射線上の殺意
宜しくお願いします。
護送中の殺人犯、平木が何者かに射殺された。頭部を撃ち抜かれ、脳髄を撒き散らした時には、警察官も驚いた。警察署の前は一時騒然となり、さらに物々しい雰囲気に包まれた。その技量から、ライフルの腕は確かな人物なのではないかとされた。マクラミン「TAC 50」が使用されたのではないかということが、.50BMG弾が使用されていたことから分かった。これは、ボルトアクション式の対物ライフルでおよそ人の狙撃に使うものではない上、日本の一般人の所有は報告されていなかった。装填数は五発で残りは四発と考えられている。
平木は、若い二十三歳の槇田というOLを強姦した上で、絞殺して山奥の道路沿いに捨てたのだった。当初、この平木を殺害したのは、槇田関係のものではないかと思われていたが、親族にも友人にも対物ライフルを扱えるようなものに該当はなかった。
その一週間後、また護送中の殺人犯、高井が平木と同じように殺された。警察署の前で寸分違わず頭を撃ち抜かれたのだった。.50BMG弾の使用から同じ犯人だと言われた。奇妙なのは、対物ライフルが撃たれたというのに、発射音が聞こえなかったのだ。11.8キログラムもあり、持ち運びが困難なのに目撃情報もない。三キロ程度離れた場所に山があるが、そこから撃ったのであれば、最長射程距離に400メートルと迫る。在日米軍の犯行も疑われたが、貸出履歴はないという。警視庁は捜査本部立ち上げて対策を練ることにした。
また、高井も強姦致死の容疑がかかっており、犯人はそれを狙ったものと考えられた。犯人は、「強姦」と言うものに強い執着心を持っているものと考えられた。
他に、警視庁内部では護送情報を漏らした内通犯がいて、教えているのではないかということが考えられた。また、凄腕のクラッカーで警視庁のデータベースにアクセスしているのではないかとも考えられた。すぐに調べられ、侵入された形跡が見つかったが、海外のサーバーをいくつも経由した上に、元の情報が偽造されていたため、犯人特定の手がかりとはならなかった。
そんな時、第三の事件が起こった。閑静な住宅街に銃声が響き、巡査が駆けつけたところ額から血を流した男が見つかった。日野というこれまた強姦の前科のある男だった。ただし、これまでとは違い.38スペシャル弾で撃たれていたため、警官に支給されているニューナンブM60であると考えられた。五発中四発、或いはそれ以上の弾が残っていると結論付けられた。
そして、同時期に近くの派出所の居眠りしていた警官が拳銃を盗まれており、それと考えられた。その警官は当然懲戒免職となった。
そこから一週間何も起こらなかった。そのかわり、犯人の手がかりも見つからなかった。被害者の相互関係を調べていくうちに面白いことがわかった。全員同じ大学の工学部を卒業しており、また同じサークルに同時期に所属していたということだった。警察はこれから糸口を探すべく、他のサークルメンバーも探った。
「嶋中さん。貴方はこの三人について何か知っていますか。」
「ええ。サークルのメンバーです。」
「最近射殺されたのですが、サークル内での立場はどんなものでしたか。」
「この三人は殺されたのですか。」
「ええ。」
嶋中は、驚きを隠し得ないといった感じで、口元を覆い目を見開いた。
「で、どうなんですか。」
「中心的な人物で対立もしてましたけど仲は普通に良かったですね。」
「この三人を恨んでいる人はいましたか。」
「そんな感じはなかったですが。」
「有難う御座いました。何かあればまた連絡をしてください。」
電話番号を告げ他の五人にも聴取をした。一つ、興味深いものがあったが、それは山田という青年が、本人は恨んでいないといったが、六人中三人は恨んでいたのではないかといったことくらいなものだった。明らかに矛盾している供述だったので、詳しく調べられた。当時のサークルメンバーは、山田が彼女をこの三人のうち誰かにとられたのではないかといった。
そんな中、第四の事件が起こった。何と公園で強姦されそうになっていた女性の目の前で男が射殺され、女性は無事だったのだという。その際、発砲した男の顔を見たといったのである。この大きな前進に捜査本部は湧いた。
犯人の特徴は、身長185センチくらいで細身の体に、黒いロングコートと黒いズボン、サングラスをかけていたらしい。すぐに近くのコンビニエンスストアや路上の防犯カメラが照合されたが、同じような格好の男が写っており、他の事件現場の近くにもこの男の映像が残っていた。
特徴的には山田と一致していたが、どうにもこの青年に銃は撃てそうもないと思われた。渡航履歴を調べるとハワイに一度行っただけであった。それだけでこの青年を疑うのはいけないと、現地で何をしていたのかが調べられた。すると、意外なことにこの青年はハワイで、銃の射撃体験をしていたのだという。しかも、三十発近く。これで容疑は固まったとばかりに令状が取られた。山田は逮捕された。拷問紛いの事情聴取の中、山田は黙秘を貫いた。家宅捜索をしても物証が出ない。山田は釈放されることになった。
「山田、本当は殺したんだろう?」
「・・・・・・。」
その後、山田に監視がつけられた。すると山田が何者かと頻繁に連絡を取り合っていることがわかった。携帯電話の基地局から隣町の者と連絡をしていることがわかった。令状を取り、契約者名を探ると石橋という女だった。彼女は近くのコンビニを経営しながら細々と暮らしていた。そして、何より彼女と山田は同じサークルで、山田の彼女だった谷口の親友であった。何か繋がりがあると疑い令状がとられた。監視カメラがあったため調べられた。すると丁度山田が犯行に及んだのではないかと思われていた時間に、山田が写っていたではないか。山田の疑いは晴れてしまった。そして家宅捜索をしたが、何も出なかった。
警部でこの事件の対策本部の一員であった成瀬は、この監視カメラの映像を奇妙に思った。どうしてあからさまに写り込んでいるのだろうかと。もう一度カメラの映像を見てみる。何か違和感がある。そうだ。一瞬で山田の手が肩のあたりから腰のあたりに移動しているのだ。この違和感の正体を探るべく、映像を解析させるとあることがわかった。この映像は一度中断されている。詳しく調べると撮影時間が連続しているだけで時刻が表示されていたわけではなかったのだ。
早速この店に向かうと石橋は.38スペシャル弾で眉間を撃ち抜かれていた。鑑識の調べで、そこに毛髪が落ちていた。石橋のものとは違う。一か八か山田に毛髪の提供を頼んだが拒否された。仕方がないので山田の服に付着していた毛髪をぶつかった拍子に採集し、DNA検査にかけた。すると一致するではないか。どうにかして任意提供させて逮捕しなくては。そこでもう一度任意提供を呼びかけた。石橋の遺書が見つかったと。すると山田は渋々ながら毛髪を提供した。そして、DNAが一致したため山田は逮捕された。黙秘を貫いていたがついに自白した。サークル時代に恋人だった谷口を強姦された。最初に殺した三人が犯人だったと。山田は苦しかったらしい。どうしても許せないあの三人を生かしておくのが。そして石橋は共犯者だったが最後は口封じのために殺したと。
のちに駅のコインロッカーから布に包まれた銃が二丁見つかった。山田は裁判にかけられ、死刑判決が出た。しかし、三人を殺せてスッキリしたような顔で判決を受けていた。
今も山田は刑務所で、死刑を待っている。
有難う御座いました。