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Raumzeit 002: 断絶の空間

――自由都市国家レオディニール

周辺国からは旅人の国、愛国者の地など様々な名で呼ばれる国。

この国において、人々は常に自由だ。そう謳われるのも間違いではなく、この国の法はたった一つ。


 それは、国に反しない事。


 この国を治めるのは政府ではなく、同好士(レオル)と呼ばれる、国土と国の精霊に契約し剣を捧げた人間が治める。

こう言えば、まあ聞こえは良いが……要するに、この国は他から逃れてきた騎士や魔道士が治安維持をする超武力国家だ。

そして同好士(レオル)も国政を行うわけではなく、実質的な(まつりごと)は彼らに承認された自由組合(ギルデャ)が行っているというのが実情だ。


 種別としては一応汎人(はんじん)が治める、一種の人治国家とされる。一応と書いたのは、そう解釈しない国家があるからだが。

だが国の精霊は同好士(レオル)への加護以外では国に対して関知も干渉もしない為、多くの国は人治国家だと考えるようだ。

その性質上、必ずしも過ごしやすいとは言えない国だが、こういう特殊な国や汎人以外が治める非人治国家でもないと、俺は人から追われる立場になる。

なので、非人治国家である魔導国家ザギオンや獣国家ワオギャオグ、あとは機導国ツーテルなどの国を行き来しているのが現状だ。

この国は特に その歴史上、逃げてきた者に対して寛容なので、これらの中では最も過ごしやすいと言えよう。

国に唾を吐くような真似をしない限り……だが。


 ……何にせよ、今の俺は この国の自由組合(ギルデャ)で魔物討伐を行うのが仕事と言える。


「ここが依頼の地か……」


「かなり瘴気が濃い……こんな所で時空魔法のおぼっちゃまに何が出来るんだ?」


「逆だ、もっと気を引き締めろ……下手するとアイツが全ての手柄を取っちまうぞ?」


「マジかよ、面倒だな……」


まあモンスターの前に同業者(彼ら)の噂の方が、オレにとっては脅威かもしれないが。




魔物、別名モンスター。彼らは人に(あだ)なす脅威の存在。

古代の魔法文明が生み出した存在とも、自然発生した魔法生物とも言われるが、その由来はハッキリしない。

しかし、その古代魔法文明に少しでも触れた俺から言わせてみれば、必ずしも古代魔法が生み出したとは言えないだろう。

何せ、古代どころか人類の黎明期から彼らは存在しているという資料が多く残っている程だ。

確かに古代文明の産物である魔物も多少は存在するが、それも魔物種の一割未満というのが俺の見立てだ。

だが多くに共通するのは、彼らは魔族を除く全ての人種に対して非常に敵対的だということだ。


さて、そろそろ仕事の時間だ。


「来るぞっ!!!」


「炎熱豹!九時の方向だ!!」


「数は!?」「五体、だが伏兵に注意しろ!!」


「情報通りか……!構えろ!!!」


やって来たモンスターは炎熱豹、オーゲニーレオパード。

このレオディニールでは珍しくはないが、決して油断できない魔物だ。

魔物種の中では知性があり、群れを作っては計画的に商隊を襲うこともある……比較的 厄介な魔物だ。

動物種の変異した魔物と見られており、人を知らない幼体(ようたい)から育てれば懐いたり従わせれることもあるという。

だが、この群れに関しては……余計な期待はすべきでないだろう。依頼を遂行せねば。


さて、先程から空間把握で認識している炎熱豹(オーゲニーレオパード)の数は、彼らが言った以上の十五体。魔導車から九時の方向に九体、その真逆から六体。その多くが隠匿型の魔法を使って潜んでいる。

炎熱豹にしては珍しい、陽炎隠匿の魔術だ。熱により光を曲げることで、視覚に頼る人間だけを惑わす……対人間のエキスパートが使う魔法。

だが彼らの発言を訂正する必要はない。今回の契約は彼らに同行し、不可視の敵がいれば叩くというものだ。その戦いを邪魔してはならない。

逃げられてもコトなので今は動かず、奴らを引きつける。


 自由組合(ギルデャ)の雇った戦闘型の旅団(パーティア)である彼らと、尖兵たる豹一匹が接敵する。

炎熱豹の武器は牙や爪だ、故に旅団員の前衛が選んだ武装は槍と棘盾(こくじゅん)

リーチを取り守りに特化した装備を選ぶことで、無用な損失を抑えるつもりだ。多数の武器を扱える熟練者としての装備か。

一つの武器を極める武芸者タイプと違い、装備の切り替えと連携で戦術を組み立てるのが彼らの戦い方なのだろう。

パーティの魔法使いは保存の魔法がかかった氷水を準備し、炎熱魔法への対抗を試みる。

彼ら五人の練度を見るに、五体どころか八体までは十分に戦えるだろう。

力の刻印が彫り込まれ魔力強化された前衛三人なら、倍程度の数的不利は覆せる。だが、不利になった分だけ賭けになるはずだ。


 そろそろ、俺は俺の仕事をしよう。


 まず特殊な空間延長の魔法で、後方の七体と物理的な距離を取る。おおよそ数百メートルほど空間を伸ばせば良いだろう。

この魔法では物体や光は引き伸ばされたり歪んだりはしない。時間にも影響はない。ただ、後方の六体は見た目以上の距離を走破せねば、魔導車まで追いつけない。

炎熱豹は速度に優れるが、持久力は少ない。かなり長くしたので、ここまで来れたところで戦闘できるような体力は残ってないだろう。


 また、挟み撃ちの予定だったところを劣勢に追い込まれた前方では、そろそろ隠匿魔法を使っている四体がカバーに入ろうとするようだ。

痺れを切らした前衛の一人に、隠匿魔法を使ったままの一体が襲いかかる。

襲いかかられた側も直前で気付いたようだが、横からの襲撃に対抗するには体勢が悪い。


 なので空間分割で襲い来る炎熱豹を捕獲、そのまま処理する。

……空間ごと処理したので、見た目では殆ど何が起きたか分からないだろう。

他の隠匿している炎熱豹が流れを読めず戸惑ってる間に、これらも捕獲。魔力が勿体ないが、これらも同様に処理する。

最後に、後方の六体が延長空間に入ってる間に、その空間を少しずつ元の距離に戻してやる。

ただし今度は内部の物体ごと圧縮、縮小……これで、残りは見えている五体だけ。

次元の並列化により同時に多くを考えれるようになっている頭で、倒した炎熱豹の魂に一つ一つ謝意と祈りを捧げる。


仲間のバックアップが受けられないどころか、その仲間が気配ごと消えてしまった尖兵の炎熱豹は狼狽えて連携が取れなくなる。

連携の取れない魔物を屠るなど、この旅団(パーティア)にとって造作もないことだ。

これにより滞りなく、俺たちは戦闘を終えたのだった……

やや遅れました。

20/04/19: 自由組合の読みを「ギルド」から「ギルデャ」に変更しました。分かりやすさを重視する為にギルドのままにする案も有りましたが、整合性を優先。なので後書きに変更の経緯を記しておく次第です。

他、各話を見直して微修正。

話自体に変更は有りませんが、補足説明やルビの振り直しなどを行いました。

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