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Raumzeit 003: 自由の代償(前編)

「結局こいつ何もしてねぇじゃねぇか!!」


 開口一番これである。


 戦いを終え、任務を恙無(つつがな)く終えた俺を待っていたのは、容赦のない罵倒。

今回、俺の自由組合(ギルデャ)からの依頼は、この街道に見えない魔物が居た場合の対処だ。彼らの任務は俺の自由組合からは教えられていないが、恐らく別口から炎熱豹(オーゲニーレオパード)の討伐だけを依頼されたのだろう。同じ自由組合に属してない場合、よくあることだ。

本来であれば事前に打ち合わせなり説明する義務が有るのだろうが、俺は基本的に喋れない。

正確には、体を動かすことができないのだ。思考は兎も角、体は動かしても刹那の間に回帰の魔法で戻ってしまう。

 なので空間魔法で無理やり音声を作って対処した時もあるのだが、どうも俺には音声を作る才能が無かったようで、汎人には聞き取りも困難なうえ怖がられ、獣人には嫌がられて逃げられてしまい、他の種族にも大体まあ似たような結果で終わってしまう。

 普段は筆記を用いるのだが、今回の旅団(パーティア)は字を読める者が居なかったのか、文字が通じなかったため諦めた。元々、無口で影が薄いので、コミュニケーションは得意でないのだ。


 ……今思うと、そこで諦めるべきじゃなかったな。

せめて知らない言葉で喋ってくれれば良いのだが、生憎この国の言語は殆どマスターしている。

この地に同好士(レオル)となる者達が流れ着いた時こそ居なかったが、数百年も滞在すれば多民族国家であろうと大体の言葉は分かってしまうのだ。


「なんか言えやテメー!」

「聞こえてんのかオルァ!!!」

「黙ってるんじゃねーぞ!!なんか言えや!!!」


 そうこう考えてる間にも、旅団員の怒声は木霊する。

一応、助けられたリーダーらしき人物や魔力を感知した魔法使いは加勢こそしないが、彼らも気分は良くないのか積極的に助けはしない。見えない炎熱豹から助けられたという確証もないのもそうだが、彼らを無断で助けたという事態も問題なのだ。勝てる戦いで助力をしたならば、それは獲物を無言で横取りしたのも同然だからだ。

実際に、彼らだけで本当に勝てるかと言われれば答えはNoだ。だが、それを知るのは俺だけで、それを説明できない以上は致し方がない。最初に説明ができなかった時点でこうなることは予想できた。

こういった任務の衝突(ブッキング)が起きた場合は、互いの組合に仲介を頼むしかない……そろそろ街道も終わり、次の街であるラルゴルドが見えてくる頃合いだ。その街で組合に連絡すれば騒動も終わるだろう。



――ラルグルド到着後


そう考えていたのだが、どうも今回の騒動は組合同士の問題に発展してしまったようだ。

こちらの広域魔法士組合「ソボーブラズン」と、むこうの戦闘旅団組合「グラザ・ザビ」との間で情報の行き違いが合ったとして、それがどちらの責任かという面倒な事態になっているようだ。

どうしても決着が付かない場合、最終的な審判は同好士(レオル)に任せることとなるだろう。

しかし同好士(レオル)に相談するというのは最終手段だ。確かに、彼らの審理は厳正かつ公平だろう。だが平たく言えば、彼らの下す結論というのは「どちらにも非に応じた厳罰を下す」という苛烈極まりないものになることが殆どなのだ。


 そう、ここレオディニールでは何をしても自由だ。法無き国、レオディニールと呼ばれるのは伊達ではない。この国は、その国に歯向かわない事だけが唯一の法なのだから。

逆に言えば、このレオディニールは……その自由の元に同好士(レオル)が審理を行い厳罰を下すという、非常に属人的なシステムで国が成り立っている。

そして、改めて言っておこう。この国は、他から逃れてきた騎士や魔道士が治安維持をする超武力国家だ。

国へと唾を吐くような真似をすると、途端に同好士ないし同好兵(レオファンク)が駆けつけてくる。この同好兵というのは、武に特化し武装した同好士だ。

なお、特化していないだけで大体の同好士は強力な戦士や魔法士である。


 彼らの審理は確かに、非常に厳正かつ公平だ。恐らく、そこらの国から連れてきた弁護士では歯が立たないくらいには……そもそも、そうでもないと同好士として認められることはない。

だが、その姿勢には情状酌量という言葉が無い。どんなに小さな子供であろうと獣であろうと組織であろうと、それが自らの意思を有して動いたなら説き伏せ、組み伏せる。物体なら直す。

他の国では、悪いことをすると化け物が来ると子供に説き伏せる。悪い人間は英雄がやっつける。だがこの国(レオディニール)では そんなものは必要ない。その役割には同好士がいる。

 親を切り売りすることになろうと国全体の為に仕えると言われ、彼らの通った後には毒草すら怯えて生えなくなるというのが専らの噂だ。


 なので諍いの仲介などを人々が頼むことも可能だが、まず相互に対話をするのがレオディニールのマナーでありモラルである。

それでも最終的には同好士が仲介せざるを得ないというのが、人間の業なのだと言わざるを得ない。

同好兵が駆けつける事態にならないだけマシだが、まず そんな事態にはならないだろう。





「クソッ!!!こっちにも同好兵が来たぞ!!!!」


「殿を努める!!!全員逃げろ!!!!」


「ダメだ、回り込まれてる!!!」


「やめろおおおおおお!!!」


「助けてくれえ!!!」



 ……なお結論を言えば、そんな事態になった。阿鼻叫喚の渦だ。


 経緯を話すと。どうも今まで相互の自由組合(ギルデャ)が不仲だったのもあるが、相互の連絡人が輪をかけて不仲だった為、これまでも互いに誤った情報を流したり必要な情報を流さなかったりしており、調査の結果として多大な量の不備が存在していたようだ。

これだけなら、まあ互いの連絡員をクビにして表面上は水に流すのだという。それが同好士の下す罰より遥かにマシだからだ。

だが、むこうの連絡員がムキになって親戚の同好士を呼んだのが不味かった。

連絡員は組合長の若い娘で、他の親戚にも同好士が多い……きっと親戚の情や権威で、こちらが有利になると思ったのだろう。


 親を切り売りすることすら厭わないという同好士。まず第一に裁かれたのは、親戚である連絡員であった。

同好士の厳罰とは、決して罰金や労役という程度ではない。自由を愛する彼らは、人の財を奪うことも時間を縛ることも許さない。それは同好士自身でも変わらない。

戦闘旅団組合の名前「グラザ・ザビ」……これは同好士の与える罰を、その名にしたものだと言われている。


グラザ・ザビ。その意味は、目には目を、歯には歯を"与えん"。

 ……その罰は、奪ったものを強制的に返させることに尽きるのだった。



 

次話に続きます。

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