第62話 骨細工の手伝い
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ギルドに行き、セレネさんにお金を渡したときに、紅金貨の事を知らなかったみたいで、久々にギルドマスターが出てきた。
お金の価値を聞かされると青ざめていた・・・そりゃそうだ・・・
お金を崩して貰い、金貨を5枚ほど残し、後は全部預ける・・・まだ結構時間があるなぁ。
ミミリさんのところに行き、食堂を建てるとしたら幾ら位かかるのか、聞いてこよう。
「ミミリさ~ん、いますか?」
入り口近くにはいないようだ・・・奥の工房にいるのかも?
そう思い奥の工房へ行くと、左右の壁際一面にテーブルが置かれ、見知らぬ獣人たちがせっせと何かを作っていた。
こんなに弟子みたいな人達っていたっけ? 何だろう? なんかあったのかな?
いや、悩んでいても仕方ないか・・・
「ミミリさ~ん」
「カナタさん! いい所に! 手伝ってください!」
ミミリさんがこちらに気が付き、中から手招きをする。
「何があったんですか? こんなに人多かったでしたっけ? いつも数人しかいなかったような・・・」
「人が足らなすぎて、雇ったんです・・・てんてこ舞いなのですよ!」
「大きな仕事ですか? 城を建てるとか」
「カナタさんから貰った櫛と、この髪飾りがあるじゃないですか、それを真似して作ってみたんです。
あ! ちゃんとデザインは変えましたよ。そしたら売れに売れてですね・・・行商で来ている人が大量発注したんです。
櫛は、なんと! 5000個・・・髪飾りについているチャームをペンダントにしたものは、2000個の発注・・・まだまだ納期まで時間があるんですけど、行商の人が帰るまでに出来るだけ作っておきたくて・・・」
「おお! やったじゃないですか! しかも、弟子がこんなに増えて」
「そうなのです! カナタさんに教えて貰った工房に行ったら、優先的に彫刻刀作ってもらえて・・・しかも魔鉄製! 安くしてもらって普通の鉄の値段に!
調子に乗って鋸とかノミ・カンナ、他の物まで発注しちゃいましたよ・・・カナタさんって何者なんです? 知り合い多すぎませんか?」
「一般人ですよ。でも、俺も色々と依頼しようと思ったんですけど、無理っぽいですね」
「何の依頼です? 言ってみてください」
「いえ、食堂を作ろうと思いまして・・・その見積もりを取れないかと・・・」
「大きい物を作るお仕事なのですか・・・残念ですが厳しいです・・・ごめんなさい」
「いえいえ、忙しいのはいいことですよ・・・もしかして、ヒリスさんも忙しいんですか?」
「そうでした! そうですそうです! ヒリスちゃんのほうを手伝ってあげて! グランドタートルの削りだしに、すっご~~く苦戦しているみたいなの」
「あぁ・・・やっぱりですか・・・解りました。工房にいるんですか?」
「はい、そうなんです・・・助けてあげられるのはカナタさんしかいません! よろしくお願いします!」
そう言われ、ヒリスさんの工房を訪れる・・・いつにもまして、骨が散乱している・・・
かなり切羽詰ってるのかな?
「ヒリスさ~ん、いますか~?」
「カナタさん!? 待って待って!」
ヒリスさんが声に気が付き、工房の奥から駆け出してくる。
「助けて! 死んじゃう!」
「ずいぶんいきなりですね・・・ミミリさんからも手伝うように言われてますので、少しだけ手伝いますよ」
「ありがとう・・・カナタさんの作った物を真似て作らなきゃ良かった。忙しすぎてホントに死んじゃう・・・」
「でも、奥にいる人たちは弟子ですか?」
「そうよ! 羨ましいでしょ!」
かなり無理してる表情だな・・・たぶん人手が足らなさ過ぎて雇ったんだろうなぁ・・・
目の下に解りやすくクマも出来てるし・・・弟子が育つまで頑張れ、ヒリスさん。
「ええ、そうですね、削り出しを手伝いますよ。報酬は、鼈甲を俺にも下さいね」
「助かる助かる・・・男手がほしかったんだ、こっち来て」
ついて行くと、グランドタートルの甲羅が、10個ほど置いてある。
「多くないですか? どの位作るんです?」
「櫛1000個、ペンダントヘッド500個、腕輪500個、加工前の鼈甲が沢山・・・」
何その沢山って・・・どんだけ曖昧な依頼なんだよ・・・
「宝石じゃないんだけど、鼈甲で魔晶石ができるみたいでね、大量に欲しいんだって」
「それで、この山ですか・・・」
「そう。しかも、ギルドにも討伐依頼を出してるのよ・・・商人達は有り難がっていたわ」
「売れるからですか?」
「ううん。たまにグランドタートルが出て、街道が塞がれちゃうから間引きになるって」
「なるほど。見てても仕方ないんで、削り出しやっちゃいますね」
「うん、お願いします。私は中の子達を見てくるから」
「きり良くなったら、呼びますね。早めに帰らないとなので」
「うん、お願いね」
さてと、一人っきりだし、魔法をガンガンに使ってさっさと終わらそう。
土魔法で台を作り、亀の甲羅を乗せてウィンドカッターの応用で削っていく・・・身体に当たったりすると痛いから風の壁も発動しておこう。
それにしても硬いな・・・真ん中が1番硬いのか。端材しかやったこと無かったからなぁ・・・難しいもんだな。
1回でリンゴみたいに綺麗に剝ければ楽チンなんだけどなぁ・・・無理か・・・
色々と試行錯誤をしながら削る・・・甲羅側と腹側、しかも甲羅によって硬さが違う・・・魔法のいい訓練になるな。
そんなことを思いながら、甲羅を何個かに分けて削り出していく・・・もしかして、甲羅丸々1つ鼈甲になるんじゃないのか? なんかすごそうだな・・・やってみるか。
そんなことを思い、1つ分解をせずに削り出していく。
うん、結構いい出来だな・・・あ! やばい! 時間!
ヒリスさんに言って帰らないと・・・そう思い作業場に向かう。
「ヒリスさん、すみません帰ります。5匹分削り出したんで、運ぶのとかやって下さい」
「はぁ? どういうこと? どうやってんの? 教えてよ!」
「すみません、時間がないので帰ります、ごめんなさい」
「まって! ちょっと! 教えてよ! もう!」
真面目に早く帰らないとヨシさんに怒られる。
後片付けを簡単にしかしないで来たけど、かなりの量を削り出したんだし、大丈夫だろう。
そんな事を考えながら、急いで走る。
まだ夏だから外は明るいが、たぶんギリギリか・・・いや、間に合ってないかも・・・ヤバイ・・・何となくだけど、1番敵に回しちゃいけない気がするヨシさんに怒られる。
魔法を使うか? いや、不味い・・・とにかく急がなきゃ。
そんなこんなで屋敷に着き、ダイニングへ。
「ただいまです、遅れちゃいました?」
「大丈夫、ギリギリよ。手を洗っていらっしゃい」
「はい、直ぐ行って来ます」
「ねぇねぇ、アカネちゃん、カナタさんてなんでヨシさんを怖がってるの?」
コノミさんがアカネさんに聞いている。
「え~? そ~ぉ? なんかあったのかな~?」
アカネさんも疑問に思いながら答える。
聞こえてますって。良く解らないんだけど、逆らっちゃいけない気がするんだよ・・・何でなんだろう?
手を洗って帰ってくると、皆席に着いていた・・・サラッとフランソワーズ様がいるところが怖い。
「カナタ君、先にみんなに説明してね、良い?」
ヨシさんが、セードルフたちの事の説明をするように言う。
「はい。えっと、聞いてると思いますが、冤罪で捕まっていた執事の人を助けて欲しいとグロスさんに言われて、助けると同時に雇いました。
これから屋敷の中の事をやっていただく2人、セードルフさんとミランダさんです」
「命を旦那様より助けていただきました。誠心誠意御仕えしますので、よろしくお願いいたします」
セードルフさんは大きく頭を下げる。
「夫と同じように、感謝の言葉では足りない位感謝しております。これからよろしくお願いいたします」
ミランダさんも大きく頭を下げる。
パチパチと拍手が鳴った。
「カナタよ、新薬の話もした方がいいのでは無いか?」
フランソワーズ様が、こちらを向き頷く。
「そうですね・・・えっと、ユカさんは知ってるんですけど、ペニシリンが死病の治療薬だったので作成し、この国に作成方法を売りました。
さらっと言いましたが、これは機密事項ですので他の人には話さないで下さい。
話したら、他国から拉致される危険性もありまので、本当に絶対に話さないで下さい」
「え? じゃあ、王城に呼ばれたのってカナタさんなんじゃないんですか? 私達も行った方がいいのですか?」
コノミさんが軽く手を上げて言う。
「えっとね、料理、防具、ポンプ、兵士・冒険者の治療などで呼ばれてるらしくて、全員参加」
「それじゃ~私達関係ないんじゃな~い? 魔道具と洋服だし~」
アカネさんが、こちらに向かって言う。
「いや、洋服も見てみたが素晴らしい。あのような細かい細工など洋服で出来るとは・・・
あと、防具の魔道具もオリジナルの魔道回路なのだろう? あの様なものは見たことがない・・・小さい水晶で魔晶石を作り出すなど、後世に残る画期的なものだ・・・来てくれぬか?」
フランソワーズ様が、アカネさんを見て言う。
「あゃ~。フランちゃんに言われたら~、嫌って言えないじゃない」
「すまんな」
「はい! 話が終わったようだし、食べましょうか!」
ヨシさんは、手を一度叩くとこちらに向かって言う。
「持ってきたぞ! 今日はスペアリブとサラダとピザとミネストローネだ。御代わりもあるぞ!」
話が終わるタイミングと焼きあがるタイミングはどうやって合わせたの? てか、本当に何の料理人だったの? マジで気になるんですけど!
そんな事を考えながら、久々の全員での談笑に花が咲く。