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俺と女剣士と初心者

 やっと主人公視点が書けます。

ネタバレというかこの作品のメインとなるヒロインはアリンともう一人います。



 俺がこのゲームと出会ったのは姉にβテスターをしてみないかと誘われたからだ。

俺の姉は最新鋭のVR技術開発チームの開発部に所属している。


 大学でもVR技術を学んでいた姉は卒業後にすぐにゲーム会社の一つであった

『オリュンポス』に就職したのであった。


 姉はゲームをそれほどする人ではなかったが最先端VR技術の開発に立ち会えると聞きそこへ就職した。

就職後は活き活きとしていた。


 そんな姉であったがその姉が初めて受け持ったのがVRMMORPG開発だった。

そのゲームの名は『fantasy saga online』開発初期は様々な演出やグラフィック、リソースの問題で

ほとんど進まなかった。誰もが諦めようとしたときに新たなシステムの開発に成功した。


 そのシステムは『Zeus』

『Zeus』は発生したバグを解析し修復する機能を持った人工知能

そのシステムを開発した人物は当時『オリュンポス』のシステム開発部で主任を務めていた奥澤(おおさわ)博士


 彼女は幼少の頃からガラクタからPCを創り出すなど周りとは少し違った育ち方をした女性でその性格のせいで周りとは馴染めなかった。そんな彼女がはまったのはオンラインゲーム。大学卒業後、テレビゲームで有名だった企業『MINTENDO』に所属するも彼女が初めて主任を担当したゲームの売れ行きが上手くいかず、そのまま彼女は会社を辞めてしまった。


 そんな彼女をスカウトしたのが『オリュンポス』の社長である(やなぎ)重蔵じゅうぞう

その後『オリュンポス』のシステム開発部で主任となった彼女はVR技術がもたらす可能性とゲームのシステムに全てを掛けて創り出したシステムが『Zeus』


 そんなこんなで完成したゲームがfantasy saga onlineだ。

姉が開発に関わったということもあり、俺はβテスターとしての参戦が決まった。

正直最初はあまり興味がなかった。

 

 うちはほとんどゲームをしない家庭だったせいだ。

それまでやったことがあったゲームと言えば脳トレかクレーンゲームくらいだった。


 だから最初は「まぁ、せっかくもらったんだしやってみるか」っていう軽い気持ちだった。

初めてゲームの中にはいったときは言葉を失った。


 「これがゲームの中なのか?ウソだろ。違う世界に来たんじゃないか」

本当にそれしか言葉にできなかった。


 それから俺はこのゲームを馬鹿みたいに遊んだ。

最初の職業は罠師にした。


 理由はやっている人が少なかったのと剣とか槍を使うのは誰かとスタイルが被りそうだからやめた。

罠師の攻撃力は最低だった。物理攻撃主体ではあったがそのほとんどが物理攻撃最低火力を誇る魔法師より

少し強いくらいだった。


 俺は燃えた。

「フフフ・・・このハードモードなゲームで俺はトップを取ってやる」


 それからはモンスターの攻撃パターンや他の職業のアーツ、スキル、その他諸々暗記してやった。

覚えるのには苦労したが、そのおかげでもあるが俺はトッププレイヤーの一角まで上り詰めた。

もう一つの職業でも・・・


 βテスト最終日


 「今日こそは貴様をぶった切ってやる」


 俺の目の前で怒りに震えながら決闘を申し込んでくるラピスラズリのような青い髪を持つ美しい女剣士は俺と同じくこのゲーム内でトッププレイヤーの一角である最強の女剣士《疾風戦姫(ブレイドダンス)》ヒルデ


 「はぁ、何回決闘挑んでくるんだよ」


 「これで五回目だ。毎回毎回決闘を受けずに逃げるなど、さぁ、今日こそは受けてもらう」


 「分かった分かった。今日で最後だしな」


 渋々と彼女からの決闘の申し込みを受ける。


 彼女の職業は剣士の最上位職である舞姫だ。

このゲームはレベルが上がると職業も進化し強力なアーツが習得できるのだがその進化過程にも様々な種類がある。


 例えば 剣士から剣豪か双剣使いまたは大剣使いのどれかに転職できる。

そこからは剣豪から大剣豪、双剣使いから舞姫(男なら御子)、大剣使いから剣聖となる。


 俺の罠師にはそういった転職システムはないのだがその代わりある程度のアーツなら全職業のアーツを覚えることができる。まぁ、その代わり習得するのにかかるポイントは倍くらい必要なのだが・・・


 『 3・2・1・0 DUEL FIGHT 』


 開始と同時に彼女は舞姫専用アーツの一つ《剣ノ舞(つるぎのまい)》を使う。

このアーツは自身のアーツからアーツへの移りを加速させる。

舞姫の特徴的な戦い方としてコンボ攻撃がある。


 舞姫以外の職業ではアーツの発動後、少しだが硬直が発生してしまう。

しかし、舞姫にはそれがなく、むしろアーツからアーツへのチェインが激しく。踊るように戦うことができる。それゆえに彼女の二つ名は《疾風戦姫ブレイドダンス


 「はぁッ」


 アーツの発動後は俺に向かって飛んでくる。

まだ罠の準備は出来ていなかった俺は自身の身体能力を騎士のもつアーツ《身体能力強化(ブースト)》を使って回避する。


しっかりと回避したものの、再び彼女は一直線に俺へと向かってくる。


 「全く、とんだイノシシ姫様だな」


 「誰がイノシシ姫だ。どこからどう見ても人間だろう」


 「冗談だって。おたくみたいな別嬪さんに迫られる俺ってばモテ期到来」


 彼女の精神を揺さぶろうと思いちょっとした軽口を吐く。


 「ふん、お世辞はいらんが・・・素直に受け取っておこう」


 ほんの少しだけ動きが鈍くなった彼女の顔はわずかだが朱に染まっている。

瞳もどこか熱を帯びており彼女の可憐で美しい容姿が合わさりとても魅力的な雰囲気を出している。


 「ほんともっと女らしくしろ、なんてはいわないが、もう少し優しくしてくれないか?」


 「優しくだと?今は決闘中だ優しくする必要なんてないだろ」


 そこで俺は思い出す。

彼女はかなりの脳筋であったと・・・ほんと容姿はいいのに性格がもったいない。

それゆえに、たまに見せる乙女な一面にギャップ萌えしてしまうのは仕方ない。


 「避けてばかりでは勝てないぞ、ほら、いつもの小癪な罠はどうした?」


 「さぁな、もしかすると既におたくの周りに設置されてるかもしれないぜ」


 「なんだと・・・ってそんなすぐに設置できるものか」


 「ちっ、だまされなかったか。でも、この世界の罠っていうの結構簡単に設置できるもんなんだぜ。

しってるだろ、何回かパーティ組んだんだからよ」


 「そ、その・・・モンスターに攻撃するばかりで貴様の動きはほとんど見てなかっだ」


 「そ、そうかい・・・まぁ、おたくはずっとモンスターのヘイトを受け持ってくれてたもんな。

すげー助かったぜ。そのおかげでバンバン罠を設置できたからな」


 「・・・ありがとう・・・しかし、手は抜かないぞ」


 俺は正直、彼女と戦うのは気が引ける。

俺自身が設置できる罠はほとんどエグイのだ。拷問器具を使う罠だってある。

女性に対して暴力を振るったりするのは俺のプライドが許さないなんてカッコいことは言わないが

幼少の頃から姉と従妹により植え付けられたトラウマが俺の体を鈍らせる。


 「ちょこまかと・・・喰らえ《鳳凰円舞(ほうおうえんぶ)》」


 舞姫専用アーツの一つ《鳳凰円舞》

炎属性の物理攻撃。その特徴としてとらえられるのは自身が停止させるかMPの続く限り攻撃し続けるというこのゲーム内でおそらく最高位の連続攻撃アーツだ。


 炎エフェクトが彼女の体からあふれ出ると先ほどまで青かった彼女の髪が毛先まで赤く染まる。

宝石に例えるならルビーだろうか。


 「さぁ、貴様のHPが先になくなるか、私のMPが先に尽きるか勝負といこうじゃないか」


 炎が一層激しく燃えると一瞬で俺との距離を詰められる。


 「ガハッ」


 彼女の振るう二本の曲刀が俺の腹部を切りつけると俺のHPバーの五分の一が減らされた。

このままでは彼女に斬られ続けてそのまま負けてしまう。


 女性を傷つけるのは嫌だが負けるのはもっといやだ。


 「《煙幕(えんまく)》《影移動(かげいどう)》」


 盗賊のアーツ《煙幕(えんまく)》を使ってここら半径五メートル以内に煙幕を張る。

その後、今度は忍者のアーツ《影移動(かげいどう)》を発動し彼女の影に隠れる。


 このままタイムアップまでいたいところだが《影移動(かげいどう)》で影の中に潜伏できる時間は精々一分かそこら。

今のうちの彼女の周りに罠を設置しておきたい。


 「どこだッ?逃げてばかりで私をコケにしているのか」


 煙幕が晴れると彼女は俺の姿が見えないことにイライラを募らせる。

発動していた《鳳凰円舞(ほうおうえんぶ)も一度キャンセルした。これで再び《鳳凰円舞(ほうおうえんぶ)》をリキャストするまでに五分かかる。その間に彼女は俺の姿を探すことに意識を巡らせる。


 一分後


 「おたくの影、結構居心地よかったぜ」


 彼女の背後から出た俺は彼女の耳元で囁く。


 「フンッ」


 彼女は回転するように俺を斬りつけるがそう動くのは予想通り。

彼女の足元に俺の足を出してつまずかせる。彼女の剣は俺の顔すれすれを通り去り

彼女もまた倒れてしまう。


 「ほいっ、悪いがこのままタイムアップまで過ごしてもらうぜ」


 倒れる彼女をお姫様抱っこする。


 「ば、馬鹿者。おろせ」


 怒った彼女は剣を振りまわす。すぐさま彼女を下ろして再び回避に徹する。

そんな俺に嫌気がさした彼女はついに声を荒げる。


 「何故攻撃しない?」


 「何故っていわれてもなぁ、女性を傷つけるのはゲームのなかとはいえども嫌だし」


 「そんなことで・・・貴様は私を馬鹿にしているのか」


 俺の回答がどうやら気に入らなかったらしくさらに声を荒げる。

顔を俯かせていた彼女が再び顔をあげこちらを見るとその瞳は怒りを帯びていた。


 「女だからと言って手加減されるのはこれ以上ない屈辱だ」


 「手加減してるわけじゃないさ。それに半分はおたくが悪いんだぜ。綺麗な顔してるから傷つけるのを躊躇っちまうんだよ」


 「なっ・・・わ、私は女らしくないのではなかったのか?」


 「確かに女らしくないとはいったが、おたくはれっきとした女だろ。えっ、おたくって実は男だったのか?だったら今から俺の目に映る女性の大半は女として認識できなくなるぞ」


 考えただけでも恐ろしい。これほどの美少女に見えるというのに実際は男だったなんて・・・

軽く人間不信患うぞ。割と本気で


 「さっきから貴様は何を言ってるんだ」


 彼女の攻撃が止まる。よし、このままタイムアップまで時間を稼いでやる。

「何っておたくの話だけど?」


 「わ、わ、私のことを綺麗だなどと」


 「いや、実際にそうだろ。少なくとも俺には綺麗に見える。というか綺麗に見えなかったら俺はそいつの目と頭を疑う」


 三割ほど冗談を交えたことを話す。

嘘をつくときなんかは七割ほど本当のことを話せば大抵の奴は騙せる。まぁ、今回のは嘘じゃなくて本当のことなのだが・・・


 「だ、黙れ。今はそんなこと関係ない」


 「なぁ、この決闘でさ勝った方は相手のいうことを聞くってルール追加しないか。そうすれば俺もやる気がでる」



 流石にこれ以上の時間稼ぎは無理だと判断した俺は残り三分という

状況である提案を持ちかける。

負けた方が勝った方のいうことを聞くというルールだ。


 これを持ちかければ多少動きが鈍かったとしても本気戦っているように思われる。


 「なんだと」


 「アレレ?急に自信なくしちゃいましたか」


 挑発をかけて動きを単調にさせる。


 「わかった。それで貴様が本気を出すならいいだろう。

それでだ、私が貴様に勝ったときは私が貴様になんでも命令していいんだろうな?」


 「もちろんだ。まぁ、お前を勝たせるなんてことはしないがな」


 「面白い。つい先日習得した舞姫の奥義を使ってやろう」


 「なんだそれ、聞いてないぞ」


 奥義とはひとつの職業にひとつあるアーツのことだ。

そのどれもが強力な技である。


 しかも最上位職ともなれば奥義習得に必要なレベルは確か100立ったと思う。このゲームのレベル限界値は150である。

まぁ、β版なので製品版となればもう少し限界値は上がるだろうが。


 つまり彼女のレベルは少なくとも100を越えている。


 「いくぞ《剣ノ舞(つるぎのまい) 桜花(おうか)》」


 《剣ノ舞(つるぎのまい) 桜花(おうか)


 姉さんに聞いたことがある。

なんでもこのアーツの発動中は自身のMPバーとはまた違ったバーが現れ、そのバーがゼロになるまでの間ならMPを消費することなくアーツを使い放題だと、しかも、先ほどの《鳳凰円舞(ほうおうえんぶ)》と組み合わせれば・・・考えただけでも恐ろしい。


 彼女の周りに桜の花弁が舞う。

桜に祝福されているかのようだ。いや、桜を味方につけているようだ。


 そんな彼女が剣を一振りする。


 「なっ」


 彼女の剣から桜の花弁が俺に襲い掛かる。

花弁は俺の体のあちこちに切り傷を付けて消える。


 「おいおい、聞いてないぜ。やべぇな」


 流石の俺もこれは予想外だった。

姉さんが教えてくれたMP使い放題だけならまだ勝ち目はあったのだが、これは流石にヤバい。


 「フフフ、その顔だ。貴様のその顔が見たかったのだ」


 「そうかい、いや、ほんとびっくりしたよ。こんな綺麗なアーツはおたくにしか似合わないだろうな」


 「き、貴様はまた・・・いや、もうそのノリには乗らないぞ。さぁ終わりにしようか」


 彼女の元へと桜の花弁が集まる。

集まった花弁たちは彼女の周りを回るように舞う。そして彼女の二本の曲刀に纏わりつく。


 「これが《剣ノ舞(つるぎのまい) 桜花紅(おうかくれない)》だ」


 ただ曲刀に桜の花弁が纏わりついただけなのだが彼女の表情を見るからにそれだけではなさそうだ。

先ほどみたいな斬撃を飛ばす系の攻撃が来るかもしれない。

 

 地面に手着き地面を四角に指でなぞる。


 「どうした。降参か?それでもいいが、私としてはやはりお前をぶった切りたい」


 若干サディスティックな表情を浮かべると曲刀を交差させ十字切りの斬撃を放つ。


 「やっぱり飛んでくるのかよ。《忍法(にんぽう) 畳返し(たたみがえし)》」


 先ほど準備しておいたカウンターアーツを発動する。


 これは忍者が使うアーツで地面をひっくり返すことで一定以上の威力を持つ攻撃を無効にすることができる。


 「次から次へと・・・だが、それも終わりだ。はぁッ、はっ」


 彼女は更に斬撃を四つ生み出すとその斬撃は俺の前に(そび)え立つ地面の壁を破壊する。


 「これで終わりだ《風刃飛燕(ふうじんひえん)》」


 桜の花弁が七羽の燕の形になり俺に襲い掛かった。


 「私の勝ちだ」


 そして直撃し爆発が起きる。


 「いいや、おたくの勝ちじゃない」


 煙が晴れると俺の姿が現れる。


 「なっ、直撃したはずだ」


 「そうだな、直撃したように見えただけなんだよ。俺は事前に最初から準備していた《罪人捕牢(ジャッジメント)》を使って自身を閉じ込める。その結果、おたくの攻撃力が上回り牢屋は破壊されたけど俺は無傷ってわけだ」


 そう、俺は暴れまわる彼女を閉じ込める為に《罪人捕牢(ジャッジメント)》を用意していたのだ。

まぁ、なかなかポイントまで誘導できなかったのだが、普段は接近戦が多い彼女なのだが、今回は斬撃を飛ばしてくるという普段とは違ったスタイルを使ったせいだ。


 「なら、もう一度だ『 TIME UP! DRAW 』なっ、まさかこれを狙って」


 「当たり前だろ。俺はおたくを勝たせないとはいったけど俺が勝つなんていってないぜ」


 「嵌められた。クソッ」


 地団駄を踏む彼女、美しい青い髪も振り乱れる。


 「それで負けた方はなんでもいうことを聞くなんだが、今回はドローっていうことだから、お互いに簡単な命令しないか?」


 明らかに腹を空かしている猛獣に近づく気分になったが、彼女の近くまで俺は向かう。


 彼女が俺の方を向くとその瞳からは涙がこぼれていた。


 「えっ、ちょ、なんで泣いてるんだよ」


 「泣いてなどいない。汗だ」


 「ウソつくなよ。その、泣かれると俺が悪いみたいじゃねえか」


 よく見ると鼻も赤くなっている。


 「だから泣いてなどいない。やっと貴様と戦えると思ったのに、貴様は逃げてばかりで私のことを馬鹿にして、これ以上の屈辱を私はしらない」


 彼女はこのゲーム内で最強の女剣士と知られている。

その彼女が俺みたいな罠師に舐めプされたと思っているのだろう。確かに周りや彼女から見ると俺は舐めプをしていたように見えるかもしれない。


 「なぁ、聞いてくれよ」


 「フン、知るか」


 「俺は決しておたくを舐めたりなんかしてないし、むしろ決闘中は常におたくの行動を予想しようと考えてた。でも、その予想の半分が外れた。おたくは俺が他のプレイヤーにどう呼ばれてるか知ってるだろ」


 しゃがみ込んでしまっている彼女の正面に俺もしゃがみ込む。

顔をのぞかせるとさっきとは違いギラギラと目が輝いている。


 「いけ好かない喜劇の舞台王《悪戯必中(トリックスター)》だろ」


 「いけ好かないは余計だがそうだ、俺のスタイルは常に敵の動きを先読みし、罠を設置する。でも、おたくは俺の予想外の行動をし、半分以上もの策が無駄になった。それに、最後の《罪人捕牢(ジャッジメント)》だって、本当はおたくに使うはずだったんだぜ。ここまでいったらもうわかるだろ。俺はおたくを決して舐めたりしてない」


 口から漏れ出る俺の本音、というか半分は愚痴なんだがな。

それを聞いているうちに彼女の表情も少しずつもとに戻る。


 「ほんと、おたくを舐めるなんてとんだ命知らずだぜ。残念だが俺はおたくを舐めれるほど強くないぜ」


 「そ、そうか。決して舐めていたわけじゃないんだな」


 「あぁ、それでだ。話は戻るが俺の提案受けてもらえるか?」


 また変なことを口走る前に俺は話題を変える。


 「ま、まさか、変なことを要求するつもりじゃないだろうな」


 彼女がジト目を俺に向ける。

やめい、そんな俺が年中発情してる獣みたいに扱いやがって。


 「馬鹿ッ、そんな要求したら俺がおたくに殺されるわ。俺の要求は公式サービスが開始したら一緒にギルド創ってくれねぇか?それが無理ならたまにパーティ組んで一緒にクエスト受けるだけで良いから」


 これが、俺の目的の一つ。

彼女とギルドを創るということだ。それが無理ならパーティを組んでクエストを受けるだけでもいいが、俺としてはやはりギルドを創っておきたい。理由としては彼女の火力と敏捷性は他の六人(・・)の中でも

トップクラスである。


 「すまない、もう一度いってくれないか。聞き間違いをしたかもしれない」


 「だから、一緒にギルドを創って欲しいっていってるんだよ。それが無理ならたまにパーティ組んで一緒にクエストするだけで良いからっていったんだ」


 すると、目をぱちくりとさせるヒルデ。

予想外の要求だったのか完全に固まってしまっている。


 「それはつまり、私と一緒にギルドを作って欲しいといっているのか?」


 「そうだっていってるだろ。なんだよ、俺がこんなこと要求したらおかしかったか?」


 「いや、別に私じゃなくても他の奴らがいるだろ。そうだ、《聖騎士王(パラディン)》なんかは貴様とピッタリではないのか?」


 急に彼女の態度が変わった。

普段は凛としているのに今の彼女はどこかせわしないように見える。


 「あいつは無理だ。そもそもあいつは完璧にジャストガードするから俺の罠が発動しないときがある。

それに比べておたくは火力も高く敏捷性も高い。敏捷性なら《音速突貫(ソニックスピア)》がまだ上だろうが、なにより舞姫のアーツはソロで戦うにしても向いている。だから、おたくが攻撃している間に俺が罠を設置できるんだよ。あいつら全員と一回はパーティを組んだけどおたくと組んだときが一番戦いやすかったし、楽しかった。これじゃあ理由にならないか?」


 少し気恥しいがこれは紛れもない俺の本心だ。

他の奴らは性格にどこか難がある。特に《絶命暗夜(ジャックナイフ)》あいつだけはマジで無理。

そう考えると彼女は基本冷静で人を纏めることも得意だ。


 「し、しかし、やはり他にもいるだろ」


 「はぁ、無理にとは言わないが、やっぱり俺はおたくと・・・ヒルデさんとギルドを作りたいんだ。

ヒルデさんが一緒にギルドを作ってくれるなら心強いし」


 「・・・分かった。では私からの要求も聞いてもらう」


 悩んでいたようだが了承してもらえた。よっしゃ!


 「おう、なんでも・・・は無理だけど、多少のことならいいぞ」


 「そうか、では連絡先を交換してもらおう。私は現実世界でも少しばかり忙しい身でな、ゲームをできない日も増えるだろう。だから、連絡先を交換しておこうと思ってな」


 「それくらいなら別に要求しなくてもいいぞ、なんか他にはないのか?」


 「ほんとうか」と新しいおもちゃを買ってもらった子供のような表情を浮かべる。

彼女はほんとうに表情が豊かだ。


 「で、では、その、公式サービスが開始するまでとっておいていいか?」


 「あっ、ずりぃな。まぁいいけど、あんま無茶なこと要求しないでくれよ」


 「当たり前だ。貴様は私をなんだと思っている」


 「美人女剣士」


 「からかうなっ」


 顔を真っ赤にさせて俺を殴る。

一応避けようとは思ったが軽く受け流して受けておく。避けたら面倒なことになりそうだ。


 「それじゃ、これが俺の連絡先な。いつでも連絡してきてもいいぜ」


 「誰がするかッ、しかし、ありがたく貰っておく。これが私の連絡先だ」


 「おう、じゃあ、また公式サービスが始まったら一緒に遊ぼうな。決闘はできれば勘弁してほしいけど」


 「そのときは私が貴様をぶった切ってやるから覚悟しておけ」


 「あはははは」


 「フフフフフ」


 俺と彼女は一緒に笑った。

これが、βテスト最終日のことだった。


 そして、公式サービスが開始すると一人の初心者プレイヤーと出会った。

彼女はアリンといい、ヘルプをみているところを見つけて声を掛けた。


 ほんとうならヒルデも一緒に声を掛けていたかもしれないが、その日はログインするのが遅くなりそうと

メールが届いた。とりあえず、ヒルデに合わせるまで彼女を助けてよければギルドにも誘ってみよう。


 まぁ、アリンの初クエストの完了後に少し目を離したら《紅炎の騎士(クリムゾンナイト)》に絡まれていたので決闘すること二なったのだが、その結果、せっかく初期装備を見た目に設定して騒ぎになるのを

防いでいたことが無駄になってしまい騒ぎとなったが・・・


 他のプレイヤーからどう思われようが別にいいが、騒ぎにされるのは苦手だ。

紅炎の騎士(クリムゾンナイト)》を軽くボコってやったが。なんかナルシストみたいだったし。

ムカついたから。反省も後悔もしてない。


 「ゲームを楽しむのはおおいに結構だがよ。他のプレイヤーに迷惑かけんなよ。

次、同じような事をしたら次はもっとすごい罠に嵌めるからな・・・自分と相手の力量くらい装備を見なくても図れるようになれないとトッププレイヤーになれないぞ」


 装備を全部壊してやったあとは軽く忠告しておいてやる。

俺ってば優しすぎる。いやぁ、マジ天使だわ。


 「さて、色々面倒なことに巻き込まれたが大丈夫か?」


 すぐそばで決闘を観戦していたアリンに声を掛ける。


 「え、えぇ、というか。あんたがあのロキだったの!なんで最初からいわないのよ」

「なんでって、いわれても聞かれなかったし。それに別に俺が誰でも関係ないでしょ」

「それは、そうだけど」


 彼女は俺に顔を近づけて大声をあげる。ってか近すぎるって。


 「それじゃ、場所移すか。ここじゃ人多いし。βのときと同じならいい店知ってるし」


 姉さんありがとうな。俺、今すんごい楽しい・・・


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