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思考機械は夢を見ない  作者: 垂平 直行
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エピローグ レイジ2 人は夢を見続ける

「こんなところにいたんですか。まだ安静にしてなきゃいけないんだから、勝手に出歩いちゃダメですよ」


 病院内に作られた中庭のベンチに座り、レイジは空を眺めていた。

 澄み切った空の青さは、こんがらがった頭のなかを整理するのにはもってこいだったのである。


「リハビリも兼ねた散歩だ。多少運動しないと身体がナマるんだよ」

「また屁理屈ばっかり言って」


 ミカは文句を言いつつレイジの隣に腰を下ろした。彼女はすでに退院して自宅療養の身なので、レイジの見舞いに来たのだろう。手に持った袋にはまたりんごが入っているに違いない。


「見舞いに来るのはいいけど、たまにはハンバーガーとか買ってきてくれよ」

「またそんな不健康になりそうなものを。レイジさんは自分が病人だってことをいいかげん自覚してください」

「なんだよー。うまいものをたくさん食えって言ったのはお前だろうが。だいたい、病院食って味は薄いし量は少ないしで物足りないんだよ」

「私も何回か食べましたが、そんなことありませんでしたよ。レイジさんが普段から濃い味のものをドカ食いしすぎなんです。そのうち生活習慣病で病院のお世話になることになりますよ」

「その分カロリー使うからいいんだよ」

 そう言い捨てて、レイジは背もたれに身を預けた。


 太陽は天高く昇っている。

 天気は曇りのない快晴。お前の頭のなかとはまるで正反対だと太陽に言われているようで、少し腹が立った。


「レイジさん……」真剣な声色でミカが尋ねる。「クレマン警部を撃ったこと、後悔していますか?」

 レイジは数秒間逡巡したあと「少しな」と答えた。


「ルナは生き返ったが、クレマンのせいで一度死んだことに変わりはない。それに、ボリスだって殺されたんだ。どのみち、俺はクレマンを手にかけていただろう」


「そうですか……クレマン警部はたしかに悪人でした。ですが、同時に私たちのボスでもあったと、今でも思います」

「……ああ、そうだな」


 レイジもマークも、捜査の基本はクレマンから教えられた。入って二ヶ月のミカでさえ、学ぶところは多かったのだろう。


 遅刻の常習犯であり、いつも気だるそうな態度で捜査に臨んでいたクレマン。部下であるレイジの無礼な態度にもほとんど怒らず、くだらない冗談も言い合え、いざというときは頼りにもなった上司。その全てが『黒山羊協会』のジェネラルという本性を隠すための仮面だったとは思えないし、思いたくもない。


「……復讐は無意味だとか、死んだ人はそんなことを望んじゃいないとか、そんな寝言を言う気はありません。私だって家族を殺した犯人たちが今も捕まっていなかったら、どんな手を使ってでも捜し当てて殺していたと思います」


 ですが、とミカは泣きそうな顔で続ける。


「復讐のために、他の全てを犠牲にするのは間違っています。それで残された者はどうすればいいんですか? いったい誰を恨み、誰に復讐すればいいんですか? 


 ……一番大切なものを奪われたから、人は復讐に駆られるのかもしれません。だけど、二番目、三番目に大切なものだってあるはずです。捨て鉢になる前に、そういったものたちのことも思い出してあげてください。一番には及ばなくても、二番目、三番目にだって価値はあるはずです」


 レイジはミカと目を合わさず、胸のうちで彼女の言葉を反芻していた。


(二番目、三番目に大切なもの、か……)


 クレマンは、その二番目、三番目を捨てようとしながら、捨て切れなかったのだろう。

 最後はその矛盾のなか、死んでいくことを選んだのだ。


 目的を達するという意味では、クレマンの選択は間違いだったのかもしれない。


 だが、たとえ復讐に成功しなくても、その人生に意味はあった。クレマンを尊敬し、愛した人間はたくさんいたはずだ。決して復讐だけが彼の人生の全てではない。


 なら、レイジはどうなのか。


 ルナを失ったとき、レイジにはいったい何が残されるのか。

 それは、復讐のために全て投げ打っていいほど、価値のないものだったのか。


 頭のなかを、たくさんの人間の顔が通過していった。


(……まったく、一つさえもきちんと守れやしないのに、どうしていくつもいくつも抱えることになるんだろうか)


 それは重荷であると同時に、生きていくための活力――希望でもあった。


「俺はクレマンを殺した」レイジは地面に目を伏せながら口を開いた。「それはもう変えようのない事実だ。その是非も善悪も、全てを抱えながら俺は生きていく。その上で俺は――もう、何も切り捨てない」


 レイジは立ち上がり、空を仰ぎ見た。

 天に向かって一羽の鳥が、がむしゃらに羽をばたつかせていた。


「俺はルナを追う。今度こそ、アイツを守るために……いや、今度こそ、アイツの側で、一緒に生きるために」


 お互いが、叶わないと決め込んでいた願い。だが、二人が望み続けるなら、その願いだって叶うかもしれない。思い続けることで、二人は再会することができたのだから。


「それなら、私もお手伝いしますよ。ルナさんには――借りがありますから」

「借りってなんだよ」

 レイジが訊くも、ミカは笑ってはぐらかした。

「別にたいしたことじゃありません。ただ……私も、簡単には諦めないということです」

「……わけがわからん」


 頭を掻くレイジの鈍感さを笑うように、太陽は爛々(らんらん)と輝いていた。


 これにて、再編集版の投稿は終了です。

 一度書き上げたものとはいえ、読み返しながら再修正をする作業は精神的にも疲れました。

 というか、何度も確認したはずなのに誤字や名詞の間違いがあるのはなぜなんでしょうね……。

 自分の注意力の無さが憎いです。


 とはいえ、なんとか最後まで書き直せたので、カクヨムにあげたものよりは読みやすくなっているはず。

 時間を見て、あちらも修正版に変える予定ですが。

 

 後日、活動報告で今作の作成過程などを書ければいいなと思っています。


 それでは、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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