誰が為の「キビダンゴ」 3
お婆さん謹製の『キビダンゴ』を入手した桃太郎は、意気揚々と出発します。
出発時にお婆さんは「この団子は、米・麦・黍で出来ています。……他には特に何も添加しておりませんよ。良いですね?」と念を押しました。
桃太郎は「お婆さん有難うございます。それで十分です。これは『キビダンゴ』という事で、間違いありませんよね?」と、くどいくらいに確認を入れます。
お婆さんは、あらあらこの子は今更なにを言い出すのだろう、と思いましたが、「吉備の国の婆が作った団子で、しかも黍粉までタップリ使用しているのだから、誰が何と言おうと『キビダンゴ』です。むしろ『キビダンゴ』ではないと言う者がいたら、その理由を小一時間ほども問い詰めてやります。」と桃太郎に応じます。
◎『キビダンゴを入手しました!!』
横からお爺さんが「キビダンゴだけでは腹が減るだろう。これも持って行きなさい。」と、握り飯と鮒の干物も差し出しましたが、桃太郎はニッコリ笑って断りました。
「ありがとうございます。けれども、握り飯とお魚は、お爺さんとお婆さんとで、どうぞ召し上がって下さい。私には『キビダンゴ』だけで充分なのです。……これでフラグが成立しましたから。」
幾度も手を振って歩み去る桃太郎を見送って、お爺さんは懐から取り出したP220自動拳銃をしげしげと眺めます。
「やはり、これを持たせてやれば良かったかのぅ……。」
けれども、お婆さんはお爺さんの戯言などに耳を貸さず
「あの子の言っていた『フラグ成立』って、いったい何の事でしょうねぇ?」
と首をひねっておりました。
さて、桃太郎がズンズン道を進んでおりますと、生真面目そうな犬たちが何匹もの群れで街道を警備しておりました。
「ストーップ! 検問中です。」犬の警備隊長が桃太郎を止めます。「ここから先は、鬼出没注意の危険地域なので、迂回して下さい。細い道に沿って進んで頂く方が安全なので、そちらへお回り下さい。何なら、案内も付けます。」
桃太郎は「注意喚起、有難うございます。」と丁寧に礼を言います。「けれども、私の使命は鬼退治なので、鬼の出る道を進まねばなりません。」
犬隊長は桃太郎をしげしげと眺めておりましたが
「トラブル・イズ・マイ・ビジネス、というヤツですか。」と頷くと「宜しい。それでは腕っ扱きを一匹付けてやりましょう。」と一頭の巨犬を呼びました。「こいつを連れて行きなさい。こいつには狼の血が混じっていて一匹当千の強者。早太郎という漢です。」
桃太郎は早太郎と一緒に先へ進みます。
巨犬は寡黙ではありますが、桃太郎の志に感ずるものが有ったのか、機嫌良く桃太郎の先に立って周囲に注意を払っております。
しばらくすると、空気の臭いを嗅いでから、早太郎の脚がピタリと止まりました。
「早太郎君、鬼が現れましたか?」
桃太郎が問いかけると、早太郎は首を振りました。
「鬼ではありません。けれども、女をさらったり、さんざん悪い事をしてきたヤツらの仲間です。」
「ふむ。それでは、相手の出方を待ってみましょうか。一つキビダンゴでも食べて、一息入れましょう。」桃太郎は巨犬にキビダンゴを差し出します。
「誘いの隙を見せる、という戦法ですね。了解しました。頂きます。」
◎『お供の犬は、キビダンゴを食べました!!』