第66話 洋服の作成依頼
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9/12 改稿あり 加筆あり
大将軍様の私室の前に来て、扉をノックする・・・中から「どうぞ」という声が聞こえてくる。
中には椅子に座っている大将軍様と、隣に立っている奥さんがいた。
俺とユカさんは「失礼します」と言ってから中に入り、扉を閉める。
「顔色が良くなりましたけど、御加減はいかがですか?」
ユカさんが、大将軍様に近づき言う。
「体調はいいのだが、上手く動けん・・・もどかしいな」
大将軍様は右手を胸まで上げ、握ったり開いたりしながら言う。
「寝たきりだったんですから仕方ないですよ、御大事になさってください」
「少しいいかしら?」
大将軍様の奥さんがユカさんの近くに行き、肩に手を置いて言う。
「え? はい、何でしょうか?」
「この洋服は何処で買ったものなのかしら? はじめて見るデザインですわね」
「え? あ! これは、アヤコさ・・・仲間が作ってくれました」
「それを私も作ってもらうことは出来るのかしら?」
「あの~・・・カナタさん、出来ますか?」
「そうですね、聞いてみなければ何ともいえませんが、頼めばたぶん作ってくれると思いますよ」
「それは本当!? 嘘じゃないわよね?」
大将軍の奥さんが、目を見開いて言う。
あぁ、何処に行っても女性はお洒落がすきなんだな・・・というか怖い。
「ユカさん、折角なので隣の部屋などに行って、嫌じゃなければ下着も見せてあげられませんか?」
「え? え? 何でですか?」
「アヤコさんは、この国にはレースとか無いと言っていました。洋服を作るなら下着も見て貰い、一気に作ってもらうのがいいと思います」
「はぁ・・・そうですか・・・・いいですよ、分かりました。では、こちらへ」
ユカさんはあきらめた様に言い、2人は、隣の部屋に向かっていった。
「いや、あの・・・すまんな、いつもはあんな事は言わぬのだが」
大将軍様は、困った顔をしてこちらに言う。
「いえ、女性は、色々気になるものですよ・・・」
隣の部屋で、奥さんがキャーキャー言っている。どうなってるの? とか、これ作れるの? とか。
「いや、本当にすまん」
大将軍様は、小さく頭を下げる。
「いえ、仕方がないですよ」
その後ユカさんが、疲れた顔で、奥さんが満面の笑みで出てくる。
「カナタ君といったかしら? どの位で出来るのかしら? お金はいくらでも出すわ、どうなの? 出来るの?」
奥さんはすっごい笑顔だが、プレッシャーを感じる。
こんなことなら、魔物を目の前にした方がまだマシなんじゃ・・・
「私が作ってるわけでは無いですし、一人ひとり胸のサイズも違うので調整が必要ですし、アヤコさんに聞いてみないと」
「直ぐに、呼んで来てもらえないかしら? 義姉さん達にも言っておかなくっちゃ」
「あの・・・もう夕方です。明日でもよろしいでしょうか?」
「何を言ってるのかしら! 緊急を要するのよ! 良い? 今から連れてきて貰えないかしら?」
今日もみんなで晩御飯を食べれると思ったのに・・・仕方がないか・・・
「解りました、今から行ってきます。ですが、確実につれてこれるとは思わないで頂きたいです。よろしいですか?」
「いいわ! その時はこちらからそちらに向かいます! 頼みますわよ!」
まじかよ・・・結局絶対今日になるのか・・・アヤコさん、ごめんなさい。
「はい。では、ユカさん帰りましょうか」
「はい、解りました」
「なんか・・・すまんな」
大将軍様が頭を下げる。
「あなたは黙ってて」
奥さんは、大将軍様を睨み付ける。
大将軍様はシュンとして、椅子に座りなおした。
この世界でも奥さんの方が強いのかもしれない・・・まぁ、女性が強い方が良い国って気がするからいいだろう。
ユカさんと一緒に屋敷へ戻り、アヤコさんを探す
「ユカさん、アヤコさん何処にいるか分かります?」
「地下じゃないですか? 工房とかは、前に地下にするって言ってた気がしますし」
「そんな事言ってた気がしますね・・・行って見ましょうか」
地下の1室を訪れる。ノックをすると「どうぞ」と返ってきた。
「アヤコさん、いいですか?」
「おかえり。どうしたんだい? そんなにあわてて」
アヤコさんはレースを編んでいる手を止めて、こちらを見る。
「ただいまです。実は大将軍の奥さんにアヤコさんが呼ばれてまして」
「どういうことだい? 会った事も無いのに」
「ユカさんの洋服を気に入ったみたいです。下着も一緒に欲しいみたいなんですが、大丈夫ですか?」
「そう言うことかい、もちろんいいよ。明日行けば良いのかい?」
「いえ、あの、今から・・・」
「へ? 今からかい? う~ん、訳有りって事かい? じゃあ、仕方がないね」
「はい、お願いいたします。サンプルとかあれば持って行って欲しいのですが・・・」
「解ったよ、色々と箱に詰めるから少し待っててくれるかい?」
「はい、了解しました」
タダシさんに遅くなることを伝え、アヤコさんを連れて王城へ。
門番の人と顔見知りになってきたが、ちゃんと許可証を見せている・・・小説や漫画だと顔パスが多いが、仕事をちゃんとしているところに好感が持てるね。
大将軍の部屋に行こうと思って進んでいると、大将軍の奥さんが待ち構えていた。
「お待たせいたしました。こちらが洋服製作者のアヤコさんです」
「よろしくお願いします」
アヤコさんは、頭を下げながら言う。
「いきなり呼び出したりして申し訳ないわね。詳しい話は部屋でしましょう、こっちよ」
別の部屋へ案内されると、中には鼠の獣人と狸の獣人の女の人がいた。
「お義姉様方、連れてきたわ。本当に驚くわよ~」
大将軍の奥さんは、ニヤリと笑う。
姉さん? ってことは王妃様なのかな?
「そんなに凄いの? 見たところ、可愛いとは思うけど・・・・そこまで?」
ネズミの獣人の王妃様が、首をかしげながら言う。
「そうね、可愛いと思うけど・・・」
狸の獣人の王妃様も首をかしげながら言う。
「申し訳ありません、テーブルにサンプルを置いてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん。お義姉様方もいいですわね」
大将軍の奥様が、こちらに言う。
そう言われ、生地やレース、ショーツやブラなど、色々置いていく。
王妃様2人は、口をぽかんと開けてものすごく驚いた顔をしている。
大将軍様の奥さんは、何故かものすごいドヤ顔なのだが・・・
「どう? 凄いでしょう!」
大将軍様の奥さんは王妃様2人に向けて言う。
「これは何? 魔糸なのよね? でもなんでこんなにピカピカして綺麗なの?」
狸の王妃様は、布を手に取り興奮している様に言う。
「こっちもよ、これは花? 布なのよね? どうなってるの?」
鼠の王妃様は、マジマジと見ながら言う。
「これは、ビロードといって特殊な織り方で光沢を出しています。こちらはボビンレースと言って、織りながら模様を作っていくものです。作成には時間がかかるため、小さいのですが」
「アヤコさん、下着の話とかになると思うので一旦出ますね」
「わ・・・分かったよ。でも敬語とか苦手だよ・・・大丈夫かい?」
アヤコさんは顔をこわばらせワタワタしながら言う。
「技術の説明ですから大丈夫ですよ、そんな訳でお任せします」
「仕方ないね、いつもの喋り方でいいんだね」
「はい、お願いします。皆様、男の私に聞かれたくない話が出るかと思いますので、外に出ています」
俺はそう言うと外に出る。気持ちは楽になるが、結局王城にいるため気は休まらない・・・
さて、どうすっかねぇ~・・・暇つぶしになることとかないかな?
窓の外をぽーと眺めながらそんな事を考えていると、足音が聞こえてくる。
「カナタではないか、夜遅くにどうしたのだ?」
陛下が笑顔でこちらに向かってくる。
「奥様方に洋服について聞かれたので、製作者を連れてきたんです」
「なるほど、重要な案件があると騒いでいたのはそれか・・・すまんな」
「いえ、女性はいつでも美しくありたいものですから、仕方がありません」
「その服が作った物か? 出来はいいと思うが騒ぐほどの物か? 分からん」
「男の我々には理解できないことなのでしょう。陛下、この下に着ているインナーなのですが、特殊素材で出来ています。見てみますか?」
「面白い、見せてみろ」
「では、上着を脱いでもよろしいですか?」
「構わん」
服を脱ぎ、カーボンナノチューブのインナーを渡す。
「光沢があるが・・・そんなに凄い素材なのか?」
「百聞は一見にしかずと言いますし、試してみるのが早いかと思います。剣を振るえる所はございますか?」
「うむ、では庭に行くぞ」
「畏まりました」
城の裏手にある庭に出る。そこには剣の跡でボロボロで壊れそうな案山子や、鉄の大剣が置いてあった。
「ここでいいか?」
「はい、案山子にこの服を着せますので、そこの大剣で思いっきり切ってください」
「ん? どういうことだ? 案山子が壊れるだろう?」
「物は試しです、お願いいたします」
「薬の事もあるからな、一度試してみよう」
案山子にインナーを着せて、袖の部分を持ち魔力を流し離れる。
「お願いします」
「解った、試してみるとしよう」
魔力は、思いっきり補充しておいたから、すぐに魔力切れにはならないはずだ・・・たぶん。
思いっきり案山子に大剣が振り下ろされる・・・が、案山子に当たっても、音や振動が少しするだけで、壊れたりはしなかった。
「ほほぅ、身体強化を使ってもいいか?」
「はい、どうぞ」
身体強化を使っても同じ結果となる。
「これは素晴らしい! これを・・・この服を何処で?」
「皆で作りました。しかし、このインナーにも難点があります」
「何だ? 費用がかかりすぎるのか?」
「いえ、素材の力を引き出すときの、魔力の消費が激しいこと、もう1点は・・・そうですね、剣で叩かずに案山子を押して見て下さい」
陛下は剣を案山子に当てると、ゆっくりと押す・・・すると案山子は、壊れてしまった。
「このように、衝撃以外は消せません」
「なるほどな、それを差し引いても、素晴らしい服なのだがな。魔力量の乏しい我らには、過ぎたる物と言うことか」
「もし使えるようになれば、お渡ししますよ。ただし、素材が特殊なので多くは渡せません」
「いいのか? この素材はダンジョン産では無いのか?」
「素材はダンジョン産と言えますが、どのダンジョンで取れた素材かは言えません。魔力の多いフランソワーズ様の装備は作り始めています」
「そうか・・・何から何まで、すまんな」
そんな話をして、別れ・・・アヤコさんを連れて屋敷に戻る。
これだけ利益を差し出せば悪いようには出来ないだろう・・・そんな事を思いながら眠りに就く。