VRMMORPGサービス開始2
さてさてようやく始まる少女の物語と少年の物語
「なぁ、おたく。人の連れに何してんの?」
ミカエルたちに取り囲まれ困っていた私が聞いた声はこのゲームに来て一番聞いたことのある声だった。
「ロキッ」
「よう、なんかお困りのようだな・・・って最初に会ったときとデジャヴを感じるのは気のせいか?
でも、今回は大分厄介だろうな。それでさ、おたく。人の連れに何してんの?」
「君が彼女を教えているプレイヤーかい?βテスターかと思ったら初期装備のビギナーじゃないか。
よくもそれで彼女の師を名乗ろうとしたね。ハハハ、僕だったら恥ずかしくて無理だよ」
ロキが来たにも関わらず、相変わらず彼を馬鹿にするミカエル。それを見て笑う取り巻きたち。
周りにはいつの間にか野次馬も集まっている。
「これで分かっただろお嬢さん。こいつなんかより僕の方が教えるにふさわしいって」
「こんなこといってるけど、アリンはどうなんだ?こいつに教わるか?」
「嫌よ!死んでも嫌」
私は拒否する。こんなナルシストに教わるなんて死んでも嫌だ。
ロキは良く掴めない奴だけど、サポートもしっかりしてくれるし、色々教えてくれたし。
それに比べ、ミカエルは人を貶すことしか出来ない最低クズ野郎。
確かにちょっと顔が良いかもしれない。このゲームでは顔のパーツをいじることは出来ないのでイケメンということは、現実世界でもイケメンなのだろう。しかし、性格が最悪なら顔も最低に見えてくる。
ロキの顔はあんまり見えないから分からないけど、自慢することもないし、私に経験値が入りやすいようにしてくれた。下心もないようだし、ミカエルと比べるまでもない。
「だそうだが、ということでミカサルだったか?」
「ミカエルだッ!」
「そうそう、サカエルだ。女遊びは止めないが嫌がってる奴に無理やり迫るのは男としてどうかと思うぞ」
「うるさい。お前みたいな雑魚には関係ない。そうだ、決闘をしようじゃないか。僕とお前が決闘して勝った方が彼女とクエストに行く。それでどうだい?」
「はぁ、おたく頭、大丈夫か?アリンは完全に嫌がってるだろ」
「なんだい。負けるのが嫌なのかい?それは僕が紅炎の騎士と知っての行動ならまぁ仕方ないだろうけど。それでも、女の子を前にして逃げるなんて男として恥ずかしくないのかい?」
挑発を混ぜてロキを誘うミカエルの姿は性格の悪い貴族の息子にしか見えない。
容姿だけよく、わがままに育ったとんだじゃじゃ馬だ。
取り巻きの女たちはミカエルを囲むようにしてロキを笑う。
「キャハハハ、こんなのがミカエル様と同じ男なんて情けなさ過ぎぃ」
「マジダサすぎて笑い過ぎてお腹捩れちゃうんですけどぉ」
「もう、こんな奴ほおっておいてクエストに行きましょうよ」
「そういきたいのだがね、彼女がかわいそうじゃないか。こんな情けない奴にゲームを教えてもらうなんて、ほら、アリンちゃん」
取り巻きの女たちを撫でたミカエルはそのまま私の方へと歩いてきた。
「いつあんたに私の名前を呼んでいいっていったかしら?」
流石の私もこれは流石に我慢できなくなりつい、口調が荒くなってしまう。
そんな私に少し驚いたミカエルは一歩下がる。
「レディがそんなことをいってはいけないよ」
「あんたが私に言わせてるんでしょうが!もういい、ロキ早く行きましょ」
ロキの腕に抱き着いた私(自分でも大胆だったと思う)はロキを押しながらこの場を離れようとする。
「ちょっと、待ちたまえ。僕は君に決闘を申し込む。ルールはHP全損のデスマッチ。
敗者は勝者のいうことを何でも聞くっていのはどうだい?」
最終手段にでたのかミカエルはロキに決闘を申し込んだ。
申し込まれたロキの前に『ミカエルさんから決闘の申し込みがありました YES or NO?』という
表示が現れる。
「安心したまえ、ハンデとして僕はレベルを10で固定する。まぁ、本来の僕のレベルは59と上級プレイヤーの一員なんだがねハハハ」
「はぁ、こりゃ決闘受けないと無理な奴だな。アリン悪いが少し待ってろ。すぐに終わらせる」
いきなり雰囲気が変わったロキに私は驚いたがそれでも優しい彼の目つきを見ると同時にホッとした。
さきほどまで私が見ていた彼は明るい雰囲気だったが今の彼は研ぎ澄まされたナイフのようだ。
普段は鞘に篭り自らの刃は見せないが一度抜かれた刀はその刃を持ってあらゆるものを切り裂くかの如く。
「すぐに終わらせるだって。ハハハハハこれは傑作だ。自分と相手の力量すら測れないとは・・・こんな奴をビギナーとして数えてしまっては他のビギナーに申し訳ない」
「ごちゃごちゃうるさいな。ハンデはいらん。決闘は受ける。これでいいか?」
「身の程知らずもここまで来ると清々しいね。分かった。君の心意気に免じてハンデなしでいこう。
では十秒後に開始する」
「はいはい、わかりましたよ・・・身の程知らずはどっちだよ・・・」
ロキが最後に呟いた言葉は周りの野次馬たちの声にかき消されたが私にははっきりと聞こえた。
「おーい、決闘が始まるってよ」
「初日なのに殺伐としてるねぇ~相手は・・・おっ、《紅炎の騎士じゃないか。あいつは・・・誰だ?
罠師の初期装備だと・・・こりゃ結果が見えたな」
どうやら、他のβテスターも集まってきたようで、ミカエルのことを話している。
口先だけではなく実際に二つ名持ちだったようだ。二つ名持ちの数は少なく、五万人のうち五千人いるかどうかだ。つまり、彼は最低でも五千位以内ということだ。
五千というかずのせいであまりしっくりこないかもしれないが十分の一にはいっているということだ。
『 3・2・1・0 DUEL FIGHT! 』
カウントがゼロとなると同時にミカエルは飛び出す。
腰に携えていた赤い刃を持つ剣を突き出すとミカエルの体は赤いライトエフェクトに包まれる。
これが剣の突進アーツ 《一突流星》
「ひょいっと、開始早々突進系のアーツか・・・作戦としては悪くはないが回避された後のことも考えろよ」
バク転でミカエルの突進を回避したロキはダガーを取り出しミカエルを斬りつける。
ガキンとミカエルの鎧に弾かれたロキのダガーは決定打を与えられない。
見た所ロキのダガーはアイアンダガーだ。それもロキが見た目として設定していなければの話なのだが。
「ハハハハハなんだいその攻撃は蚊にでも刺されたかと思ったよ。それにしても逃げるのだけはうまいようだね。見た所アクロバットスキルを習得しているようだ。罠師にはあまり必要のないスキルだろうけど
それでも動きは流石スキルか・・・」
「残念ハズレ。アクロバットスキルじゃなくてこれは俺の現実世界での身体能力ですぅ。
なんでもかんでもスキルに頼ってるから相手の力量を図れないんだよ。そんなんじゃ上級プレイヤーになれたとしてもトッププレイヤーにはなれないぜ」
攻撃が通じないことに全く動揺を見せないロキをミカエルは不快に思う。
「いつまでその余裕が続くのかな。それじゃあ僕も自慢の武器スキルを発動しようか」
武器スキルとは一部の武器に備わる特殊スキルである。
回復効果だったり、移動速度上昇、攻撃速度上昇、ステータス強化などさまざまだ。
「輝け煌炎剣 レーヴァテイン 《炎纏》」
ミカエルが剣を頭上に掲げそう告げると剣が炎に包まれミカエルの全身をも呑み込んだ。
炎が収まると彼の全身は赤く発光した。
「おぉぉぉ、でたぁ~紅炎の騎士の由縁たる《炎纏》だ。まさか初日からこんなもん見れるとはな」
「きゃぁぁぁ、ミカエル様素敵ぃぃぃ」
「そのまま、やっちゃってくださ~い」
野次馬が騒ぐ。それも仕方ない。武器スキルは貴重で特別なクエストをクリアするかはモンスタードロップでしか手に入れることはできない。そんな貴重な武器を使うミカエルが二つ名を貰っているのは彼自身が
武器を使いこなしているからだろう。
「どうだい、僕の《炎纏》は!このスキルは一定時間、僕のステータス全てを倍にあげることができる。
ステータスが跳ね上がった僕に君は手も足も出ないだろう」
「ハハハハハ」
自信満々にスキルを説明するミカエルにいきなりロキは狂ったように笑い出す。
「壊れたか」
「なにいってんだよ。ゼロを二倍してもゼロだろ。そんな小学二年生でもわかる問題をお前は馬鹿か・・・ハハハハハ」
周りは何言ってるんだこいつと思っているだろう。いわれた本人ですらそう思っている。
「それで、御託はもういいな。それじゃこっから先は俺のステージだ。役者も物語も全て俺が決める。
罠師の戦い舐めてたらすぐやられんぞ」
「威勢だけは凄まじいね」
飛び出したミカエルのスピードは先ほどまでとは大きく変わり圧倒的に早くなっていた。
これがステータス倍の力か。しかも敏捷とは攻撃の回避にも影響される並みの攻撃ではほとんど当たらないだろう。
「なっ」
そんなミカエルだったが突然動きが止まった。正確には彼を捕らえる黒い影が現れる。
「『影手捕縛』だ。拘束系の罠で効果は一定時間相手の拘束及びその後に
暗闇状態の付与」
「ふ、ふん。これで僕の動きを縛ったところでなんになる」
パチン
ロキが指パッチンを鳴らすとミカエルは鉄格子のなかにいた。
「『罪人捕牢』対象を魔法・アーツ無効エリアに閉じ込める」
さらにパチンと指が鳴る。
今度は何本物ダガーが鉄格子を囲むように浮かびまわり続ける。
その光景はまるでファ〇ネルのようだ。彼はニュータイプだったらしい。
「『複製掃射』効果は自分のアイテムボックスにあるアイテム一個の複製を作り
相手に飛ばす。数はMPに比例する」
ざっと数えるだけで五十は超えている。一個にかかるMPはしらないがそれでも多いと思う。
ダガーはミカエルに襲い掛かり鎧の繋ぎ目に刺さると爆発する。
「がァァァッ」
流石のミカエルもこれには懲りたのか煙の奥から叫び声をあげる。
煙が晴れたあとには粉々になったミカエルの鎧があった。幸か不幸か剣だけは残っている。
鎧の下はTシャツで先ほどまでの威風堂々とした姿は完全になくなった。
「まだ終わってないぜ『小物落下』」
次はミカエルの頭上にタライが現れ落下する。
タライは見事に直撃し気持ちのいい音が響く。
「こいつはな、スタン効果があるんだわ。騎士のお前なら勿論耐性を持ってるだろうから・・・
とどめをくれてやる『装備破壊』
最後まで残っていた剣も消滅する。
『 DUEL END WINNER ロキ 』
ミカエルのHPも全損したようですぐさま蘇生された。
フィールドに出てHPを全損した場合は蘇生ポイントに設定した街に転移されて蘇生されるが
決闘で全損した場合はその場で蘇生される。
「お、お前は一体なんなんだ?」
装備を失いTシャツとズボン姿にされたミカエルは化け物を見るかのようにロキを見る。
周りの野次馬たちもそれぞれ違った視線を向けている。
そんななかで一部のプレイヤー、βテスターが声をだす。
「お、おい・・・あの戦いかったって・・・」
「間違いないβのときに見たことあるぜ・・・」
「なんでこんなとこにいるんだよ」
「「「喜劇の舞台王 『悪戯必中』ロキだ」」」
そこで私の彼に持った疑問がパズルのピースがはまったように分かった。
「ロキ・・・βテストで誰も思いつかないような作戦で一人で第三エリアボスを撃破、およびその他のフィールドボスの単騎撃破に公式決闘戦歴27戦 20勝 7引き分け 無敗のプレイヤー・・・
罠師という攻撃力が低い職業ではあるが計算されつくした戦略で相手を掌で躍らせる舞台監督」
「はぁ~ばれちまったか。まぁ、仕方ないか。ここまでしたんだし装備チェンジセット悪神」
彼が装備のプリセットを変更すると初期装備姿から一変し体のあちこちにポーチを付けて体全体を覆う
黒いローブを纏った彼は顔もしっかりと見えた。
整った顔立ちをしており、ミカエルにも劣らない容姿を持つ少年。
それでもさっきまで私と一緒にクエストをしてくれたロキと目は変わらない。
「ゲームを楽しむのは大いに結構だがよ。他のプレイヤーに迷惑かけんなよ。
次、同じような事したら次はもっとすごい罠に嵌めるからな・・・自分と相手の力量くらい装備を見なくても図れるようになれないとトッププレイヤーにはなれないぞ」
書き溜めはここまでなので次回の投稿はしばらくたってからです。
できるだけ早く投稿したいと思います。
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