障の俺にとっては人に話しかけることなどまずできないし、友達ができない理由も自分で分かっている。
そう、俺はほかのやつらとはある意味で違う。俺はほかの高校生どもとは一線を画す卑屈な人間なのだ。
別に何か暗い過去があるわけじゃない。ただ自分には何もできないのだと悟ってしまったのだ。
ただ,自分がちょっと楽しい生活を送れればいいんじゃないか。
そう思って日々を過ごしているだけだ。
友情。恋愛。世間ではそれはそれは尊いものとして扱われているだろう。
だが、俺にとってそんなものは無価値だ。
青春に生きるすべての男女たちよ。お前らは勝手に青春というものを送ってくれればいい。
ただ、俺はそんなものに生きるつもりはない。お前らと俺は違う。
俺の世界一嫌いな言葉は青春だ。今も昔も青春青春と人々は言うが、そもそも青春とは何だろう。
一般的には、青年時代の男女が友情や恋愛を経て様々な経験をしたり、部活等にいそしみ、健全な学校生活を送る。こういうものを青春と世間は言うのだろう。
それに対して俺はどうだろう。友達・・はいるけど俺よりも別の奴らとのほうが断然仲いいし、彼女がいたこともなければこれからできる見込みもなし。部活にも入っていなければ特に打ち込んでいる趣味もない。
青春の過ごし方の反面教師としてはこれ以上ない人材ではないか。
・・・言ってて悲しくならんか、俺。
てか、そもそも正しい青春の過ごし方ってなんだ。俺は間違っているのか?そう考えれば考えるほどに青春という言葉はクソなのだと理解する。
友情なんてくそくらえ。恋愛なんてくそくらえ。これが俺の信条の一つだ。青春なんてくそだ、くそくそ。
・・・おっと、青春を恨む俺の気持ちが強すぎて小学生レベルの語彙力になってしまった。
とにかく、そういうわけで、俺はどうせ一人でこれから一生生きてくんだ。出会いもなく、ただただ一人で楽しむだけの生活が。こんな痛いやつには友情も、恋愛もわかるはずがない。
それでいいんだ。俺には他人の力なんて必要ない。楽しい楽しいアローンライフを過ごしていこう。
そう思っていた。
だが、この時の俺は、知る由もなかった。
この新一年生の入学式が、俺の人生の分岐点であることを。俺の‟青春”の価値が180度変わることになることを。
あの、屋上での、闇の決闘までは。
私立光満高校。東京の一等地にあるこの高校は、偏差値中の上。
特別なイベントごともなく、交通の便も良好なためここらの地域ではそこそこの人気校となっている。
偏差値の上下に大幅な差があることもこの学校の特徴で、平均の偏差値もそこまで高くないこともあって、だいぶ変わったやつや立地から金持ちのお嬢様まで様々だ。
俺も高校に入ったばかりのころは、人気校に入った俺に対して、あんまり交流のなかった奴らから連絡がきたものだった。
だが、俺にそんな友達ができると思うか?
この一年で授業以外で話したことのある女子はそう、0。
今では中学の頃の知り合いとはだれとも連絡を取っていない。そりゃあそうか。てか、別に中学に仲良かった奴なんてほぼいなかったしな。
そんな光満高校に、本日、新一年生が入学してきた。この学校のあしき風習で、新入生の名前を呼ぶだけの入学式に全学年が参加するという伝統があるらしい。
この学校には伝統も特にないといったが、三大光満悪習慣の一つである。紹介する機会があれば、今度残りの二つも紹介しよう。
一部の男子は新入生の女子をチェックする機会らしいが、そんな知り合う予定も絶対ない女子たちのことを知ったってどうにもならない。
俺にとっては、ただの座ってるだけの退屈な時間だ。
あんまりにも暇なんで教師たちの顔色もうかがいつつ、もう寝てもいいんじゃないかとすら思った矢先、この空間にいる誰もが目、いや、耳を疑う瞬間が訪れた。
例外なく、俺も。
そしてこれが、俺の人生最大の出会いとなるのだ。
「1年4組、椎名天音。」
ごくごく普通の名。その名を教師が呼んだ時、とんでもないセリフが放たれる。
「天に遍く漆黒の殺人者、‟黒血の闇人”椎名天音、ただいま参上。」