第71話 新人冒険者
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10/2 改稿あり 加筆あり
「おい! 危ねぇぞ! 逃げろ! いいから逃げろ!」
犬族の男は、走りながら叫ぶ。
「そのまま真っ直ぐ走れ! 真っ直ぐ進めば助ける!」
冒険者と思われる3人とすれ違い、魔法を放つ・・・冒険者の近くに居ない魔物は、左右に移動した仲間達に魔法で処理される・・・
「ケイタ君、他に魔物の反応はある?」
「いえ、近くに反応は無いです。リョウタロウさんほど広範囲は分かりませんが」
ケイタ君が、周りを見まわしながら言う。
「そっか、良かった。悪いけど、周りを注意して置いてね」
ケイタ君と話していると、助けた冒険者PTが近づいてきた。
「あの、すみません・・・助かりました」
厚手の布で出来ている帽子? 兜? のような物を取ってからお礼を言ってきた。
3人とも同じような装備で、厚手の布の服を着ている。
見た感じ大体15歳位か? ずいぶん若いな。
「うん、気にしないでいいよ。そっちは全員無事?」
こちらも、革の兜とコイフ兜を取ってから話す。
「は・・・はい、無事です。僕はナリッシュと言います。このPTのリーダーです。本当にありがとうございました」
「いえいえ、私は、このクランのリーダーのカナタです。皆さんが無事で良かった」
「私は副リーダーでミリア(リスの女)と言います。こっちの子はカリッシュ(犬の女)です。本当にありがとうございます。皆さんは高位の冒険者の方ですよね? 何故こんな所に?」
ミリアさんが、キラキラした目で頭を下げる。
「あぁ、食糧確保? かな? あと、高位の冒険者じゃないよ」
「でも、あんな凄い魔法見たことがないです! もしかして、高名な魔法使いで魔法の実験に来たとかですか?」
「いやいや、高名な魔法使いではないよ。あの先にさ、蟻の素材売れるか解らないけど回収したいんだけどいい?」
バッグを持ち上げながらいう。
「もしかして、マジックバッグですか? あ! 僕達も手伝いますよ」
ナリッシュ君が手を上げて、手伝ってくれることになり、一通り全部の素材を回収していく。
「ところで、ナリッシュ君達はここには何の目的で来たの?」
「僕達はクエストで、ラネアクロウラーの繭を取りに来たんです」
「糸ではなく繭?」
「そうです。繭になっているのを回収するのが一般的じゃないですか」
「へぇ~繭から回収するのが一般的なんだ、知らなかった」
「カナタさん、移動しながら話してください。魔物が来るかもしれませんので」
ケイタ君が、俺の肩をたたき言う。
「ああ、うん、そうだね、ごめんね。ナリッシュ君達も街に帰る?」
「そのつもりです。武器も壊れて投げてしまったんで・・・はぁ」
ナリッシュ君がうなだれながら言う。
「OK、一緒に帰ろう。でね、話はかわるんだけど、さっきの話について少し聞かせてもらって良い?」
「え? それは構いませんが・・・」
皆が集まりタダシさんが居る方へ歩き出そうとすると、カリッシュさんが急に隣を指差す。
「せせせ聖女様!!」
カリッシュさんは、隣に居るユカさんを見て驚いて大声で叫ぶ。
「その呼び方は止めてくださいお願いします。あと、足は止めないようにね」
ユカさんは、困ったように言う。
カリッシュは走ってユカさんの隣へ行くと、謝り始める。
「すすすすみません・・・あの時はありがとうございました」
「いえいえ、身体の具合はいいんですか?」
「もうバッチリですよ」
キャピキャピしながら、元気をアピールしている。
「カナタさんは、聖女様とお知り合いですか?」
ナリッシュはこちらを見て問いかけてきた。
「え? うん、同郷だよ。それは置いといて、何で繭を取るの? 糸を取った方がいいんじゃない?」
「もちろん糸が取りたいですよ? その方が高く売ることが出来ますし・・・でも、僕達はラネアスパイダーを倒すことが出来ません」
「ん? 繭とるのも倒さなきゃダメなんじゃない?」
「そんな事は無いですよ? 繭にナイフを投げて刺すと体液が流れ出ますよね? 体液を多く出すとスパイダーが繭から離れていくんです。そしたらコッソリ取っていけばいいんですよ・・・コツは魔物たちが居る場所から離れて繭になった、ハグレと呼ばれているのを狙うことですね」
「そんな風にしてとるんだ~、知らなかった」
「あと注意点としては、繭になって1日経っていない物しか出来ないってところですね」
「繭が1日経つとどうなるの?」
「硬くなって糸として使えなくなりますし、脆くなってしまって他の物にも使えません」
「へぇ~そうなんだ~」
そんな話をしていると、こちらに歩いてくる3人の姿があった。
「あの3人も仲間だから気にしないで」
「そうなんですか、複合PTだったんですね」
「そうそう、合流しちゃうね」
無事に、タダシさんたちが合流する。
「皆さんに怪我とかなくて良かった」
「そりゃあ、もちろん無事ですよ」
「それでですね、ロープの回収はまだなんです。すみません」
「了解です。じゃあ、回収に行きましょうか」
そんな事を話していると、くぅ~と誰かのおなかがなった。
「えっと、あの・・・すみません」
ミリアさんが、顔を赤くしながら顔を伏せる。
「ロープの回収が終わったら、軽く食べるか」
タダシさんが、笑いながら言う。
「了解! ケイタ君、俺と一緒に先に行ってロープ片付けちゃおう」
「はい、分かりました。じゃあ、行きましょう!」
ケイタ君がそう言って、ギフトの身体能力UP系のみを使い、2人で走り出す。
吊り橋に到着すると、結んだところを解いてばらしていく、安全のためにしっかり固定しすぎてしまったみたいだ。
もう、皆が下で待っている。つり橋を解きロープ状に戻すのにかなりの時間がかかってしまった。
バッグの中にロープを仕舞いながら言う。
「ようやく終わったね」
「そうですね。この吊橋型のカーボンナノチューブも作っておきます。何かと便利そうなので」
ケイタ君が、頷きながら言う。
「うん、お願いします。カーボンナノチューブを鋼線位の太さにして俺にももらえない?」
「解りました。付加魔法はどうしますか?」
「ああ、そっか・・・後で自分で作るから出来を見てもらって良い?」
「解りました。では木から降りましょうか」
木から降りて、皆の所に戻る。
「お待たせしました。急いで帰りましょう」
「手を洗って、軽く食べながら行くか」
「はい、了解です」
人助けとはいえ、もうかなりの魔法を見せてしまったし、なんか違う隠蔽作戦でも考えるか・・・
石鹸と流れ出る水を出して、手を洗う。
「あの・・・魔力が切れたりしないんですか?」
ナリッシュ君が、不安そうに聞いてくる。
「う~ん、どうだろう? 何とかなんじゃない? さっさと手を洗って」
手を洗い、ドライヤーの魔法で手を乾かす。
「さて、何を食べるか・・・そうだ! 肉まんを出してくれ」
タダシさんが、顎を触りながら言う。
「え!? 作ってくれたんですか? ありがとうございます」
タクミ君が、喜びの声を上げる。
「味付けはオイスターソースなどがなくて、たいした事はできなかったが、出来るだけリクエストには応えないとな」
タダシさんが、にやりとしながら言う。
それにしても、なんかこの生活になじんできたな・・・魔物の死体を見ても特に何も感じなくなってきたし・・・そんな事をぼんやり思う。
「ナリッシュ君達は、身体能力上昇とか使える?」
「え? はい、僕達全員身体能力+ですが使えますが・・・」
「OK、かけながら急いで街に帰ろう。門が閉まっちゃうとまずいし」
「は・・・はい、解りました」
「大丈夫? 食べながらでいいからね。ランニングの様にずっと走るから、きつかったら言ってね! 行くよ?」
「え? 美味しい! 何ですこれ? 美味しい!」
ミリアさんが、一口食べて追い、
「本当だ! 何ですこれ? 美味しい・・・兄さんも食べてみなよ、美味しいよ!」
カリッシュさんが、ナリッシュ君の肩をバシバシ叩きながら言う。
「ああ・・・!! 美味しい・・・やばいくらい美味しい・・・なんですか? これ」
ナリッシュ君も、驚きの声を上げて夢中で食べる。
「ほらほら、3人とも遅れてるよ! 早く来て!」
軽いランニングをするように、しばらく走っていく。
気が付くとカリッシュ達は、汗をダラダラとかき息切れしながら必死でついて来る。
「3人とも大丈夫? 死にそうだけど」
「な・・・なんで・・・平気・・・速い・・・です」
ナリッシュ君が、フラフラになりながら呟く。
ミリアさんがとうとうへたり込み、カリッシュさんも足をもつらせ転んでしまった。
「もう駄目そうだね。オンブするしかないかな?」
「いけ・・・いけます・・・平気・・・れす」
カリッシュさんは、倒れたまま顔を起こして呟く。
「そんなに息切れしてて平気なの? 門をくぐって家に帰れる? 無理な気がするんだけど」
「むうぃ・・・死むぅぅぉぉ」
ミリアさんの口から滝が出来る・・・ユカさんが綺麗にしてあげている。
その後3人を休ませ、少し落ち着いたところで声をかける。
「カリッシュさん、ミリアさん、男におぶられても平気? 気になる?」
「「平気です」」
2人は、首をかしげながら言う。
「了解。じゃあ、ケイタ君とショウマ君がいいかな?」
「ええ、構いませんよ」
ケイタ君が笑顔で言う。
「どうしてもか? いや、嫌とかじゃなくって・・・あの・・・」
ショウマ君が、頭をかきながら困ったように言う。
「ああ、そっか、そうだよね・・・じゃあ、ナリッシュ君をおんぶして上げて」
思春期真っ只中で、同じ年頃の女の子をおぶるのはハードルが高かったみたいだね。
「了解だ、すまん」
ケイタ君がカリッシュを、ショウマ君がナリッシュを、俺がミリアを乗せて走っていく。
ホンノリ戻した臭いがするのは、仕方がない・・・そんな事を思いながら。