第70話 牛肉
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急いで目撃場所へと向かっていく・・・そこは前回、加減を失敗した草原の端の方だった。
「ここら辺が目撃場所ですか?」
「そうです。あっちの方に見たことない魔物の反応と、ラネアの反応もあります。その奥にはオークの反応もありますが、少し離れていますので特に問題ないと思います」
リョウタロウさんが、指差しながら説明する。
「なるほど、魔物が結構集まってるんですね~。魔物の数が多いと、魔法の威力の加減が難しいんですよね」
「あの~カナタさん、試したいことがあるんですけどいいですか?」
ミズキさんが恐る恐る手を上げて言う。
「ん? 何ですか? ミズキさん」
「全部の魔物を纏めて気絶させて、トドメは別の魔法にしてはどうでしょうか?」
「広範囲の魔物を気絶させる魔法なんてあるの?」
「えっとですね、まずみんなで魔物の群れに魔法で水をかけます。その後で弱いサンダーを撃って気絶や麻痺させて、トドメは土魔法と言うのはどうでしょうか?」
「なるほど! いいですね! やってみましょうか! 解ってると思いますが、水は出来るだけミネラル分が多い水をイメージして下さい。簡単に言うとミネラルウォーターとか」
作戦が決定し、魔法の撃ち易い高台を探すが見つからない。
「地面で放ちますか? 高台がないですし・・・」
「水でぬらすので出来れば高台に・・・」
ミズキさんが、呟くように言う。
「それでは、木の上はどうですか?」
ケイタ君が、木を指差して言う。
「木の上? 葉っぱや枝で、魔物見難くならない?」
「木魔法で、枝とかは少しですが動かすことが出来ますし。リョウタロウさん、すみませんがロープを出して貰っていいですか?」
「はい、解りました」
リョウタロウさんはそう言うと、かなり細い黒いロープを出してくれる。
「見て解るとおり、カーボンナノチューブのロープになります。伸縮自在がかかってるロープなので、伸ばしてから木2本の間に渡すようにかけて縮めると、橋のようになると思います」
「なるほど。じゃあ、やってみようか」
端っこにある木に登り、ロープの端っこに石を巻きキャッチボールの要領で渡す。
そんな作業をしているとリョウタロウさんが、オークが向かってきていることを察知する。
「オークは全部で・・・15匹位でしょうか? 重なっちゃって正確な数字がわかりません、どうしますか?」
「そうですね~じゃあ、足場は俺とケイタ君でやっておくから、みんなで倒してきちゃってください」
「解りました。戦闘中に来られたら困りますもんね」
「オークはウィンドカッターでも倒せると思いますから、やり過ぎないようにしてくださいね」
「解っています・・・が、期待はしないで下さい」
「網目状に吹き飛ばすとか止めてね・・・まじで」
「ちっ・・・そんな事はしませんよ」
「舌打ちしたよね・・・今、舌打ちしたよね?」
「聞き間違いじゃないですか? 実験しようなんて考えてませんって」
「止めてね、ほんと・・・実験するのなら食べられない魔物でしてね」
「それはもちろんですよ!」
ミズキさんからビックリする位のさわやかな笑顔が返ってくる・・・なんか怖い。
皆が狩りに向かった後にも作業を行う。
最終的に吊橋のようなものが出来上がり、人が上ってみても揺れないし、がっしりしていた。
木魔法で枝などを動かし草原にいる牛・・・いや、バッファローの群れをしっかりと確認できることを確認する。
「なんか牛と蜘蛛が睨み合ってるね。牛の大きいのがいるのに何で戦わないんだ?」
「そうですね。ラネアスパイダーにも大きいのがいますのでその影響じゃないですか?」
「本当だ! でかいだけかな? レアかな?」
「どうでしょうか? 後で聞いてみるしかないでしょうね」
そんな話をしていると、皆が帰ってくる。
「みなさん、おかえりなさい。どうでした?」
「一回り大きいオークがいました。上位種では無いかと思います」
リョウタロウさんが笑顔で答えてくれる。
「そちらもですか、こっちもラネアスパイダーの一回り大きいのを見つけたんですよ」
「こんなに上位種やレアって頻繁に現れるものなんですかね?」
「まぁ、素材が手に入るんでいいんじゃないですか?」
「そうですね。ブラックビーフも早速やっちゃいましょうか」
リョウタロウさんがそう言って指差す。
その後、吊橋に全員乗っかり、にらみ合っている魔物を見る。
「多いですね・・・なんか気持ち悪い・・・ゾワゾワします」
ユカさんが自分の両肩を掴んで顔を引きつらせて言う。
「早速やっちゃおうよ~、芋虫を見ている趣味は無いし~・・・マジキモイ!」
アカネさんが、顔をゆがめて言う。
「了解。ミズキさん、サンダーは1人で大丈夫?」
「はい、大丈夫です。広範囲に散らばるようにしますので」
ミズキさんが、気負った様子も無く言う。
「じゃあ、みんなは水をかけるのでいいね? さっきも言ったように、出来るだけ純水じゃなくミネラル多いのにしてね」
「え~? 解んないから~・・・さっさとやっちゃおうよ~・・・マジキモイ」
アカネさんが魔物を指差して言う。
「はいはい、じゃあウォーターボールを広範囲にかけましょう。3、2、1、ウォーターボール」
魔物達は睨みあっているので、ウォーターボールはあまり気にされずに済み、ほとんどびしょ濡れになってるように見える。
「こんなもんでいいかな? ミズキさん、お願いして良い?」
「はい、サンダースパーク!」
ミズキさんは頷くと魔法を放つ。
魔物の群れ全体にバチッと静電気にも見える電気が走る。
「でっかいのだけダメっぽいですね。麻痺に耐性でもあるんでしょうか? 動きは鈍くなってるようですし倒しちゃいますね、ストーンスピア!」
2本の槍がでかい魔物2匹を串刺しにする。
「他の魔物たちは気絶しているだけっぽいから~トドメをさそ~う! キモイし~」
アカネさんが指差して言う。
気絶してるだけ? 何で魔物の状態が分かるんだ? いや、考えるのは後で好いか。
「うん、じゃあ芋虫以外のトドメを、芋虫は気絶から回復したら糸取れると思うし」
「そうだね! 糸は欲しいね! アカネちゃん、悪いけどいいかい?」
アヤコさんが苦笑しながら言う。
「はぁ・・・アヤちゃんに言われたら何も言えないじゃ~ん。しょうがないなぁ~・・・回収はカナちゃんとかでやってね~」
アカネさんがため息を吐き言う。
「うん、解ってるよ。サポートお願いね」
「気絶から回復した魔物がいたら~、倒しちゃうからね~」
アカネさんが、魔物を指差して言う。
「うん、お願いね。下には男だけで行きましょうか、さっくり止めを刺してさっさと回収しましょう」
吊橋から降りて、走って向かう。
「思いの外、地面がぬかるんでるね」
「そうだな、こんなことなら長靴が欲しかったな」
ショウマ君が、靴を見ながら言う。
「そうだね、長靴じゃなくても革靴頼もうか。色々行かなきゃ行けなくなると思うから、今の運動靴じゃちょっとね」
「ああ、もう泥だらけだな・・・」
「じゃあ、さっさと魔物の頭をつぶして回収して帰ろう」
「おう! 了解だ!」
「芋虫の間にいる蜘蛛は俺が回収してくるから、皆は牛とかをよろしくね」
手分けをして、頭に槍で止めを刺して回収していく。
今回はだいぶ上手くいったな、モンスターの損傷も殆どないし・・・芋虫も死んでるものはいない気がする・・・繭になっているものは回収しておくか。
倒した全部の魔物を回収し、ラネアクロウラーが気絶から回復するのを待つ。
「アカネさん、何で魔物が気絶してるだけってわかったの?」
「え~? 何となく~? 魔物を見ると大体わかるじゃ~ん」
「普通は解らないよ? 動物の心の効果なのかな?」
「ん~? そうなの~? 便利だしいいんじゃな~い?」
気絶から回復し、もぞもぞと動き出し糸を吐き出すラネアクロウラーたち。
「おっと、そろそろ回収しちゃいましょう。リョウタロウさん、いいですか?」
「え? あ! はい、いいですよ」
「どうしたんですか? ぼーっとして」
「あちらから人が来ます。冒険者だと思いますが、かなり遠いです。急いでこちらに向っているようですが、遠すぎて詳細はまだ不明です」
リョウタロウさんが指差しながら言う。
「あらら、じゃあ、回収急ぎましょう」
身体強化のギフトと魔法を使い、糸を回収しリョウタロウさんに渡していく。
「やはり、あっちの方から真っ直ぐこちらに向って来ます。モンスターを引き連れてるみたいです」
「了解! 回収作業は1人で大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です! 皆さんは、行って来て下さい」
リョウタロウさん1人残すと言うと、タダシさんとヨシさんが残ってくれることになった。
やはり1人だと何かがあった場合に怖かったから、残ってくれて助かったな。
リョウタロウさんが言っていた方向へ行くと森との境に出る。そして、若く見える獣人の3人PTが蟻に追われていた。
全員武器すらも捨てて、必死に逃げてくる。
「逃げろ! ジャイアントアントだ! 追われてるぞ!」
男の冒険者の大声がこちらに聞こえて来る。
「貰ってもいいか~い?」
俺は、とりあえず男に聞いてみる。
「何でも良い! 早く! 逃げろ~!」
「ねぇねぇ、蟻って食べられないよね? どうなんだか解る?」
色んな事に博識のケイタ君にたずねる。
「いえ、全く解りません。蜜蟻は食べれると聞きますが、魔物なので肉食だと思いますし・・・食べるんですか?」
ケイタ君は、こちらを向き聞いてくる。
「いや、食べたくないけど・・・って、凄く多くない? サンダーでやっちゃおうか」
「待って下さい! ウィンドカッターの方がいいです。森が燃えちゃいます」
ミズキさんが、すかさずこちらに言う。
「そうだね、了解。3人の後ろは俺とショウマ君、ケイタ君で倒すから、皆に当てないようにしてね。左右に分かれたりして射線を取るとかさ、いい?」
全員了承してくれ、俺たち3人は冒険者のもとへ駆けて行く。




