悪戯必中と疾風戦姫と初心者2
渡された板に人生で初めてのサインを書いてミクと呼ばれている女性に渡す。
「やったぁ、ロキさんのサインだぁ」
キャッキャキャッキャはしゃいでいるミクを見るとどうも恥ずかしくなってくる。
「おいおい、喜ぶのはそこまでにしておけ」
このままではいつまでも俺のサインを抱きしめていそうなのでヒルデが話題を戻す。
「はっ、すみません。つい」
「それでアイテムなのだが、何があるんだ?」
カウンターに戻り俺のサインをアイテムボックスに保管したミクがカウンターの上に様々なアイテムを
置いた。
「HP回復ポーションC、UC、R MP回復ポーションC、UC、R
他には解毒ポーションC、UC、R 状態異常回復ポーションN 転移の巻物やお守りシリーズ全種類が
あります。他にもアイテムはあるんですが、今は消費してしまったら補充できなくなるので定価の倍以上の値段になりますが?」
結構品揃えは良さそうだ。俺がβのときにこの町の道具屋でアイテムを見た時はポーション系はUCまでしかなく、お守りシリーズでは炎、土、風の三種類しかなかった。
お守りシリーズは全部で炎、水、土、雷、氷、風、闇、光の八つがある。
まぁ、《アインス》から次の街まで行くのに出てくる敵で属性持ちは風と土でたまに炎が出るくらいだ。
「へぇ、じゃあHP,MP回復ポーションC、UC、Rそれぞれ30本頂こう。転移の巻物は10個あればいいか、私とロキはたくさん持ってるだろうから、アリンは他に何かいるか?」
常連かのようにヒルデがミクの店のアイテムを購入する。
ポーションの価格はC一本200G、UCは350G、Rは500Gする。
それがそれぞれ30本となれば15,550G、転移の巻物は700Gはする。
合計22,550Gと結構な値段になる。
「遠慮するなよ。俺が払うから他にも好きなもの買って良いぞ」
どれを購入したらいいのかわからないといいたそうなアリンにボソッと呟く。
「うぅ~ん、ロキとヒルデ先輩はどれを買えばいいと思いますか?」
「そうだな、お守りシリーズの風と土は必須だな。ついでに炎も買っておいた方がいいだろう」
「俺もそう思う。じゃあえっとミクさん?それもお願い」
「ミクで良いですよ。お守りシリーズの風、土、炎ですね。三つ合わせて4,500Gになります」
アイテムボックスから金を引き出してミクに渡す。
「まいどあり」
「次の街まではとりあえず、これだけあれば行けるだろう。次は装備だな。世話になったな」
「いえ、ロキさんもアリンさんもまた来てくださいね。サービスはまだできないですけど、次の街に行けたらサービスしますね」
「おう、俺もいらないアイテムがあったら持ってくるわ」
「それは、助かります」
ミクの店から出て、次は鍛冶屋を目指す。
鍛冶屋は二か所あるのだが、ここから近い方へ行く。
鍛冶屋はまだNPCの店しかないので売っているアイテムはどちらも同じだ。
違うところといえば、クエストの違いだろうか。
ギルドで受けるクエストの中には道具屋や鍛冶屋からの依頼もある。
クエスト報酬で割引などもある。まぁ、その場合は配達クエストか採取クエストなのだが。
「ここだな」
ミクの店があったところからすぐそばにあった鍛冶屋に入る。
「いらっしゃい」
厳ついおっさんNPCの重低音ボイスが店内に響きわたる。
店内は熱気に包まれており、肌に熱が伝わる。こういうところの再現も完璧だ。
本当にゲームなのか疑ってしまう。最近の技術はすごい。
「魔法師のアイテムが欲しいのだが、何がある?」
厳ついおっさんにヒルデが話しかける。
「見習い魔法師シリーズと疾風シリーズ、大地シリーズ、ウィンドウルフシリーズがある。武器は見習い魔法師の杖と疾風の杖、大地の杖、魔導の杖がある」
品揃えはβのときと変わっていなかった。
「どうせなら全部買うか?」
「えぇ、それは悪いわよ。一番付けそうな装備を選んで」
「さっき、お守りシリーズを買ったしな、ウィンドウルフシリーズと武器は魔導の杖でいいだろう」
「魔導の杖って確かMPを10%上昇でウィンドウルフシリーズは敏捷を5%上昇だったっけ?」
「あぁ、疾風と大地の方は風と土属性ダメージ耐性小が付くのだが、お守りシリーズがあるしな、ここは
敏捷性をあげるウィンドウルフシリーズの方がいいだろう」
ということでウィンドウルフシリーズと魔導の杖を購入した。勿論、俺の金からだ。
まぁ、ウィンドウルフシリーズの値段は4,000Gで魔導の杖が2,500Gだった。
ウィンドウルフの帽子 1,000G
ウィンドウルフのローブ 2,500G
ウィンドウルフのブーツ 1,500G
ついでに俺の投擲ナイフも50本購入したので7,500Gも追加される。
「まいど、福引券14枚付けておくぞ」
ここの店では1,000Gごとに福引券を一枚もらえるようだ。
俺の記憶が正しければ福引でもらえる景品の中にはなかなかのレアアイテムがあった。
装備アイテムの他にも珍しいダンジョンに挑戦できるチケットもあったと思う。
そのダンジョンは経験値が多く貰えるダンジョンだったはずだ。
俺も一度だけ当たり挑んだのだが、一回攻略するだけで当時レベル34だった俺のレベルは47まで上がった。一気に13もレベルが上がり、はしゃいでいたのを覚えている。
30を超えたあたりからレベルは少しずつ上がりにくくなるのだが、それが一気に上がった。
レベル5のアリンが攻略すれば一気に20まで上がるだろう。ここは是非とも当てておきたい。
「福引でも引きに行くか」
「確かレベル上げに最適なダンジョンへの挑戦権がもらえたな。それが当たればアリンのレベル上げは楽に進むのだが」
「14枚もあれば一回くらい当たるだろう」
鍛冶屋から出て福引やを目指す。
福引屋があるのは商店街の端だ。
ここから歩いて三分ほどである。
カランカランカランと福引屋に近づくと聞こえてくる。
誰かが上位賞を引き当てたのだろう。
現実世界なら上位賞はなくなったら終了なのだが、このゲームでは特賞以外はなくなることはない。
特賞がなくなったとしても、また別の特賞が用意されるので当たりがなくなるということはない。
「一等 剛鉄シリーズ」
「よっしゃぁ」
どうやら、一等が出たようだ。
剛鉄シリーズは四つほど次の街で現れるフィールドボスの落とすドロップアイテムから作られる防具なのだが、耐久値が馬鹿みたいに高く、防御力も馬鹿高い、その分敏捷は落ちてしまうが仕方ない。
一等を当てたのは少年だったのだが、装備を見る限り初心者プレイヤーだった。
見習い騎士の装備だったので剛鉄シリーズは良かったのだろうが、ステータス値が心配だ。
このゲームの装備アイテムの中には装備条件が求められることがある。
今回の剛鉄シリーズの装備条件は確かSTR値とVIT値が700オーバーだったはずだ。
見る限り初心者プレイヤーである彼には剛鉄シリーズを纏えるようになるにはまだ先の話だろう。
「さて、俺達も引くことにしようぜ」
「そうだな。アリンは何を狙っているんだ?」
「えっと、魔法師に関するアイテム狙いでいきます」
「俺はダンジョンチケットだな。やっぱりレベル上げを効率的に行うにはあのダンジョンチケットをゲットしておきたい。ヒルデは何狙いだ?」
「私はレアなアイテムであればなんでもいい」
そういえばヒルデの趣味の一つにレアなアイテムを集める。
いわゆるアイテムコレクターという人種であったことを思い出した。
実際にヒルデの持つアイテムの中には超が五つほどつくレアアイテムも何個かあり、βでもレアアイテムがドロップした時はいつも顔を歪めていた。
そのなかでも笑ってしまったのは俺とヒルデと何人かでパーティを組んだときにクリアしたクエストの報酬でレアアイテムがあったときにメンバー内でのアイテム配分に悩んでいた時だ。
本人は無自覚だろうが小声で「ソロでクリアした方がよかったかな」と呟いていた。
どんだけアイテム好きなんだって突っ込んでしまった。
まぁ、そのときは俺はいらんから他のメンバーで分けたのだが、結局そのアイテムは他のメンバーに渡されてヒルデはもう一度クリアしてくるといってパーティーを抜けた。
そのあとはだって?いわなくても分かるだろ。一瞬でクリアしたヒルデはレアアイテムを眺めてうっとりとしていた。
ということでくじ引きをした。
最初はアリンが引く。アリンは五回分引ける。
「五回分で」
「はい、ではこちらのガラガラを回して下さい」
NPCが指さすガラガラを回すと・・・
「残念賞の魔物の骨×10です」
まぁ、まだ一回だ。まだ四回もある←フラグ
「残念賞です」
「残念賞です」
「残念賞です」
「う、うぅぅぅぅ」
四回回すが全部残念賞の魔物の骨×10だ。
この魔物の骨は少し先のフィールドに出現する獣型モンスターのドロップアイテムで装備の素材となったりする。まぁ、ほとんどが打撃系の武器なのだがな・・・
ラスト一回を前にしたアリンはというと涙目だ。
「残念賞ばっかりじゃないッ」
「そ、そういうこともあるだろう。さっき大当たりがでたのを見ただろ」
ヒルデも若干憐みの視線を向ける。
「お願いだからッなんか残念賞以外出てよぉぉぉぉぉ」
アリンはそれはもう雄叫びといっていいほどの大声をあげてガラガラを回す。
「えっ・・・金色ッ」
アリンが出したのは金色の球だったらしい。確か金色は二等だったはずだ。
「おめでとうございます三等の経験値クエストのチケットです」
「三・・・とう?」
アリンがだした黄金の球は三等のモノだったらしく景品の描かれている紙を見る。
一等・・・虹
二等・・・金
三等・・・黄
四等・・・緑
五等・・・赤
残念賞・・白
特賞・・・黒
えっと、三等ってことは金色じゃなくて黄色だったと?光が反射したことで金色に見えただけで実際は三等だったと・・・プっ
「プっ・・・アハハハハ、金色と黄色を見間違えるなんて・・・ブフォッ」
「お、おいロキアリンがかわい・・・ブフッ」
「・・・グスッ・・・ヒグッ・・・」
あまりにも衝撃的な展開だったせいで俺とヒルデは笑ってしまった。
だって、金と黄色を間違えたんだぜ。ブフッ・・・駄目だ。腹が捩れる。
その後、俺とヒルデが笑ったせいでアリンが拗ねてしまい現在機嫌を直している最中である。
「よ、良かったじゃねぇか。全部残念賞は避けれて」
「そ、そうだぞ。経験値クエストのチケットは貴重だ。そのクエスト一回クリアしたらアリンのレベルなら一気に10は上がるだろう。だから拗ねるな」
「・・・どうせ私はソシャゲのガチャで重課金してしまうようなプレイヤーですよ」
駄目だ。完全に拗ねている。
「そ、そうだ。アリンは魔法師系のアイテムが欲しかったんだよな。お、俺がもし当てたらあげるから」
「わ、私もな魔法はあまり使わないのでな。アリンに渡そう」
「・・・遠回しに嫌味いってますよね。自分だったら当てられるって・・・トッププレイヤーは運気もトップレベルなんですか・・・グスッ」
だぁぁぁぁもうッ、めんどくせぇ
「ヒルデこいつのこと頼む。俺はちょっくら戦ってくる」
「全部残念賞を引くきか?」
「まあな、俺が全部残念賞だったらアリンは元に戻るだろう」
「すまない。私がギルドマスターであるというのに・・・」
「いいって、ヒルデにはいつも世話になってるしな・・・多分」
そういって俺は先ほどのくじ引きの前までやってきた。
「四回分で頼む」
残り五回はヒルデに残しておこう。あいつはレアアイテムを狙っているらしいし。
五回もあれば一発喰らいでるだろう。
本音をいうと四回だけの方が残念賞で全て埋め尽くす確率が高いからだ。
そして俺はガラガラを回した・・・
一回目・・・三等 経験値クエストのチケット
二回目・・・三等 経験値クエストのチケット
三回目・・・一等 セブンス・クリスタルロッド
四回目・・・特賞 戦女神シリーズ
「やっちゃった?」
あれ、おかしいな。俺ってこんなに運がいいわけないんだけどな。
普段はなかなかガチャで辺りが出ずグぬぬと現在のアリンのようになっているはずなのだが。
「なんでこういうときに大当たり連発させるんだよッ」
三等はまだ許そう。だが一等と特賞貴様らはダメだ。
一等のセブンス・クリスタルロッドは全属性魔法攻撃威力上昇40%とバカげた能力を持っており。
ロッドというだけあって魔法職が装備する武器である。
そして特賞の戦女神シリーズ。
これははっきりいうとヒルデに装備させるためだけの装備かもしれない。
この戦女神シリーズというのはコンボ攻撃を行う者専用といっても過言ではない装備である。
一定のコンボ数を超えると徐々にステータス(特にAGI)が上昇していき最終的には全ステータス十倍にもなってしまうチート装備である。
女性専用装備でありヒルデの職業である舞姫と抜群に相性のいい装備だ。
先ほどコンボ攻撃を行う者専用といったが訂正しよう。
この装備はヒルデのためにあるといっても過言ではない。
β時代に嫌というほどみてきた彼女のコンボ攻撃がこの装備を付けた状態で行われたとすれば・・・考えただけで背筋が凍ってしまう。
とりあえずヒルデとアリンがいる所へと戻ったのだが。
「良かったね三等が二回に一等と特賞が一回ずつだって」
アリンにすんごいジト目を向けられています。
ヒルデの方はというとだが
「何故こういうときに大当たりを出すんだ」と顔が言っている。
「は、ははは、な、何でだろうな」
「やっぱりトッププレイヤーは運気もトップレベルだったか・・・」
アリンの目は虚ろとしておりどこか遠いところを見ている。
「まぁまて、私が引いてこよう。コイツがおかしいだけだ。私もきっと残念賞だけで終わる」
そういってヒルデも五回くじ引きを引いたのだが。
「ほ、ほらな。全部残念賞だったぞ」
確かに全部残念賞だった。しかし、アリンと違う点が一つだけある。
それは残念賞には色々な種類がありアリンが引いた魔物の骨の他にも魔物の毛皮やら魔物の血液などがあるのだ。魔物の毛皮は魔法師のローブの素材だった血液の方はMPポーションの素材になったりする。
つまりどういうことがいいたいのかというとヒルデが引いた残念賞のうち三つは魔物の毛皮×10で残り二つは魔物の血液×10だったのだ。
魔法師のアイテムに掠りすらしなかったヒルデと比べるとなんともまぁ・・・酷いな。
だがまぁ、そんなことをしらないアリンはなんとか立ち直り俺をキッと睨んだ。
「チート野郎」
「あ、あはは・・・そ、そうだッ、このセブンス・クリスタルロッドはアリンにあげるから」
俺はアイテムボックスから先ほど入手したセブンス・クリスタルロッドを取り出してアリンに渡す。
「綺麗な杖」
七色の宝石を埋め込まれた幻想的な杖を見てアリンも落ち着いた。
「いいの?貰っちゃって」
「あぁ、俺は使わんし。ヒルデも使わんだろ。まぁ、こいつの装備条件は職業が魔法使いにならないと駄目だからまだ装備は出来ないがな」
「ありがとう」
彼女は素直に杖を受け取り自身のアイテムボックスへとしまった。
「あとは、こっちの装備はヒルデにやるよ」
今度は戦女神シリーズをヒルデへと渡す。
「なっ、これは戦女神シリーズじゃないかッ」
「あぁ、この装備と相性がいいのは舞姫であるヒルデしかいないし」
「し、しかし」
「ちなみにこれは女性専用装備だ。俺は男だオーケー?」
「それはそうだが・・・ほんとにいいのか?」
「当たり前。ほらほらギルドマスターとして後衛のヒルデとサポートの俺を引っ張って行ってもらわないといけないんだから今でもバ火力なお前の火力を超バ火力まであげといて損はないだろ」
「分かった。ありがたく使わせてもらおう」
こうしてちょっとした・・・いや、ちょっとどころではないが混沌としたくじ引きが終わり
俺達はアリンのレベル上げへと向かうのであった。