ロストアイー甘い夢ー
「きゃっ」
軽い浮遊感と共にがっしりと鍛えられた腕に抱えられる。今までは抱える側だったのに、今や抱えてもらう側だ。いきなりのことではあったけれど、その至福の時を逞しく鍛えられた首筋にしがみつくことで満喫する。
「ふふふ」
愛しい人が傍にいるだけで、これほど満たされる想いを得られるとは知らなかった。優しく目を細め、薄く微笑む彼に自然と零れる笑みで答えた――。
◇◆◇◆◇
「うおおおおおおっっっ!!!?」
叫びながら飛び起きて、すぐさま周囲の状況を確認した。
「――ここは、」
最近見慣れた寮の自室だった。少し落ち着いてくると、荒い息を吐いていたことに気付いた。
――酷い汗だ。
全身から吹き出る冷たい汗に、先程まで動転していた気持ちを静める。今、物凄いモノを見た気がする。
いや、誰だアレ。
なんだ、「ふふふ」って。
何が、「きゃっ」だよ「きゃっ」て。
……私、わ、わた、わたし、なの、か……?
『……こんな真夜中にどうしたんですか、騒々しい』
ベッドの横で待機していた桃色ウサギの可愛いぬいぐるみ、うささんが声を掛ける。可愛いウサギに扮しているけど、実態は胡散臭さしかない人工知能、AIだ。
何よりこの世界ではAIが実権を握っており、人はAIの支配下に置かれている。
まったく。
いつもいつも素直じゃないんだから。少しは労わってくれればいいものを……。
『……労わる? 労わるなら、日々裏でサポートする私を労わって欲しいものですね』
ちなみに私の思考はすべて筒抜けなのだ。
『それで、いったい何があったのですか』
それがさ、自分でもキモイと思うんだけど、なんか砂糖畑みたいな夢を見たんだよ。それも結構リアルなヤツ。思い出そうとすると身震いがするような、そんな夢。
『……そんなことですか』
「そんなこと!?」
いやいや。
いやいやいや!
いやいやいやいやいや……!
『寝ている間に見られる人の夢は、脳が記憶を整理している影響で垣間見えます。騒ぐことではありません』
それにしてはかなりのリアルな感触だったんだけど。私、今世恋人が居たことも無いし、そんな雰囲気の人も居ないよ。それにまだ子どもだし!
『世の中には特殊な趣味を持つ方が――』
「あーあーあーあーあー!」
なんてことを話し出そうとしているんだ。まったく。
あ、なんか思い出してきた。そういえば大人の身体みたいだったかもしれない。勿論美人だよ。
『最後の情報は必要ありません。ですが、そうですか。大人になった夢だったということですか?』
「うーん」
大人っちゃ大人だったけど、なんか別人みたいな性格に変わってた。そう、まるで角をまん丸に削り取った優しいママ、みたいな感じだった。
『それは異常ですね』
「…………」
……おい。
コイツめ……いいけど。
とにかく、色合い的には私だったし、声も私。間違いないよ。
『その夢のことは気になりますが、夜もまだ遅い時間帯です。夜更かしばかりで成長期を無駄に過ごすと、マリアが怒りますよ』
「……よし、寝るか」
面倒なことを面倒な人へ報告される前にさっさと寝る態勢を見直して、もう一度深い眠りへと誘われるとするのであった――、
◇◆◇◆◇
――……今日は待ちに待った気になる彼とのデートの日だ。
「よし!」
鏡の前には、何週間も前から考えに考え抜いた可愛い私が立っていた。ここまで漕ぎ着けるのに壮絶な苦労を要したのだ。負けられない戦いが今、始まろうとしていた。
気合十分に近くに用意していたバスケットを片手に取った。中身は簡単なサンドウィッチ。料理があまり得意ではないけれど、精いっぱいの家庭的ですというアピールだった。
「おはようございます!」
すれ違う近所の知人友人へご機嫌に朝の挨拶を行う。何故だか一様にぎょっとされてしまったけれど、それは上機嫌の私には些細な出来事だった。
海の見える丘が本日のピクニックデートの集合場所。早く行かなければ待たせてしまいかねない。少々景色を置き去りに、急ぎ足で進むことにした――。
「お待たせ!」
待ってないよ、と笑顔で寄りかかっていた木から彼が答える。自然と零れ出た笑みに、眩しそうに彼が目を細めた。見晴らしのいい丘を選んだだけあって、前方には見渡す限りの広大な海、後方には大きな山へと続く、綺麗な街並みが見えていた。
「わあ!」
素晴らしい景色に興奮してはしゃぐ私へ、彼が風邪ひくよ、と、彼の上着を肩にかけてくれた。彼の優しい甘い匂いがして、包まれたような安心感を得られた。
座ろうか、とさりげなくエスコートしてくれる彼にドキドキしながら、こういうところがあるから有象無象の女たちが放っておかないと不安にも考えてしまう。
私だけを見てほしい。
私だけに構ってほしい。
他の誰かに近付かないで。
その優しさは私にだけ向けて。
思わず、どろっと重たい感情が心の奥底より溢れて来てしまいそうだった。
こんなことを彼に直接言っても、ちょっと困った顔をされて、ごめんねと謝られかねない。
事実、まだお付き合いすら出来ず、やっとのことで私にデートの順番が回ってきたのだから。
彼には大きな使命があるのに、こんなことに付き合わせるなんて、と最初は考えていたけれど、日々彼を想う内に、彼女らの気持ちも段々と理解できるようになっていた。
……貴方の一番になりたい。
けれど、あなたは公平な人だから、愛を与えるのならそれも平等。苦しいけれど、ほんの一時だけでも二人だけで過ごせるのなら、あなたが他の女を同時に愛していても私は――、
◇◆◇◆◇
「っす、すとっぷストップ、ストーーーップ!!」
『今度はどうしたのですか』
「ハッ!」
またしても自分が気持ち悪い夢だった。というか、途中までは初々しいカップルの夢だったから、姿形は自分だし、いいか、と見逃してたらコレだよ。
なんちゅう優柔不断で八方美人なダメ男に騙されてるんだ、私。
目を覚ませっ……! そいつはダメだ……!
『今は目を覚ましていますが?』
「あ」
そうだった。あれは夢だった。あんまりにリアルだから、思わず自分と錯覚してしまっていたようだ。というか、どんな悪い男に引っかかってるんだって話だわ。
ハーレム系主人公に付きまとうチョロインかっ!
夢とはいえ、普通にショックだわ!
『……それほど酷かったのですか』
「それはもう!」
『ですが、見方を変えれば夢というのはその人の願望が映し出される、とも言われています』
「はあ!?」
冗談でしょ?
私がチョロインになりたがってるとでも言いたいワケ!?
『そうとは言っていません。ですが、人の欲求とはそういうものです。何か心当たりがあるはずです』
「…………」
まぁ。薄ぼんやりとしか覚えてないけど、確かに顔はドストライクだったっぽい。でもそれだけでハーレム系主人公を選ぶなんて、私は絶対にしない!
『データによりますと、女性は守られたい願望が強く、本能的に自分を守れる、優秀な遺伝子として魅力が高い人物に惹かれやすいようです』
「つまり?」
『ハーレムとおっしゃいましたが、それほど多くの女性が一人の男性に群がるのであれば、外野からは本能的にかなりの魅力を印象付けます』
あー。つまり、女がほいほい群がるならイイ男だって勘違いしちゃったわけか、私。さらに普段受けない優しさと女性扱いにコロッと行ってしまったわけか。納得。
でも、それとこれとは話が別。
何が何でもあのダメ男を諦めさせる!
『さようですか。ですが夢を変えたところで、現実には影響はございませんが』
「気分の問題なの!」
それだけ言って、今度は鼻息荒く寝る態勢を整えた。絶対に目を覚まさせてやる、という妙な気合いと共に深い眠りに誘われるのであった――、
◇◆◇◆◇
「……ごめんなさい。私やっぱり、耐えられない」
そう切り出す私の言葉に、彼が目を見開いて驚く。私が何を言っているのか分からないとでも言いたげな表情だった。
その表情を見ていると、否、自分から出る言葉を紡ぐと、胸が切り裂かれたような痛みを感じていた。
どうして、と掠れた声を漏らす彼へ、私は決定的な言葉をまだ言えずにいた。それでも、と、張り裂けそうな胸を押さえて、ハッキリと告げた。
「――もう、終わりにしましょう」
そこまで言い切って、それ以上の言葉が出てこなかった為、すぐさまその場を走って逃げだした。後ろからは唖然とした彼の気配があったけれど、いつまで経っても追いかけてこないことから、やはりその程度だったんだと、どこか仄暗く思う私がいた。
それから。
月日は百代の過客、と、そんな気分でここ数日を過ごしていた。
彼があの後追いかけてくることは無く、姿を見ることも無くなっていた。
未だに胸が針が刺さったようにジクジクとする。
この胸の痛みが在りし日の思い出と愛を思い起こさせる。
いずれは良い思い出となって私の記憶に残ってくれるんだろうか。
……分からない。分からないけれど、――
――それまでは、この痛みと向き合わなければいけないんだと、
空元気を振り絞り、今日も私は自宅警備員の仕事を全うするのであった――、
◇◆◇◆◇
「――思いっきり病んでるじゃん!?」
『…………』
別れてしまえ、とは思ったものの、まさか自分から振ったのに、こんなに病むとは思わなかった。完全に引きこもっちゃってるよ!
頑張れ私! なんかごめん!?
『お望みの結果になりましたか?』
「…………」
いや、うん。確かに結果的にはそうよ。望んだとおりだけど。
望んだとおりだったけどもっ!
……でもさ、数日しか経ってないのに、立派に病んで引きこもりになったあげく、薄ら寒い詩人思考を巡らせながら終わる結末とか、それはちょっと違うというか、なんというか。
『我儘ですね』
「うっさい!」
だって気に食わないでしょ!?
私はこんだけ愛情深く想っていたのに、いざ別れようって時になっても追いかけもせず、後から手紙で弁解やお別れを告げることもせず、いつの間にか、気まずいからってトンズラこいて居なくなってるんだよ!?
許せん、マジ許せん。滅べ、ハーレム系イケメンリア充が。
『業が深いですね』
「どっちの!?」
『そんなことはどうでもいいですが、そろそろ本当に寝付かないと、明日、いえ、すでに今日ですが、寝坊してしまいますよ』
「…………」
じとーっとした視線をうささんへ向けて、ひとしきり、荒ぶる気持ちを静める様に枕に頭を埋めた。願わくば、良い夢が見られますように――、
◇◆◇◆◇
――リーンゴーン、リーンゴーン
祝福の鐘が鳴り響く。合わせて一斉にあがる祝福の声に、幸せを噛み締める様に微笑む。隣に立つのは叶うことはもう無いと、諦めていた彼だった。
誰がこの私の驚きを代弁できるのか。これ以上の幸福、否、幸運があってもいいものなのか。一生分の幸運を使っても足りない幸福が私の全身を喜びとともに駆け巡っていた。
「幸せ……」
思わず漏れた万感の呟きに、彼がクスッと笑いを溢した。今やその笑顔も何もかもすべて私のものだ。
彼に別れを告げてからの日々を今思い起こしても、奇跡のような物語だった。
私が完全に破局したと思い、別れを告げた時から日々を自宅警備員として過ごしていたころ。彼も戦っていた。
まとわりつく有象無象どもにキッチリと別れを告げて、スッパリと縁を切っていたのだ。数が数だけに、数年かかってしまったようだけど、全てをすっきりとさせて、彼はあの運命の日から数年後、私の元へ綺麗な指輪と花束を持って、正装で現れたのだ。
そして、
「結婚しよう。君以外考えられない。待たせてしまって、すまなかった」
と、ド直球にプロポーズしてきたのだ。
当然、自宅警備員として生きた屍となっていた私は大いに動揺した。数年前までは肌艶もあって、綺麗な髪質を保って、お洒落にも気を使っていたものの、いつまでも綺麗を維持しようと足掻く自分を惨めに感じて、自己管理を怠っていたのだ。
髪は枝毛がひしめき、肌は日々の不摂生と不眠によりボロボロ、格好でさえ緩いズボンとシャツの地味な色のパジャマだった。
もはや見る影もない別人の様相だったけれど、けれど、彼は迷わず久々の外出で人ごみに押しつぶされそうになっていた私を見つけ出して、あの思い出の丘でプロポーズしてくれたのだ。
思わず夢か、と何度も頬を抓った記憶はいまやいい思い出。涙ながらに、
小国の姫は――、
ご令嬢は――、
幼馴染は――、
異国の踊り子は――、
酒場の看板娘は――、
と、覚えている限り、当時群がっていた有象無象を一人ずつ、気付けば名前を挙げていた。一人一人名前を挙げるたびに彼の眉間にシワが寄っていったけれど、私が全員を列挙する前に、全て縁を切った、苦労したけどね、と苦笑いで答えてくれた。
そもそも仲良くしていたのは利害関係が後ろにあったからだとか何とか言っていたけれど、私の為に縁を切ってくれたと話す彼の言葉のせいでほとんどボヤけて記憶に無い。
大事なのは、最初から私を選んで、私だけを愛していてくれたという部分だった。それ以外のことなんて、そんな些末事、気にすることでもなかった。
もちろん、喜んで、と笑顔で返事を返した。
それからのトントン拍子な展開に目を回しながらも、今日まで日々を忙しく、けれど幸せいっぱいに準備を進めたのだ。
途中、ライバルだった女の子たちとの友情イベントみたいなものもあったけれど、どれも彼の深い愛情を確かめるための尊きスパイスでしかなかった。
長い道のりのように感じたけれど、今日を迎えられる私はきっと、今は世界一幸せな花嫁だと言い切れる。
本当に幸運で幸せな日々だった、とはにかんでいると、
「きゃっ」
軽い浮遊感と共にがっしりと鍛えられた腕に抱えられる。今までは抱える側だったのに、今や抱えてもらう側だ。いきなりのことではあったけれど、その至福の時を逞しく鍛えられた首筋にしがみつくことで満喫する。
「ふふふ」
愛しい人が傍にいるだけで、これほど満たされる想いを得られるとは知らなかった。優しく目を細め、薄く微笑む彼に自然と零れる笑みで答えた――。
――末永く幸せにしてね。
◇◆◇◆◇
「――ていう夢をこの前見たんだけど、どう思う?」
「どう思うと言われましても……最後は幸せになれて良かったですわ、としか」
「そもそも本当に縁が切れているかどうかも怪しいですね」
「「え?」」
今は可愛い女神アメリアさんことリアと、脳筋破廉恥ことデボラとプチ女子会を開催しているところだ。議題は私がこの前見た夢の内容について。うささんとでは乙女の会話なんぞ出来ない。
「確かに本人は縁を切ったと言ってましたが、最終的にはライバルの子たちとの友情イベントとやらが発生しています。完全に縁を切ったのならありえません」
「「確かに……」」
デボラの意外にも鋭い意見に私とリアが感心したように頷く。普段はこんなに長く落ち着いて話すような間柄じゃないので、結構意外な洞察力だった。
「それに、大抵は男性側の思い込みです。女性は執念深い生き物ですから、そう簡単に諦めてくれるとは思いませんね。隙あらば横取りする機会を狙っているはずです」
「「…………」」
かなりドロドロとした予想だけど、妙に現実味があって納得せざるを得なかった。こういう時に私とリアはまだ大人になり切れず、子どもじみた思考から抜け出せていないなと思ってしまう。
その点、デボラは真顔で現実を言えるくらいには大人だったようだ。普段の言動と合わせてプラマイゼロだけど。
続けて、
「特に、今まで利害関係と思い込んで相手に接していた男が、上手く相手を納得させて縁を切ることなんて出来ないと思います。言葉一つとっても、単純に信用出来ませんね」
「「…………」」
けっ、とでも言いそうな顔でデボラが補足する。何か嫌な思い出でもあったのだろうか。なんだか怖いんですが。
しかし、何故恋愛談議で盛り上がると思った女子会が探偵さながらのリアリストな推理会になっているのだろうか。もっとふわふわした女子っぽい会話を期待していたのに、ナンだコレ?
さすがに、せっかくの女子会が残念なものになるのは忍びないので、話題を少し変えることにした。
「……現実的に考えたら確かにそうかもしれないけど、じゃあデボラはどんな人が好みなの?」
これなら女子っぽく、きゃっきゃうふふな会話を堪能できるに違いない。そうした思惑と共にデボラに聞いてみたのだが、デボラの返事はたんぱくだった。
「好みですか? 特にはありません。婚約者がいますので」
「「ええーーっ!!」」
「しいて言うならのお互いに明文化された利害関係のある人、ですね」
「「ええ……?」」
とのことだった。まったくもって夢も希望も酸いも甘いも無かった。
それに、婚約者が居ただなんて初耳だ。これはいいネタだと思って食いつき聞いてみると、まだ一度も婚約者とは顔を合わせたことも無いらしい。
利害関係云々言ってた時点で大体は予想していたけど、それでいいのか、デボラよ。
「何か問題でも?」
「いや、うーん。気にしてないなら、いいんじゃない、かな……?」
「そうですわね……」
と、最終的には纏ったのか纏ってないのか、微妙な感じで終わった。
無念なり……。
消化不良ではあるけれど、デボラに乙女を求めるのは早々に諦めて、次のターゲットを定めた。
「こほん。それなら、リアはどんな人が好み?」
「わ、ワタクシは……」
今度は自分の番だと分かると、もじもじしながらリアが恥ずかしそうに悶え始めた。
……そうだよ。
そうだよそうだよ、そうだよ!
こういうのを、私は求めていたんだっ……!
「え、と、優しい人、がいいですわ……」
「へー? どんな感じで? もっと詳しく詳しくっ!」
か細い声で恥ずかしそうに一生懸命に告白するリア。私も便乗してひゅーひゅーと声を掛ける。これこそガールズトークというものだ。
「優しいだけではいずれ物足りなくなると思います」
お黙りデボラ……!
……デボラはダメだな。
コイツは一気に現実を直視させようとしてきて、まるでうささんが人型になったみたいな返答しか出来そうにない。残念。
「え……?」
可哀想に。せっかく勇気を出したリアが涙目になっちゃってるよ。
……今更焦っても遅いぞ、デボラ。
やれやれとした心地になりながら、リアをなんとか宥めようとして失敗してさらにリアを撃沈させているデボラ。その様子を眺めながら私は深いため息を吐いた――。
しばらくして私が間に入って事なきを得ると、今度は二人の視線が突き刺さった。言いたいことは分かっている。私の番だから言え、ということだろう。
私の好みは単純だ。
「――私より強くて、絶対に誰にも負けない人」
「え……」
「それは賛成できますね」
リアは何を思ったのか、「無理なんじゃ……」という顔をしている。何を思い出したのかは分かるけど、そんなことは関係ない。
世の中上には上が居るものだ。
というか、基本的に私の周りには人外チートしか生息してない。誰か助けて。
「強さはあって困るものではありません。さすがです!」
と、脳筋は諸手を挙げて賛同していた。切実な願いなので、私の空気はシラけてたけど。
「……それでしたら。お相手候補は伝説に聞く、お伽噺の勇者様ぐらいなのではないかしら?」
「え、やだよ勇者とか。居たとしてもお断り。さっき話した夢にも出てきた、ハーレム系主人公の典型じゃんっ!」
恐ろしい予想に身の毛がよだつ。なんてことを言うんだ。さっきからチョロインにはなりたくない的な感じで話してたよね?
なんでそうなるの!
「それでは魔王様あたりでしょうか」
「それはもっとない」
それなら、とデボラが割って入ってくるけど、勇者よりもっとない相手だ。
何より、世界の半分とか渡されそうだし。結果、渡されても扱いに困るし、ほら、魔王ってやっぱ最後には討伐されてしまう宿命みたいなものを背負ってるじゃん?
それが分かっているのに破滅に寄り添うとか、どんなヤンデレカップル?
「何故でしょう? 現実的には一番お手ごろだと思ったのですが……」
「お手ごろって……というか、そもそもなんで候補が勇者や魔王なの? ほかにもっとなんかあるでしょ!?」
私が叫ぶと、デボラとリアが顔を見合わせた。さながら「え? 他に居る?」みたいな視線をお互いに交わしていた。腹立つな。
「「絶対に誰にも負けない人、です(わ)よね?」」
「う、うん」
「「いませんね(わ)」」
「…………」
ぴったりと息を揃えて答えられた。そこまでいわれると、確かに私の周りの人外ども相手じゃ、どこぞのチャンピオンや高名な騎士様でも不足する気がしてきた。
いや、まてよ。
「それなら、私って、もしかしなくともかなり理想像高い、の……?」
「「…………」」
二人が一斉に視線を逸らした。
続けて、
「これ、下手したら一生独り身なんじゃあ……」
「「…………」」
二人は沈黙を保ったまま、何も答えなかった。つまりそれが答えだ。
「「「…………」」」
結局、話が続かないのでその場は解散となった。そそくさと退散する二人の様子が私の鉄壁の心臓にひびを入れた。
とぼとぼと自分の部屋に帰ったところで、今までずっと黙って背中に引っ付いたうささんが動いた。何か言いたいことでもあるのか、と注目すると、
『…………』
ぽんぽん、とまあるいお手々で背中を軽く叩かれた。
コ・イ・ツ……!
『私は最後までお供しますので』
「……嬉しくない。でも、ありがとう」
先の未来なんて今考えてもしょうがない。吹っ切れた私は小憎たらしいウサギを取っ捕まえて、早々にベッドにもぐりこむことにした。
最近はメンドクサイと拒否されてたけど、今日ぐらいはただのぬいぐるみになって一緒に寝てくれるだろう。
段々と思考が重くなる頭に、どうせならお花畑で可愛いうさぎと戯れる夢でも見たいなと、そんなファンシーなことを考えながら丸くなって眠りにつくのだった――。
この短編は一万字に満たないですが、この短編を面白いと感じて頂けたのなら、本編『ロストアイ』もよろしければお読み下されば幸いです。
本編を知っている読者様には今後、投稿再開後の話と、ふわっと話が繋がると思います。
ストックを貯めているので返信できるかは微妙ですが、感想、評価、ともにお待ちしています。