職員室と先生の勘違い
拙い文章ですがよろしくお願いします。
放課後。
西日が窓の外から直接差し込み、あまりの眩しさに眉間にしわが自然によってしまう。
自己紹介は服を脱いで失敗してしまったが、思いのほか一部の女子からは好意的な態度で話しかけられた。受けだの攻めだの言っていることは訳が分からなかったが、女子と話すのは緊張する反面とてもうれしい。
しかし男子からは話しかけられることはなかった。
僕が意を決して話しかけても、みんな身震いをしてそそくさとどっかに行ってしまう。喧嘩上等な自己紹介はまずかったかな。
僕は手短に帰り支度をして教室を出る。教室に残っていたのは数名だったが、その全員が最後まで目で僕を追っていた。
「正直に言ってくれ。お前はそっちの気があるのか?」
重い足を引きずり職員室にたどり着き、先生を尋ねると、いの一番にそんなことを聞かれた。
先生の顔は真剣で、返答次第では今後の僕に対する身の振り方を改めなければならないっといった雰囲気を醸し出している。
「そっちの気って、どっちの気ですか?」
しかし僕は先生の言いたいことが分からず僕は質問を返す。
すると先生は憐憫に満ちた表情で僕を見つめる。
「無自覚……か。それなら俺は、この子が正しい道を歩めるように導かなければなるまい」
もしかしたら先生は何かとんでもない勘違いをしているのかもしれない。しかし先生が何を勘違いしているかわからない以上、僕は何もできない。
僕は得体のしれないものから逃れるように話題を変える。
「先生。話ってこの話だけですか?」
「ん? いや、すまん。すっかり忘れていた。お前を呼び出したのはこの学園の案内をしようと思っていたからだ」
あれ? 説教は?
僕の拍子抜けした顔を見て、先生は僕の心を読み取る。
「もしかして、怒られると思ったのか? あのくらいうちの教室じゃ異常茶飯事だ。あのくらいで説教してたら臨時ボーナスを貰わないと割に合わん」
どちらにしろ怒られるようなことはなかったということか。一安心。
「それではさっそく案内してくれますか? 僕も夜は仕事があるので」
太陽が昇ると学生。月が出るとピエロ。
僕はお小遣いのために夜はサーカスのピエロとして出演している。
「お前と二人きりはちょっと……怖いな」
「え?」
確かに今日会ったばかりの人と二人きりは気まずいのは分かるが、先生としてその発言は何なの? しかも怖いってどういうこと?
「導くことはできる。でもそれは今じゃない。いま女子いないし……掘られたくないし……」
「学校案内ですよね? 導くって大袈裟じゃないですか?」
しかも女子って聞こえたぞ。もしかしてこの教師、ただのセクハラ男か?
だとしたら問題が起こる前に止めたほうが良いのかもしれない。と思ったが一週間で転校するので無理だね。先生が道を踏み外しませんように。
心の中で先生の未来が明るいものであるように神様にお願いしていると、後ろから一人の生徒が顔を出した。
「こんなところにいたよ~。探したんだよミカ君」
「ぼ、僕?」
不意に声をかけられて振り向くと、授業に出ずに帰ったと思っていたうんこちゃんがそこにいた。
うんこちゃんは気の抜けた可愛い微笑みを浮かべながら、男友達のように僕の肩に腕をかける。
朝にすれ違ったときはわからなかったが、密着すると彼女の胸が身体に当たり、朝のイメージとは違う女性らしさにどぎまぎしてしまう。
その様子を見ている先生は少し嬉しそうだ。いや先生、止めてくださいよ。
僕は鍛え上げた筋肉を駆使して、うんこちゃんを引っ剥がす。
うんこちゃんは一瞬、頬を膨らませて不機嫌そうな顔をしたが、すぐに気の抜けた笑顔に戻る。まるで小悪魔のように蠱惑的だ。
「僕に何の用かな?」
クラスメイトに敬語を使うこともあるまい。僕はときめいた心を隠すように平然と訊ねる。
「君ってほかの国から来たんだよね?」
その台詞に先生の表情がパッと暗くなった。なにかあるのだろうか?
僕は当たり障りのないように首を縦に振って肯定の意を示す。
「じゃ、じゃあさ――――」
「おっと待った」
うんこちゃんが神妙な面持ちで言葉を紡いだと思いきや、途中で先生が割って入る。
「アンジェ、丁度いいところに来たな。お前に頼み事があったんだ」
どうやらうんこちゃんの名前はアンジェというらしい。可愛らしい名前だ。
「頼み事?」
アンジェは僕との会話が切られ不機嫌な顔をしたが、一応先生の話なので耳を傾ける。
「今ちょうどこいつに学園を案内しようとしていたんだがな、ちょっと訳があって俺がいけなくなった。そこにお前が来た。この意味わかるな?」
「わからん」
間髪入れずにアンジェはそう言った。
先生は手で自分のこめかみを抑えうつむき、わかりやすく落胆する。
「俺の代わりにこいつに学園を案内してくれ」
先生は素直に言い募ると、アンジェはめんどくさそうな顔をしたが、先生の「案内しながらゆっくり話せばいい」という言葉に乗せられて最終的には引き受けた。
僕としてもむさ苦しいおじさんではなく、中身はどうあれ見目麗しい美少女と学園を回れるのならやぶさかではない。夜の公演なんてサボってもいいくらいだ。
職員室を出ようと踵を返していた僕たちに、先生が短い言葉で「頼んだぞ」といった。
それは僕にではなくアンジェに言った言葉だと思うが、どうも別の意味が含まれているような気がしてならない。
お読みくださりありがとうございました。